お題:地獄の昼 制限時間:15分 読者:62 人 文字数:1024字

ピンクのゲ○
 楽しかった給食の時間は地獄と化した。
 僕は廊下に立ちつくし、窓から中の様子を見ている。
 隣では杉山さんが座り込んで震えている。武田くんも焦点の定まらない目をしている。石井さんは僕と同じように教室の中を見ているけど、何だかその目はまっすぐで、きっと僕とは違うことを考えているのだろう。
 教室の中は、今や給食のメニュー、コッペパンとおひたしと肉じゃがと牛乳と、廊下にいる四人以外のクラスメイトと担任の先生合わせて26名、机と椅子とランドセルと掲示物とその他小学校の教室にあるもの全部、そしてそれをぐちゃぐちゃにかき混ぜるピンク色をしたゲル状物質の海になっていた。
 ピンクのゲル状物質は、どこからそんな力がかかっているのか、ゆっくりと時計回りに回っている。ゲル状物質が回る度に、中にいる具、つまりは机とか椅子とか給食とか先生やクラスメイトといった人間とかを、グズグズに溶かして一緒くたにしていく。
 さっきまで浮いていた大島君の坊主頭も、もう見えない。ゲル状物質のかさはいよいよ増してきて、開いている外に面した方の窓からそろそろ流れ出すんではなかろうか。
「窓、閉めた方がいいかもね」
 石井さんがボソリと言った。意外や、同じことを考えていた。
「アレは意志を持っている。だから、外に出たら人を襲うかもしれない」
 その言葉に、杉山さんが「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げた。目の前の惨状はともかく、せっかく逃げ果せたのに、という意味の「ひぃっ」だろう。
「アレは、一体、なんなんだよ……」
 武田くんは石井さんの顔を仰いだ。体格の大きい彼だが、座り込んでいる以上に今は小さく見える。本来は小心者なのかもしれない。
「わからない。でも、明確に意思を持っている」
「わからない、ってお前……」
 立ち上がろうとして、しかし武田くんは上手くそうできなかった。腰が抜けてしまっているのだろうか、少し震えている。
「わからないのだから、仕方ないでしょう」
 石井さんの瞳は、何だか僕らとは違うと思っていたけれど、その理由がわかった気がする。
 彼女は、目の前で起こっていることに対して酷く無感情なのだ。
 僕や武田くん、杉山さんは廊下側の席だから脱出できた。それでも、あの列に座っていた全員ではない。対して、石井さんは真ん中の方の席に座っていた。
「危険だということしか、わからないわよ」
 あのピンクのゲルは、石井さんの口から吐き出されたものなのだ。

 
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