お題:ラストは誰か 必須要素:首相 制限時間:1時間 読者:182 人 文字数:2352字 評価:1人

十物語
 修学旅行の夜、学年の何人かで、消灯時間を過ぎてから百物語をしようということになった。
 とはいえ、百話も話をするとなると一話三分と考えても五時間はかかる。
 それは流石に時間がかかりすぎるということで、一人一話ずつ話そうということになった。
 ということで集まった参加者は十人。これぐらいならば、一時間か二時間で片が付く。
 ロウソクは持ち込めないので、各々懐中電灯を持ってきた。部屋の電気は消して、懐中電灯の光だけにする。一人一話話すごとに持参したそれを消していくという趣向だ。
 教師の見回りが終わった後、言いだしっぺの野田の部屋に十人が集まり、話をしないものは入れ替わりで別の部屋に行く。もちろん、見つからないようにだ。
 こうして、百物語ならぬ十物語の舞台は整えられた。

「親戚のおばさんが教師なんだけど、教育実習で行った学校で、家庭科室に……」

「お姉ちゃんの友達がね、昔水害があった町から転校してきたらしいんだけど……」

「兄の知り合いが、近所の橋でいつもたそがれてる女の人に恋をして……」

「バイト先の社員さんが、お父さんが行方不明になってて、今は死亡扱いになってるんだけど……」

「友達のお姉さん、交通事故で記憶をなくしたらしいんだけど、生死の境を彷徨ってる時に……」

「友達のお母さんがね、その子が幼稚園の頃に失踪してるんだけど、それが……」

「中学の時の先生の話なんだけど、その先生が前勤めてた学校で、遅刻をよくする女の子が……」

「小学生の頃、同じクラスのヤツがキャンプに行った時、滝の前で……」

「うちの地元に『願いの叶う黒板』がある廃校があってさ、そこで……」

 いよいよ十話目、トリを務めるのは野田だった。
 残った懐中電灯は、彼の手元にある一つだけ。幹事ともいうべき野田は怪奇感を煽るためか、光量の小さいペンライトを持ってきていた。頼りない明かりの中で、その口を開く。
「みんな伝聞の話が多かったけど、俺は自分で体験した話をするよ」
 百物語の最中は、話者以外は話してはいけない。誰かが唾を飲む音が聞こえる。
「うちのばあさんがさ、すごくこういう怪談とか、幽霊に詳しかったんだ。何せ、昔は視える人で通ってて、そういう相談を受けたりもしていたくらいでさ」
 祖母の力は、微弱ながら野田にも遺伝していたらしい。
「俺も小さい頃は、おかしなものをよく見たよ。住んでるマンションの踊り場にうずくまってる女の人とか、エレベーターの中でちょっと浮いてる半透明のおじさんとかさ」
 野田はそういうものを気味悪がったりはしなかった、という。見えるのが普通だと思っていた、とも付け加えた。
「でも、あんまり無邪気に近づいたりするもんだからさ、ばあさんが心配して……」
 幼い野田にこう言ったそうだ。
「人間と同じ形をしていても、それは最早人間ではない。死者は生きている人間とは違うところにいるものだから、関わるのはよくない。世界が違うのだから、ってさ」
 その時、野田はこう尋ね返したという。
「じゃあ、どうやったら見分けられるの、って。当時の俺には区別がつかなかったからさ」
 すると、野田の祖母は少し低い声でこう言った。

 首の上、相を見よ。

「『相』っていうのは、ものの形とかのことだけど、この場合は首の上、つまりは顔なんだって。死者と生者の違いは顔に現れるんだ、って……」
 野田はぐるりと一同の顔を見回した。頼りない明かりの中に浮かぶ顔に、死者の「相」が出ているものを探すかのように。
「俺の話はこれでおしまい」
 出し抜けに言って、野田はペンライトを切った。
 部屋の中を暗闇が満たす――いや、まだ一つだけ明かりが残っていた。
「え、誰のだよ?」
「みんな消してる?」
「いや、野田が最後だろ?」
「やだよ、こんなの、誰のいたずら!?」
 動揺が走る中、野田は強い声で「まあ、落ち着けよ」と言った。
 懐中電灯は、車座になった十人の手元に置かれている。最後の明かりは、野田のちょうど対面にあった。両脇の二人がビクリとしたが、野田が低く「見るな」と制した。
「最後の話をしてもらおうか」
 また、残る九人にざわめきが走る。静かに、とまた野田は諌めた。
「誰かは知らないけど、話してくれるよな」
 野田は対角の明かりの主をまっすぐに見つめている。
 それはつまり――わたしのことが見えているということだった。
 両脇の二人は、わたしの姿なんて見えてないだろう。わたしを挟んで、この薄闇の中で顔を見合わせているだけだ。
「わかった」
 わたしは応じた。わたしの声は、野田以外の九人にも聞こえているようだ。悲鳴にも似たざわめきが部屋の中に走る。荒い呼吸と、泣き声のようなものまで聞こえる。その中で、野田だけが冷静にわたしの方を見ている。
「ずっと、わたしのことを知っていたよね」
 野田はうなずいた。
「そうさ。百物語をしたのも――十物語、いや十一物語になったが――あんたと話すためさ」
 百物語を語り終えると、最後に怪異が起こる。有名な話だ。
 その怪異に乗じて、わたしとコミュニケーションをとろうというつもりなのだったのだろう。
「ありがたい」
「そうなのか?」
 わたしは体を揺すって見せた。生憎とうなずくとかは上手くいかないのだ。
「わたしも、修学旅行についてこれるばかりか、死んでからクラスメイトになるはずだった子たちと話せるとは思わなかったから」
 あ、という声が上がった。
 野田はピンと来ていないようだが、知っている者もいたのだろう。
 わたしは、この高校に合格しながら、交通事故に遭って死んでしまい入学できなかった者だ。
 さて、何を話そうか。
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