お題:贖罪の雲 制限時間:15分 読者:11 人 文字数:1022字

雲が纏えど、動かざること山の如し


 ───落ちていく。
 ───どこまでも深くに。


 ここが地獄と呼ばれる場所ならば
 私はそれを素直に受け入れるしかない。

 生前に嫉妬に狂って多くのうら若い命を奪った私は、
 殺めた罪として、殺められるが条理。

 見上げて見た。
 地獄にも空があるのね。
 いや、それが空と言えるものかはわからない。
 天井といった方が正しいか。

 バシンッ、と、突然響き渡るは、コンクリを鞭打つような音。
 予想通りに鬼さん此方、かと思ったけれど
 そこにいるのは、薄汚れて細い躯をし眼鏡の奥でぎょろりとした目を走らせる
 気持ちは悪いけれど、鬼とは言えない存在だった。

 なぁに?と挑発的に笑う。
 彼は、ぐひひと下卑な笑みを浮かべ、一歩、二歩近づいて。
 そうして口の端に涎を垂らしながら言葉を吐く。

 俺は家族を裏切ったんだ。
 俺は家族から見捨てられたんだ。
 遠くに逃げようとしたけどさ、結局ホームレスになっちまった。

 ──その内容は、とてもではないけれど
 地獄に堕ちるほどの残虐な行動ではないように思う。

 アンタは?と、男が促した。
 私は少々言い躊躇い、嘘を吐いた。

 好きな先輩がいたの。
 先輩には若い彼女がいたの。
 だから、私は、───…嫉妬してしまった。

 あぁん?と男は怪訝そうに眉をぴくりと動かしてから
 けらけらと大口を開けて笑い出す。

 そんなモン、生てりゃどこにでもあるだろぉ。
 痴情の縺れどころか、アンタは堪えたんだろ?

 ───臆。
 ごめんなさいそれは本当は嘘なのだと、自責しながらも
 彼に真実を伝えることが出来なかった。

 なぁネエさん、と男はこの地の天井を指差す。
 すると、先ほどには気付かなかった白い靄が、こちらへと向けて降りてくる。

 コイツに乗れよ、いけるぜ、希う場所に。
 男はひょいと身軽に、雲の中にダイブした。
 すり抜けてしまうかと思いきや、雲は男を受け止めるように、ふかりと柔らかそうな見目。

 いこうぜ?───と。
 男の誘いに、私は。


「ごめんなさい」


 その雲に飲まれてしまったら、私の罪はなかったことになってしまうんじゃないか。
 だから、私はいけない。
 男がどこに行くかはわからないけれど

 私はこの暗渠の中に、身を潜ませ
 寒さに震える、そんな日々がお似合いだ。

 贖罪の、雲に包まれぬならば
 私は、永遠の罪人であれる。
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