お題:綺麗なお金 制限時間:15分 読者:27 人 文字数:1156字

曾祖母の綺麗な石
 母方の曾祖母は、僕が物心ついた頃には既に寝たきりで、末期はぼけたようになっていた。
 五歳の時、僕が両親に連れられて見舞いに行くと、僕の頭を優しくなでながら「お小遣いだよ」と言って、何かをくれた。
 それはつるつるに磨かれたような綺麗な丸い石で、「それで飴玉を買いなさい」と曾祖母はふにゃふにゃと笑う。僕はその石に強く惹かれたけれど、幼児とは言え何となく憚るようなものがあって、曾祖母と背後に立つ両親の顔を見比べたりした。
 「もらっておきなさい」と父が言ったので、僕はお礼を言ってポケットに石をしまった。すると、「しぃちゃん、しぃちゃんが来るからね」と曾祖母は何度も繰り返した。
 それが僕の、曾祖母に関する最後の記憶だ。それから一か月も経たない内に亡くなり、僕はお葬式というものを初めて体験したのだった。

 それから五年以上経った小学校五年生の頃、僕は小学校の林間学校でとある山に行った。
 「自然を学校に!」というふれこみのキャンプ場で、本当に山とロッジぐらいしかない辺鄙な場所で、子ども心に「街の方がいいな」と思わせるような場所だった。
 周囲の山は登山道が整備されていて、奥に行けば滝なんかもあった。一定の場所からは奥に入らないよう立ち入り禁止のロープがあって、というかそれは急な斜面に張られているので、腕白な子どもであっても絶対に立ち入らないであろうところだった。
 僕らは「好きに遊んでいい」と大人が言うので、仕方なしに鬼ごっこを始めた。当時、クラスでの一番人気の遊びはサッカーだったけど、ボール遊びは「禁止」で、山を使った遊びをしなくてはならなかったから。
 逃げる内に、僕はいつの間にか一人、うら寂しい場所に出ていた。少し開けた展望台のような場所で、打ち捨てられたようなベンチがポツンとあった。その向こうは斜面で、周りは柵に囲まれている。
 こんなところがあったのか。結構いい眺めだな。そんなことを考えながら僕がベンチに近付くと、不意に奥の茂みから子どもが現れた。
 クラスメイトか、と思ったけれど、そうじゃなかった。見たことのない子だった。
 いや、顔は分からなかったのだ。何せ、きつねの面をつけていたから。服装は着物のようで、時代劇の子どもが着ているようなものをまとっていた。
「おうい」
 きつね面はそう呼びかけてきた。
「おうい、おうい」
 僕はたじろいで逃げ出そうとしたが、足は動かない。
「飴いらんか。珠もたんか」
「飴? 珠?」
 僕が尋ね返すと、きつね面は同じことを繰り返す。
 その時、僕はハッとした。曾祖母のことを不意に思い出したのだ。
「飴!」
 そう言うと、きつね面は、面を被っているのに心底残念そうな口調で「しぃちゃんの友達だったか」とだけこぼして消えたのだ。
 
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