お題:僕の好きな母性 制限時間:15分 読者:51 人 文字数:1146字

独りの君に「ごめんニャ、Sorry」
 1/25
 猫を飼うことにしました。
 名前は、チビ助です。

 3/14
 チビ助次第に育っています。
 一年も経てば、立派になるのでしょうか。

 8/01
 もうチビ助の名前がおかしいくらい、
 大きくなりました。
 貴女も、こんな猫を飼いたかったのでしょう。
 独り占めして、ごめんな。


 
 チビ助は、名前と違ってメス猫だ。
 ああ、あいにく僕にはネーミングセンスがないんだな。
 それに、他にアドバイスしてくれる人もいなかった。

 僕ひとりの広い家に、最初は恐る恐ると、
 次第に自由に駆け回るようになるチビ助だけが
 僕の家族となったのだ。

 ごめんな、チビ助。
 本当はもっと賑やかな家庭で育ちたかっただろう。
 子どもと遊んだり遊ばれたりして、お母さんには腹が減ったらご飯をもらって、
 僕はチビ助と頻繁に遊ぶことも出来ず、仕事帰りに腹ペコのチビ助に慌てて缶詰を空ける。
 猫餌に夢中であるチビ助を眺めながら、僕はぽつりと零していた。

「寂しいかい?ごめんな」

 ソファーに腰掛け、ネクタイを緩める。
 きょろ、きょろり。たたたっ。
 チビ助は餌がまだ残っているのに、僕のそばに駆けてきた。

「うん、どうした?まだ残っているけれど、お腹が空いていないのかい?」

 心配で。
 ぽんぽんと膝の上を叩いてチビ助を呼び寄せる。
 チビ助は素直に僕の膝の上に乗ってから、すりすりとワイシャツの胸元に擦り寄った。

「こ、こら、だめだろう、スーツに猫の毛がついてしまうよ」

 なんて、慌てたのも束の間だった。
 ああ、そうか。
 助は、寂しくないと言いに来てくれたのか。
 謝らなくていいと、そう伝えに来てくれたのか。
 ふふ、と僕の口元には笑みが浮かぶ。

「ありがとうな、チビ助」

 笑うことを、もう何年も忘れていた気がする。
 仕事に打ち込む僕は、妻を放ったらかして、子どももできなかったから
 事故で亡くなった妻に、結局何もしてやれなくて。
 妻は子供の頃に猫を飼っていたと自慢していたことを思い出し
 一人ぼっちなら折角なら、僕も飼おうかと思っただけだった。

「なあチビ助。お前は幸せか?」

 喉元をなでると、ごろごろと猫の愛情表現。
 いや、単に気持ちがいいだけかもしれないが。

 なぜだろうな。
 涙が突然溢れてきて、くぐもった声を漏らす。

 ごめん、ごめんな、妻に何もしてやれなかった、こんな僕を許してくれ。
 猫を飼うことを贖罪にするなんて、虫のいい話だろうか。



『大丈夫よ』

 声がした。
 腕の中にはチビ助がいるだけ。

『あなたが私の猫好きを覚えていてくれて、私はここにいる』

 ───臆、君は。

『しあわせ、ですよ』
作者にコメント

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