お題:ぐふふ、平和 必須要素:1500字以上2000字以内 制限時間:1時間 読者:49 人 文字数:1728字 評価:0人

先祖返り
 平和のための犠牲に彼はMになった。
 通称殴られ代行。
 元々身体が丈夫というか、先祖返りの影響でそうなってるだけに過ぎない。
「大丈夫?」
「大丈夫。痛いけど、殴ってる方が痛いだろうから」
 彼の視線をその殴ってた方にむけると、たしかに手から血が流れ落ちてった。
「まだやるかい?」
 殴った相手は首を振るとその場を後にした。
「今日ははやかったね」
「中学生だったからね。大した想いも拳にのってなかったし……むしろ殴り方を教えてくれって頼まれたよ」
 なるほど、殴られるからには殴り方もしってるとさっきの相手は考えたわけか。
「でも、それはできないからね」
 彼は構えるとコンクリートの壁にストレートパンチをぶち込んだ。
 耳を劈く音にふさわしい穴がそこにできてた。
「人殺しを作るわけにもいかないよ」
「境界線があるものね、踏み込んじゃいけないライン」
 うんと彼は満足そうに笑う。
 今日は10人にも殴られたっていうのにどこも怪我をしたようすはないし、疲れてる様子も見せない。本当にただ殴られるだけのM。
「お金とかとったらいいのに」
「それじゃ、平和的解決にならないよ。ストレス解消にお金を使う趣味は他にあるだろうし、気兼ねなく……しかも相手が怪我をしないならってなるじゃない?」
 うーんと私は首を傾げる。
「そのせいで変な組と揉めたじゃない?」
「そんなこともあったね。なかなかスリル満点な空気だったよ」
 先祖返りした仲間の力によって、畏怖を埋め込まれた組は今じゃ私たちの配下になってしまった。
 そうやって少しずつ少しずつ浸透して、彼の言う『平和』という形になってきた。
「普通の人に生まれたかったとか思わない?」
「うーん、思う時もあるしないときもあるよ」
 相変わらず中途半端な考えだ。彼らしいといえば、彼らしくて誇らしくもある。
「君のほうがもっと平和的にことを進めたらいいんじゃない?」
「そうだね。指に血がこびりつくのはちょっとね」
 ため息がよく聞こえた。
「犬の耳は便利だよ。あと爪とかね」
 今は赤いけど、本当はきれいなんだと彼に見せても納得してくれない。
「ご当主さまだから先祖返りの違反はやっぱり?」
「うん、私がよくても周りがダメっていうからね。ほっとくと一族皆殺しだとかって広がっちゃう」
 笑いごとじゃないよと、そっと彼が肩に手を置いてきて、
「ん? 今日は終わりなの?」
 そのまま立ち去ろうとするので肩越しに振り返る。
「いや、そっちのお仕事が残ってるんだろ?」
 
 ーーやっぱりわかっちゃうものなのか。

「ふふ、力には逆らえないってことなのかな?」
「よせよ、好きでもないことをやるってからにはそれ相応の代価がーー」
 彼が何かを言う前にその口を急いで口で封じてしまう。
「これでいい? あぁ、口きってたから血の味がしちゃったかも?」
「……はぁ、ほんと当主様ってやつは」
 何を考えてるんだかわからないと彼は私のほっぺたをつついてきた。
「せっかく石と混じった先祖返りさんなんだから、私のボディガードちゃんとしてよね」
「いまいち必要あるとも思えないがな」
 そういって彼は親指で後ろを指す。
「あはは、大群になっちゃからね。実のところ戦闘指揮とってくれる人が欲しかったんだ!」
 彼が指差したところに影が1つ、水が1つ、炎が1つ生まれ人の形に次々となってく。
「私1人で良いって言ったんだけどね、あなたが一緒にいると嫌らしいの」
「……それ本気でわかって言ってるのか?」
 にやりと私は笑って、
「当然じゃない。最強のパートナーなんだから、周りが認めなくても認めさせるわ」
 彼が普通の世界で平和を作ろうとしてるように、私も先祖返りした異能者で平和を作らなきゃ。
「私いつかね! 平和なデートがいつかしたい! 遊園地とかで犬の耳出したり吠えたりしたい!」
「あぁそうだな。俺も石になったら重量で加速するかもな?」
 ぶっきら棒に頬を赤く少し染めた彼は、現れた仲間たちの元へとあるいてどつかれてく。
「……」
 見慣れた光景。
 これでも……まだ平和なのだ。
 お父様がつぶしてくれた地獄よりーー
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