お題:ぐふふ、平和 必須要素:1500字以上2000字以内 制限時間:1時間 読者:101 人 文字数:2000字 評価:0人

嗤う
ぐふ、ぐふふふ……

鳴き声とも笑い声ともつかない声が机の中から聞こえた。
学校での休み時間、蒸し暑さ成分が教室どころか市内全体を包み、ぼーっと窓の外を見ていたときのことだ。

なんか設定にしたっけ?

着信だか通知のせいだと思った。けれど、肝心の発信元となる奴はカバンにしっかりと入っていた。
イタズラ? と思い周囲を見渡すも、誰もこちらに注目していない。馬鹿笑いをしている集団が、口を天井に向ける様子くらいだ。
対象が慌てて失敗する様子を観察しないイタズラほどつまらないものはない。

僕は机の中を覗き込んでみたが、何もない。
いや、教科書ノート類はあるけど、声を出すようなものはない。薄暗いそこは心なしかひんやりとしていた。

暑さで幻聴を聴いた――
そう結論づけて、その日は終わった。



次の日、心なしか暑さが和らいだ中。教室内は妙に静かだった。
昨日、クラスメイトが事故に遭ったのだ。
馬鹿笑いしながら歩いていた集団に、車が突っ込んだ。
重体一歩手前で入院中。
最悪ではないけれど、笑い話にもできない。

教室内はひそひそと、落ち着かない雰囲気で囁き合った。

ぐふ、ぐふふ……

声が、聞こえた。

平和、へいわぁ……

机の中を覗き込む。椅子を蹴倒し最速で。
中身はもうカバンに突っ込んでおいた。
がらんとした、洞窟のような薄暗がり、そこには、何もなかった。

僕は安堵していいのかどうかもわからない。
ただ重いため息は出た。

何なんだよ、一体――
なにしてんの?

隣の子が不審そうに訊いた。
僕は曖昧に笑ってごまかした。



暑い日が続き、段々と段々と、教室内の人数が減った。
誰も彼もが事故に遭った。多種多様に一つとして同じものはなく、そして、その前に僕は確実に声を聴いた。その笑い声には悪意と優越感と満足が含まれていた。

――煩くすると、事故に遭う。
煩い奴から順に、怪我をする――

その法則に、全員が気が付いていた。
教室内は、恐ろしいほどの静寂が満ちるようになった。
呼吸の音ですら聞こえる。
夏風邪を引いた奴が、絶望的な顔で咳をする。
そいつは、次の日にはいなくなった。

何なんだよ、一体――

口癖のように呟く。
じろりと横から睨まれた。「巻き込むようなマネをするな」という警告。

水分が多量に溶け込んだ湿気の沈む教室で、緊張と恐怖が飽和しつつあった。



ぐふ、ぐふふふ……

そして、声を聴く。
なんだよ、誰も騒がしくないだろ、これが平和? なんの冗談だ。無音と恐怖と重圧しかない。ノートの書き取りだって一苦労だ、できるだけ音を出したくなくてボールペンに変えたくらいだ。誰も聞こえてないみたいだけど。お前こそが誰よりも静かにするべきで――

 誰も聞こえていない

その文字が、脳内で大きく描かれた。
どうして、誰も聞いてない、聞こえない?
霊的なものだから?
いや、僕にそういう霊感みたいなものなんてあった試しがない。

そもそも、本当に机の中にいるのか……?

授業中、完全な静寂の中、僕は見下ろす。
机がある、見慣れたそれ。
さらに視線を下ろす。
そこには学校指定のシャツがある。夏服の白が太陽光を反射している。素肌に一枚だけで、汗を含んで少し透けている。

拳のような、黒いものがあった。
物質的なものではなく、純然たる影だった。

凹んでいる――

シャツのボタンの間を開くように、覗き込んだ。
昨日シャワーを浴びたとき、そこにはヘソしかありはしなかった。しかし今、ヘソの代わりに、目と鼻と口があった。ぽっかりとした五つの穴、僕の腹が顔型に凹んでいる。こぶし大の小さく透明な顔型を思いっきり押し付ければ、きっとこういう形になる。

元ヘソにあった位置、そこに生じた穴が歪んだ。
片側に偏った、ぐにゃりとした笑み、喜悦の形。
声を出そうとしている。
嘲りと、悪意と、異質な充足を伴って。

ぐふ――

僕は叫んだ、叫びながら、ボールペンを突き刺した。
停滞と、そこからすぐに生じた悲鳴と騒然を、僕はどこか他人事のように聴いた。



幸い、と言っていいのか。怪我は大したことはなかった。

唐突に変なことをした奴――
そう見られはしたけど、僕は満足だった。

あの声は、きっともう聞こえない。
これからは普通に話せる、音を出せる。

誰一人として気づいてないかもしれないけど、僕がこの教室の平和を守った。
いや、平和を脅かしていたのも、僕だったのかもしれないけど。

あれ結局、なんだったんだろ……?

謎といえば、後はそれだけだ。

はは、と笑う。
ぐふ、ぐふふ――と声がする。

下からじゃなかった、横から。
恐る恐る、青ざめた顔で横を見る。見慣れたクラスメイト、生真面目そうな奴。
その腹から、それは聞こえた。
僕に向け、笑っていた。
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