お題:壊れかけの育毛 制限時間:15分 読者:188 人 文字数:634字

遺伝デンデデン
 部長の指がイライラと机を叩いている。パタパタと。爪がきちんと切られた、柔らかい音だった。
「一体どうしろってんだ……!」
「まあまあ」
 小企業とはいえ、二十八歳の若さで部長職に就く彼はとても優秀な人だ。社長が自らデザインした小物を売るというこの冴えない会社で、任された埼玉県南部一帯を飛び込み営業で切り開いた。彼の力で会社は利益を倍に伸ばしたとさえ言われている。
 しかし、そんな彼でもどうにもできないものはある。
「言うことは聞かねえ、かけたコストを取り戻す前に抜けていく、ほんっとに近頃のは根性がねえ!」
「まあまあまあまあ」
 部長も若いんすから、と思いつつ、そんなことは何の慰めにもならない。僕は離れた席に座る新人たちをこっそり指差した。
「そんな怒ってちゃ育つもんも育ちませんよ、ほら、みんなも心配してますよ」
 新人たちはオロオロと盗み見るようにこちらを見ていて、俺と目が合うとしまったとばかりに目をそらす。本当に、わかりやすいやつらだ。
「んなこたーわかってる! ……わかってるんだけどなあ」
 話している途中で、突然部長の声がトーンダウン。頼りない手つきで前髪を撫でた。スカスカになってしまった、その前髪を。
「大丈夫ですって。まだまだこれからですって」
「お前はいいよなあ、フサフサだもんなあ」
「そんな変わんないですよ」
「お前、だって俺もう頭頂部も来てるんだぜ? 二十八でよ?」
「あー……」
 くせ毛で薄毛。優秀な部長でもどうにもならない。
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