お題:免れた人体 必須要素:九州 制限時間:30分 読者:58 人 文字数:691字
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完璧な身体
 視界モニタにはたくさんの化学物質の名前が並ぶ。わたしの「身体」にはさしたる影響もないものばかりだが、この場所の殺風景さを助長している気はした。直線とモノトーンで構成された研究所はとても無機質で、情緒を意識して作られた市街部とは根本からして違う。

 自分の中に感情を探す。緊張、あるいは高揚感。

人体を見るのは初めてだった。この白い廊下のどこかの扉に、先の大戦を免れた生身の人体がある。保存のために薬品処理されたはずのそれがどんな姿をしているか、わたしは写真越しにしか知らない。

 いま「生きている」人間と呼ばれる存在は、限りなくヒトの身体に似せて作られたという。工業的に再現された骨、内臓、皮膚。遺伝子を乗せただけの容れ物としての人間。

 いつの日か再び肉を得るために、わたしたちは遺伝子を混ぜ合わせる。結ばれ、子をなし、いずれ死ぬ。みんな薄々気づいているはずだ。こんなのはままごとに過ぎない。意味なんてないってことに。きっと永遠にわたしたちは機械のままだ。

 廊下を何度も曲がって、部屋に通された。中心にガラスケースが鎮座している。それを覗き込んで、わたしは機能を止めてしまいたくなった。

 それは、美しかった。乳白色のなめらかな体表、繊細な毛髪、細工物のような指、無駄のない骨格。どんな高級品の「身体」でもこうはいかない。わたしは気づく。

 確かに、これは取り戻すべきだ。

 思わず夢想する。なめらかに音もなく動く四肢、柔くきめ細やかな皮膚。

「良いでしょう? 協力する気になりましたか」

わたしは思わずうなずいていた。そんなつもりはなかったはず、なのに。
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