お題:不思議なボーイズ 制限時間:2時間 読者:66 人 文字数:1437字

青空からモーターのような音が──
青空からモーターのような音が聞こえると思ったら、どんどん近づいてはっきりしたエンジン音となった。頭上を轟音と共に白いプロペラ機が飛んでいく。
きっとあの廃墟へ向かっているのだ。

廃墟は半月ほど前に、この小さな町外れの山奥で見つかった。
崩壊が激しくて、土台の一部しか残っておらず、近くに石碑なども見当たらなかった。
そして、かつてその場所に何が建っていたのか、記録も残っていない。

普通はなにがしかデータが残るものだ。
その場所が記載されている地図はある。でも建造物の形跡がない。
登記簿にもそれらしきものは見つからなかった。

少しだけ残された土台からわかったことはほとんどない。
おそらく学校か病院、役所などの大きな建物ではないかということだけだ。

プロペラ機の音を見送ってから、わたしは右手に持っている傘を空に突き出し柄のボタンを押す。
パン!
小気味良い音と、黒地一面に描かれた星屑が広がった。

「その傘!」
「天の川?」

まだどこか幼さを感じる低めの声がふたつあがったので、傘ごしに視線を向ける。

広げた星屑、傘の向こうにいる二人の男の子が、不思議そうに首を傾げていた。

「あなたたち、」
子供達の顔をもっとよく見るため、傘を少しずらした視界の先は、白く煙る霞だけだった。

「誰?」
続けた言葉は虚しく消え、残響さえ残っていない。

雨は降っていないが、霧が深くてずしりと水分を含む空気が妙に冷たく、うなじから肩がぶるりと震える。

「わたし……」

どうしたんだろう。

今、自分がどこにいて、なにをしようとしてたのかわからない。

傘を下ろし周囲を見渡せば、背中越しになにか見えたので、体ごと振り向いた。

霧で煙る向こう、大きな建物がわたしを覆うように聳える。見上げても濃い霧のせいで1階部分しか見えない。

ほのかな明りを感じる。
どうもガラス張りのエントランス、またはロビーのようだ。

疑問を感じる前に足が自然と動いていた。まるで外灯に引き寄せられる蛾のように建物へ向かう。

その時、夜が訪れた。
つい先ほどまで青空だった気がするのに、今はもう真っ暗だ。

すぐ目の前でガラスのドアが音を立てずに開いたところ、やっぱりロビーだった。
真正面にフロントがあり、黒いスーツの男が俯いたまま座っている。

「あの、部屋はありますか?」

背後で雷鳴が轟いた。

フロントの男は顔をあげたが、その視線は黒い美しいベールで隠されていた。

その隠された顔に、わたしは重大なことに気がついて、半ば呆然とした。

「あ。わたし、名前を忘れてしまった。名前が消えて、なくなった……」
「さようで」

ベールの男が口を開いたと同時に、わたしの横に立っている。
「お部屋はご用意できます。忘却が当ホテルの宿泊条件でございます。用紙へサインを」
「名前を失くした」
「名前など、なんの意味もありませんから、お好きな文字を書いてください」

男からペンと用紙を受け取ってAと書き、また男へ戻す。
「……ああ、A以外でお願い致します」
そう言いながらわたしが書いた文字に二重線を引く。
仕方がないので、消されたAのすぐ隣にBと書いた。

「失礼致しました。1日に2名を迎えるのは初めてのことで……申し訳ございません」
緻密なベールを美しく揺らしながら、深々と頭を下げる。
「注意点がいくつか」

わたしは男が差し出してきた手を握り、案内を聞きながら奥へと──
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