お題:不思議なボーイズ 制限時間:2時間 読者:21 人 文字数:1437字

青空からモーターのような音が──
青空からモーターのような音が聞こえると思ったら、どんどん近づいてはっきりしたエンジン音となった。頭上を轟音と共に白いプロペラ機が飛んでいく。
きっとあの廃墟へ向かっているのだ。

廃墟は半月ほど前に、この小さな町外れの山奥で見つかった。
崩壊が激しくて、土台の一部しか残っておらず、近くに石碑なども見当たらなかった。
そして、かつてその場所に何が建っていたのか、記録も残っていない。

普通はなにがしかデータが残るものだ。
その場所が記載されている地図はある。でも建造物の形跡がない。
登記簿にもそれらしきものは見つからなかった。

少しだけ残された土台からわかったことはほとんどない。
おそらく学校か病院、役所などの大きな建物ではないかということだけだ。

プロペラ機の音を見送ってから、わたしは右手に持っている傘を空に突き出し柄のボタンを押す。
パン!
小気味良い音と、黒地一面に描かれた星屑が広がった。

「その傘!」
「天の川?」

まだどこか幼さを感じる低めの声がふたつあがったので、傘ごしに視線を向ける。

広げた星屑、傘の向こうにいる二人の男の子が、不思議そうに首を傾げていた。

「あなたたち、」
子供達の顔をもっとよく見るため、傘を少しずらした視界の先は、白く煙る霞だけだった。

「誰?」
続けた言葉は虚しく消え、残響さえ残っていない。

雨は降っていないが、霧が深くてずしりと水分を含む空気が妙に冷たく、うなじから肩がぶるりと震える。

「わたし……」

どうしたんだろう。

今、自分がどこにいて、なにをしようとしてたのかわからない。

傘を下ろし周囲を見渡せば、背中越しになにか見えたので、体ごと振り向いた。

霧で煙る向こう、大きな建物がわたしを覆うように聳える。見上げても濃い霧のせいで1階部分しか見えない。

ほのかな明りを感じる。
どうもガラス張りのエントランス、またはロビーのようだ。

疑問を感じる前に足が自然と動いていた。まるで外灯に引き寄せられる蛾のように建物へ向かう。

その時、夜が訪れた。
つい先ほどまで青空だった気がするのに、今はもう真っ暗だ。

すぐ目の前でガラスのドアが音を立てずに開いたところ、やっぱりロビーだった。
真正面にフロントがあり、黒いスーツの男が俯いたまま座っている。

「あの、部屋はありますか?」

背後で雷鳴が轟いた。

フロントの男は顔をあげたが、その視線は黒い美しいベールで隠されていた。

その隠された顔に、わたしは重大なことに気がついて、半ば呆然とした。

「あ。わたし、名前を忘れてしまった。名前が消えて、なくなった……」
「さようで」

ベールの男が口を開いたと同時に、わたしの横に立っている。
「お部屋はご用意できます。忘却が当ホテルの宿泊条件でございます。用紙へサインを」
「名前を失くした」
「名前など、なんの意味もありませんから、お好きな文字を書いてください」

男からペンと用紙を受け取ってAと書き、また男へ戻す。
「……ああ、A以外でお願い致します」
そう言いながらわたしが書いた文字に二重線を引く。
仕方がないので、消されたAのすぐ隣にBと書いた。

「失礼致しました。1日に2名を迎えるのは初めてのことで……申し訳ございません」
緻密なベールを美しく揺らしながら、深々と頭を下げる。
「注意点がいくつか」

わたしは男が差し出してきた手を握り、案内を聞きながら奥へと──
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:死んでも腸まで届くビフィズス菌bot お題:死にかけのヒーロー 制限時間:2時間 読者:22 人 文字数:3242字
アパートの隣の部屋の人から、お兄ちゃんが倒れたときいて、僕は「どうしようかなあ」と思いつつもお見舞いに行くことにしたのだ。けれど、病院に行ってみれば、丁度退院 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:汚い出会い 制限時間:2時間 読者:11 人 文字数:1737字
おれがなにしたって言うんだ…………。 倉蔵男(くら くらお)は何者かに抱きつかれていた。後ろから、きつく。顔は見えないが、おそらく相手は女だ。密着され、蔵男は 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:死んでも腸まで届くビフィズス菌bot お題:死にかけの御曹司 制限時間:2時間 読者:21 人 文字数:4128字
困った時、焦った時、これ以上考えるのを辞めたくなった時に必ず頭の中に流れる曲があって、いつも何のメロディだったか思い出そうとするのだけれど、最近になってようや 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:なんで お題:来年のカリスマ 制限時間:2時間 読者:12 人 文字数:3053字
「栄光を得る者の手には、既に未来が確約されている。 その者が例え未熟な少年少女であろうと、掌には栄光が収まっているのだ。」 そういった話を誰かから聞いた。いつだ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
未完 ※未完
作者:antten お題:気高い夜中 制限時間:2時間 読者:24 人 文字数:913字
頭蓋骨の砕ける音は意外にも慎ましやかで、ひとつの命の終わる様がこれほど脆弱なものだと、女にはとても信じることができなかった。柄を強く握りしめてもう一度金槌を振 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:くのう(貼るタイプ) お題:興奮した光 制限時間:2時間 読者:29 人 文字数:2373字
男はひどく無気力だった、何が原因かとなるとよくわからないのだが、しいて言うなら何もないのが原因なのだ日々の生活に目的がない、目的がないから達成に向けて努力する 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:くのう お題:意外な冤罪 制限時間:2時間 読者:38 人 文字数:3472字
ノックの音がした。日曜日の午前、といっても時計を見るとまだ4時だった。こんな時間にいったい誰が、 ぼーっとした頭で起き上がり、夢でも見たのだろうかと思っていた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:金蓮花 お題:気持ちいい育毛 制限時間:2時間 読者:24 人 文字数:1058字
「こんにちは~」最近、私が凝っているのは、「ヘアーエステ」である。しかし、そんじょそこらのヘアエステではない、超高級ヘアエステである。当然、お値段もそれなりにす 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:来海 お題:今の交わり 制限時間:2時間 読者:37 人 文字数:1908字
見渡す限りの青。圧倒されるような色彩が、僕を包む。 ザザーン、ザザーン、ザザーン。一定のリズムを刻むような波の音。見渡せば他に人の姿もなく、波の音だけが鼓膜を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:ありきたりな春雨 制限時間:2時間 読者:19 人 文字数:685字
僕は今、春雨を食べている。だが、どう考えても、その春雨は普通ではない。「ありきたりではない春雨が食べたい。」そう、呟いた事を今になって後悔した。僕は、実をいうと 〈続きを読む〉

クド/北ティアI03の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:クド/北ティアI03 お題:朝の朝飯 制限時間:1時間 読者:22 人 文字数:516字
一歩進む度に、砂が擦れる音が足に纏わりついて、不思議な空気が広がっていることに気がついてしまい、だから自分はどうしてここにいるのだろう、違和感しか覚えず、気持ち 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クド/北ティアI03 お題:不思議なボーイズ 制限時間:2時間 読者:21 人 文字数:1437字
青空からモーターのような音が聞こえると思ったら、どんどん近づいてはっきりしたエンジン音となった。頭上を轟音と共に白いプロペラ機が飛んでいく。きっとあの廃墟へ向か 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クド/北ティアI03 お題:黒尽くめの芸術 制限時間:1時間 読者:56 人 文字数:947字
懐中電灯の明りひとつで足もとを照らし、ゆっくり進んでいた。時折ポタンポタン水滴が垂れる音がする。空気はどこか黴臭く、地下を歩いているのではと思い立つ。自分がどこ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クド/北ティアI03 お題:誰かの私 制限時間:1時間 読者:83 人 文字数:600字
このホテルはなにかを隠している。なにもかも隠している。かように自分はベールで顔を隠している。誰かの視線に晒され、自分の視線で誰かを晒すのも唾棄すべきことだ。1枚 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クド/北ティアI03 お題:僕の好きな大学 制限時間:1時間 読者:62 人 文字数:898字
ふっと思考が戻り、自分がずっと歩いていることを思い出す。あたりは暗く視界は極端に悪い。わずかに足もとだけがぼんやり浮かんで見える。右手はなにかを握りしめている。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クド/北ティアI03 お題:私と殺人 制限時間:1時間 読者:98 人 文字数:1109字
客の訪れを告げる雨音と雷鳴に目が覚めた。体を起こすとベッドがギシリと音が立つ。久々の訪問者はどんな人だろうと気になるがそれも一瞬のことだ。どうせ出会うことはない 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クド/北ティアI03 お題:地獄むきだし 制限時間:1時間 読者:61 人 文字数:595字
夕方から降り出した雨は夜半過ぎに激しくなった。ガラス窓にぶつかる雨音と、流れる雨だれをなんとなしに見ていたところ唐突に空が光った。夜空を一瞬だけ照らしたあと、ゴ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クド/北ティアI03 お題:調和した悪 制限時間:1時間 読者:94 人 文字数:979字
ホテルに着いたのは、ほぼ夜だった。稜線には細く光る太陽の残滓が連なっているがもう見えなくなるだろう。ロビーには誰もいなく、フロントに黒いスーツの男が一人佇んでい 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クド/北ティアI03 お題:調和した犬 制限時間:1時間 読者:134 人 文字数:1441字
シロウは両肘を曲げた状態で後ろの引き、肩甲骨を広げるように背中を伸ばした。二、三回繰り返したところでワークチェアの背もたれに背中を預ける。そして大きくあくびを 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:クド/北ティアI03 お題:有名な闇 制限時間:1時間 読者:166 人 文字数:1112字
長い道のりの果てに目指したのは豪奢な建物。きらびやかに見えるのは真後ろから大きな太陽が、いやそれは間違である。太陽のように金色に輝く月が照らしているからだと思わ 〈続きを読む〉