お題:肌寒い凶器 必須要素:寿司 制限時間:2時間 読者:20 人 文字数:1459字

空気
四月の気層のひかりの底を
唾し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
―『春と修羅』宮沢賢治―

「え~皆さん静粛に。このたびの第97プロジェクト完成を祝しまして、課長が全員に寿司をおごってくださるそうです」
「え~マジですか~」
「しかもですよ、皆さん聞いてください回る寿司ではありませんよ、ちゃんと職人さんが握ってくれる店だそうですよ?」
「課長マジですか財布は大丈夫なんですか」
「奥さまに怒られませんか」
「へへへへまあたまにはな、上司らしいこともしないとな」
「いよっ課長太っ腹!身も心も!!!」
「うるさい、本当のことを言いたい奴は自腹で食えや」
「いや~んそんな~。『腹』でまとめてくるとはさすが課長。」

いろんなことを言いながら皆机の上を片付け、三々五々目的地に移動する。
私も一次会にはついていく。

うちの課は今まで私が経験した中でも、特に課内の雰囲気の良い方だと思う。
私だって、雰囲気は悪いよりは良いにこしたことはないと思うくらいの良識はあるつもりだ。
だから、言いたいことはなるべく抑え、笑顔でその場を乗り切ることにしている、一次会くらいは。
それでも、ニコニコ笑いながら毒を吐くやつ、と思われているらしい。困ったことである。

プロジェクト完成までの苦労話など蒸し返しながら、一次会は和やかに終了した。
「二次会どうします~カラオケ行きますか?」
「おう俺はもう失礼するから。じゃあみんな気をつけて帰れよ。」
「課長ごちそうさまでした。お気をつけて」

「宮沢さんは二次会行くの?」
「えっ?私は…これで失礼します」
「ああ、おウチが厳しいんだったね。でもたまにはいいんじゃない?」
まだ誘ってくれる人がいるとは。我ながら驚いた。
「あ、宮沢さんうるさいところは嫌い?じゃあダーツとかはどう?やらない?」
珍しくしつこくくいさがってくる。この人はこんな人だっただろうか。私とダーツなどしてもなんも面白いことなどないと思うが。
ありがたいことだが、適当なところで断らなければ。私に気があるなどと誤解されては、彼にとって迷惑だ。
「ありがとうございます。でも、今日は親になにも言ってきておりませんので。また次の機会にでも」
「そうお?じゃあまた今度ね」
「よろしくお願いします。では失礼します」

きびすを返して、駅に向かう。
後ろで同僚たちが彼にささやいている。
「宮沢はさそっても無駄だよ。家が厳しいってことになってるけど、あれは本当は人嫌いなんだよ。しつこくすると会社でまで塩対応されるよ」

何もかんもバレとるがな…
苦笑しながら、駅へと向かう。
仕方ない、人に合せるのも下手な私は、ごまかすことも下手なのだろう。

長い時間、人の調子に合わせ続け、酒を飲み気分がもうろうとするなか、うるさいカラオケの音に耐えなきゃいけない、トライアスロン。なにがたのs特に私は、疲れてくると自分の中のなにかを抑えきれなくなる。
抑え切れる自信がない。
だから、人は私に酒を飲ませたがるのだろうか。
私の中の修羅を見たいのだろうか。
そんなものを見てどうするのだろうか。
随分と悪趣味だ。

今の時代は、実態のない、あやふやな「空気」というものを読まなければ生きていけない。
読めない者は、「空気読めない奴」といういばらの冠をかぶせられ、排除されるパージされる。
「空気」が人を殺す時代なのだ。

私はスプリングコートの襟を立てて、四月の夜の肌寒さから自分を守ることにした。

「終」



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