お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:27 人 文字数:2179字 評価:1人

ねじれた少女
 朝食と晩飯付きで家賃は格安な社宅を出てまで
 初めて彼女を見つけたのは地下鉄の駅構内で、小ぶりなリュックサックを担いだ制服姿の彼女が、僕にはこの世の何よりも美しく尊い存在に見えた。
 どうやら、社宅の最寄り駅近くに、彼女の通う学校があるらしく、僕は通勤の際に幾度か彼女と擦れ違った。その度に、彼女を知りたい欲求、彼女に近づきたい欲求が高まっていくのを自分で感じていた。
 自分のスマートフォンの画像フォルダが、彼女を盗撮写真で溢れ出した頃、僕は有給休暇を取り、一日彼女の尾行に費やすという快楽行為を覚えた。彼女が学校にいる間は、隣のビルの屋上へと上がり、双眼鏡で彼女の横顔をのぞき込み、堪能する。
 彼女がアパートに帰宅するのを見守るまでが尾行だった。それより先の、プライベートの時間へは僕は干渉しないようにしていた。
 それは、世界の秘密を知るようなタブーに思えた。
美しい花を踏みにじるような、背徳的な行動にも思えた。
内容の素晴らしい小説を流し読みするような冒涜にも思えた。
やがて、彼女を見つけた日から一年が経とうとしていた日、僕はあることに気がついた。彼女の白く美しい四肢に、切り傷や、打撲の跡が増えているのを。
生傷が一ヶ月もの間、少しずつ増えていくのを唯々、僕は観測する他なかった。どんなに心配をしても、彼女に声を掛ける真似は出来なかった。
 だって僕のような魂の汚れた人間に触れてしまえば、彼女に汚れが伝染してしまうかもしれない。なので、これまでと同じように彼女を遠くから観測することで彼女を救おうと考えた。
 しかし、どうやら彼女が怪我を増やすのは、今までは反則行為として観測を自粛していた、彼女が自宅で過ごすプライベートの内であるようなのだ。
 彼女を救うためには仕方ないと考え、朝食と晩飯付きで家賃は格安の社宅から彼女の住むアパートの隣の部屋に引っ越した。
 その日の夜、彼女の部屋から彼女の母親と彼女の怒号のようなやりとりが壁越しに聞こえてきた。どうやら、彼女は母親から虐待を受けているらしい。甲高い声で、やめてと幾度も叫び声が木霊していた。
 翌日僕は、会社を欠勤し、彼女が登校したのを見計らって、彼女の家へと押し入り、自室で眠っていた彼女の母親の首をロープで締め上げ声も出させずに殺害した。父親を探したが、どうも、留守らしい。もしかすると、出張かはたまた、もっと別な事情により、この家には住んでいないのかもしれなかった。
 僕は殺害された母親を目の当たりにしたことで、彼女の魂に悪影響を与える可能性を危惧し、家を出ます探さないでください。という、嘘のメモをダイニングテーブルに残し、死体となった彼女の母親を背負い、自室へと戻った。
 その日は彼女の母親の内蔵を包丁で細切れにしては、トイレに流し込むという行為で、半日が過ぎた。
 その日の夜のことだ。
 昨晩と同じ悲鳴が聞こえました。そして、ドンドンという鈍い音が聞こえた。
 きっと、彼女の父親だろう。
 こんなこともあろうかと、彼女の母親を殺した後、僕は彼女の部屋に監視カメラを設置していた。
 遠隔機能で、スマートフォンから彼女の部屋の様子をのぞき込む。
 彼女の部屋には、彼女しかいなかった。
 彼女は、鉄製のハンマーを自分に振りかざして、何度も自分の四肢を痛めつけていた。何度も、何度も、叫び声を上げていた。その声が、昨日の悲痛な叫び声と別であることに気づいた。
『やめて、もうやめて、お願いだから!』
 暴力を制止を促す声を上げていたのは、彼女の母親だったのだ。
 翌朝、僕は彼女の跡を付けた。何度も彼女は後ろを振り向いてくる。
 僕はミュンヒハウゼン症候群という、精神病について思い出していました。彼女は恐らく、母親から虐待されているという事実を偽装し、悲劇のヒロインを演じているのだ。
 そして、僕がまんまと、その嘘に騙された善良な一般市民であるのだと、信じているのだろう。
『可愛そうな娘さん。僕が、救ってあげますよ。酷い母親でしたね。もう大丈夫だから』
 そんな言葉を投げて貰えると信じているのだ。
 まったく、どうしてこんなに狂った感覚が染みこむほどに魂を汚してしまったのだろう。やはり、あの母親の影響なのだろうか。だとしたら、奴を殺して正解だった。
 そうだ、そうに違いない。
「君はもう、苦しむ必要など無い。君の魂を蝕む母親は僕が殺害した。もう、君の魂は自由なんだ。君はもう、自分を傷つける必要など無い」
 彼女を初めて目撃した、地下鉄の出口で彼女に初めて声を掛けた。
 彼女は振り返り、怯えたような表情で僕を見た。そして、ゆっくりと階段を下り、僕へと歩み寄る。背後の出口から漏れる朝日を浴びたその姿は、天から舞い降りる天使のようであった。
「やっぱり、貴方なのね。私をずっと、ストーカーしてた人! もうやめて! お願いだから! 私もう耐えられない! 気持ち悪い、アンタなんて早く死んで! お母さんを帰して!」
 ほとんど、反射的に、僕は彼女の頬を打った。頭が真っ白になって、彼女の肩を強引につかむと、階段の下へと放り投げた。
 悲鳴を上げて転がり落ち、踊り場で止まると、彼女はもはや天使ではなく、四肢をぐにゃぐにゃにしたねじれた女になっていた。
 
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