お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:3164字 評価:1人

人を騙して冷コ―のみほの焼肉たべほ!
「何事もバランスが大切だよね」とヒビキが言うので、私は「しかりぃ~」とアイスコーヒーのストローを咥えて生返事をする。
「肉を食いすぎたら野菜を食べる、徹夜で遊んだ次の日は寝だめする、遊んでお金を使いすぎたら………はい、マチさん答えをどうぞ」
「節約をする?」
「バカ、節約してもお金は増えないでしょーよ」
 ヒビキが両手の人差し指をこっちに向けて、下唇を突き出したなんとも腹の立つ顔をする。イラッ。
「バランスの話でしょ? 収支のバランスじゃん、収入よりも多く使わない、それだけでしょ」
「マチはわかってないよ、私の状況を全然まったく……」
 今度は両手のひらを天井に向けて目をつぶり嘆息する「やれやれ」のジェスチャー。イラッ。
「焼肉に行って、徹夜でカラオケに行って次の日は寝坊してバイトを無断欠勤。そんで遊びすぎたからお金がない、ヒビキの状況はよーくわかるよ、だって――」
「待って、ごめん、その先は言わなくていいから!」
「――だって、焼肉に行ったのもカラオケに行ったのも私一緒だったし、バイト先も一緒だからその日マネージャーから『ヒビキちゃんが出勤の時間になっても来ないし電話にも出ないの、あなた同じ学校でお友達でしょ、今から出られない?』って寝てるところに電話かかってきて押し切られる形でシフトに入ってあげて迷惑被ったのも私だもん、ヒビキの状況はよーくわかってる」
「あーー!! 本当ごめんってば!」
 天井に向けたままぷらぷらさせてた手のひらを合わせて、私を拝みはじめるヒビキ。余裕たっぷりの表情が一変、切羽詰まった顔で謝り倒してくる。
「はいはい、その件についてはさんざん謝られたから、もういいよ、怒ってないって」
「ありがとー!! やっぱりさすがのマチさん! 略して『さすマチ!』アニメ化決定!」
「んで、なんの話だっけ、バランスがどうとか」
「そう、バランスの話。遊んでお金を使いすぎたら」
「節約じゃないんでしょ? だったら簡単だよ、もっと稼ぎなさいよ。マネージャーにももっかい謝って、シフト増やしてもらえばいいんだよ」
 当たり前のことである。それか、バイトを掛け持ちすればいい。ヒビキは大学で授業にはマジメに出席しているようだけど、サークル、部活の類には属してないのだからそれくらいはできるだろう。私は、ヒビキとつるんで遊んでお金を使いすぎることもあるけど、それ以外のときは大して使い道がないし実家通いなので、学生でありながらすでにちょっとしたたくわえがある。
「マチはえらいよね、貯金だってちゃんとしてるんでしょ?」
「大学生のうちは遊ぶのも社会勉強なんて言うけどね、私は先行きが不安だから貯めておこうかなと」
「えらいよねー、うん」
「貸さないよ?」
 こちらをえらくおだてるヒビキの物言いにピンと来たので先制しておいた。みるみる青ざめていくヒビキの顔。「信じられない……」みたいな皿のような目でこっちを見てくる。
「そんなー!! マチだけが頼りなのに……」
「あのねぇ……。もしかして、その話をするために呼んだの?」
 無言で頷くヒビキ。金がないのに、わざわざ渋谷の喫茶店に呼び出すとはいい度胸だ。というか、後先を考えない無鉄砲だ。
 うつむいたまま、何やら考えを巡らせているヒビキであったが、今までの演技臭い表情とは違って、曇った、というか本気の焦りを感じる顔をしたまま黙り込んでしまった。
「まさかさ、あんたここの払いすら危ないわけ?」
「うへへ……」
「いや、うへへじゃなくてさ」
「神様マチ様仏様!」
 再度拝んでくるヒビキ。マジかこいつ。

 喫茶店の支払いを終えて(しかもあいつただのブレンドとかじゃなくてウィンナーコーヒーなんて洒落たもん飲んでやがった)ヒビキと駅前で別れた。あまりに哀れだから少しばかり恵んでやろうか……とも思ったけど、それでは彼女のためにならない。
「とにかく、私のシフト代わってあげるから、ちゃんとバイトして今月は節約、わかった?」
 それだけ言って、金は貸さないことにした。貸したって返ってくる保証はないし、返すときに余計に辛い目にあうんだから、今はよくても未来に苦しむのは明らかでしょう。
 週に一回はヒビキから誘われて、ごはんを食べに行ったりカラオケに行ったり、しょーもない遊びをしていたのだけど、その件があってからしばらくヒビキからのお誘いは減少した。バイト先でたまに会うこともあったけど、特にシフトが増えたというわけでもなさそうだ。仕事中に話し込むこともできないので、私の言うとおり節約でもしてるんだろうな、と思った。だとしたら、こっちから誘うのも悪いかな、なんてそのときは思っていた。

「いやー、急に誘って悪いね」
 ヒビキに誘われて、用事もなかった私は誘われるままにあの日と同じ渋谷の喫茶店に赴いた。あの日ウィンナーコーヒーを飲んでいたヒビキは真鍮製のマグの表面にたっぷり汗をかいた冷え冷えのアイスコーヒーを飲んでいた。このコンクリートジャングルのどこにそんなに棲息しているんだと不思議になるくらいの蝉の大合唱の中を歩いてきて、背中にキャミソールがベタっと張り付いていた私は、それを見るなり喉を鳴らして、同じくアイスコーヒーを注文した。ヒビキはと言うと、空調とアイスコーヒーで体が冷えたのか、長袖のカーディガンを羽織っていて、見てるだけで暑苦しい恰好だ。
「あっついあっつい」
「ごめんねー、こんな日に。ちょっとお金に余裕ができてさ、久しぶりにおいしいもんでもマチと食べたいなって。うなぎでも食べに行く?」
「あれ、ずいぶん羽振りいいんだ? よく見たらバッグも、それエルメスじゃん?」
「そーーーなのーーーー!」
 ニコニコと笑っているヒビキ。
「ちゃんと聞こうと思ってたけどさ、なに、バイト掛け持ちしてんの?」
「いや?」
「あれ、特にシフト増やしたわけでもないんでしょ?」
「うん」
「待った、おかしいおかしい、なんでお金に余裕ができんのよ」
「いーのいーの、お金なんてあるときはあるし、ないときはないの、そんなもんでしょ」
「いーや、あるときは嬉しくてないときは悲しい――ってそんなことはどうでもいいの、どうやって稼いだの」
 テーブルに乗り出して、顔を寄せて詰め寄る。ヒビキがへらへらしてお茶を濁そうとする。そのとき、アイスコーヒーを運んできた店員さんが水滴ですべったのか、お盆からマグを落としてしまう。
「あっ!!」
 激しい音を立てて床に激突、こぼれたアイスコーヒーは哀れ、ヒビキのバッグの底をびっちょり濡らしてしまう。
「大変っ!」 
 慌ててバッグを床から持ち上げるヒビキ。あまりに慌てたものだから、傾けられたバッグからぽろりと白い何かが転がり落ちる。

 コロコロコローー……。

 白い物体は床を転がり、白くて細い道を作る。ああ、包帯だな。 
「すみませんすみません!」
 店員が謝り倒すのを片手で制して、ヒビキは何事もなかったかのように包帯を拾い上げ、くるくるとまとめてバッグに入れなおした。おしぼりで簡単にバッグを拭きながら、照れ笑いをしているような顔でこっちを見てくる。
「あのさ、ヒビキ……」
「ん?」
 再び体をテーブルに乗り上げて、ヒビキのカーディガンをバッとめくる。
「あ、ちょっと!!」
 腕には包帯が巻かれているが、その箇所をぎゅっと握っても全く痛そうな素振りはない。
「い、いやーーー肌が荒れちゃって??」
「ヒビキ、お金、どうやって稼いだかちゃんと聞こうか」
 へたくそにまかれた包帯はところどころ捻じれている。私ならもっとうまく巻けそうかな。
「あのね……ミュンヒハウゼン症候群ってのがあってさ……」
作者にコメント

対戦作品一覧


ユーザーアイコン
作者:ぽつタイプライター お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:83 人 文字数:1511字 評価:4人
古びた居酒屋の電子ディスプレイに映し出されたアイドル。壊れかけたロボット・アイドルが、ロボット特有の音域で叫び、かすれた声で歌っている。 痛々しい声だと思った 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:らび お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:37 人 文字数:1796字 評価:3人
「おーい!」 レイが病棟の屋上で大声をあげる。運動場の患者たちが全員顔をあげると、彼女は満足げにうなずく。 「今日は、ここから飛ぼうと思いまーす!」 観衆は心 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:38 人 文字数:2991字 評価:1人
『悪魔を憐れむ歌』というタイトルの映画がある。デンゼル・ワシントンが出ていた。恥ずかしい話、映画の内容はほとんど記憶にない。しかし最後のところだけ覚えている。主 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:解けかけの氷 お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:27 人 文字数:2179字 評価:1人
朝食と晩飯付きで家賃は格安な社宅を出てまで 初めて彼女を見つけたのは地下鉄の駅構内で、小ぶりなリュックサックを担いだ制服姿の彼女が、僕にはこの世の何よりも美し 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:キメキメ! プリキュア お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:3164字 評価:1人
「何事もバランスが大切だよね」とヒビキが言うので、私は「しかりぃ~」とアイスコーヒーのストローを咥えて生返事をする。「肉を食いすぎたら野菜を食べる、徹夜で遊んだ 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:忽蘭 お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:41 人 文字数:1824字 評価:1人
彼女の姿を見ていると、時々やるせなくなる。 ◆ 朝十時に僕は目覚める。簡素なパイプベッドから降り、瞼を擦りながら洗面所へと向かい、冷水を洗面器に溜める。そうし 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:inout お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:33 人 文字数:2011字 評価:1人
「お、おはよう」該当男性による挨拶。距離、二メートル二三センチ = 常態よりも約五十センチほど遠い。推察。体調不良のためか → 不健康を示す所感はない。朝のため 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:50 人 文字数:3011字 評価:1人
ツノダさんって知ってる? うん、そう、怖い話なんだけど、そっか、知らないか……。 ううん、幽霊とかはね、出てこないの。人間が怖い系のヤツ。 聞きたい? うん、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:kazzy お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:32 人 文字数:581字 評価:0人
ワタシは被害者だと思う。絶対にその認識は揺らがない。揺らいでは、存在の根拠が、ない。 そんな女性患者は多い。医師の片瀬はカルテを外来ナースに渡しながら、ふと軽 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もりえつりんご お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:38 人 文字数:3217字 評価:0人
[ねじれた女 Woman twisted]ナースコールが響いていた。朝陽に緑が透けるような木漏れ日の落ちた庭は彩度が高く、眼鏡で石板の照り返しを受け止めながら進 〈続きを読む〉

キメキメ! プリキュアの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:キメキメ! プリキュア お題:ねじれた女 必須要素:ミュンヒハウゼン症候群 制限時間:1時間 読者:21 人 文字数:3164字 評価:1人
「何事もバランスが大切だよね」とヒビキが言うので、私は「しかりぃ~」とアイスコーヒーのストローを咥えて生返事をする。「肉を食いすぎたら野菜を食べる、徹夜で遊んだ 〈続きを読む〉