お題:許せない顔 必須要素:ピスタチオ 制限時間:15分 読者:297 人 文字数:736字

顔の正体
 僕は子供の頃、父親に仕事の愚痴をたくさん聞かされていた。教訓めいたものは多かったが、実際に教訓になったものはほとんどなかった。ただ1つを除いては。

 それは「人間にはどうしても許せない顔がある」というものだった。どんなに柔和な人でも、この顔だけは許せないという顔が存在するのだ。具体的にどこが許せないのかは本人にはわからない。とにかく、顔の持ち主の性格、人間関係とは関係なく、どうしても許せなくなってしまうのだ。
 父親はピスタチオの殻を剥きながら、僕にそのようなことを言った。

 当時は父親の言ってることがよくわからなかった。『ピスタチオの中身は好きだけど、殻だけはどうしても許せない』みたいなことだろうか――と思っていた。だが僕は、その教訓だけは特別視した。そして、その教訓とは真逆の人生を歩む決意をした。
 つまり「どうしても許せる顔がある」という教訓にしたのだ。

 僕はそれ以降、周りの人にできるだけ親切に接するようにした。学校では友達の宿題を手伝ったり、ラブレターを代わりに下駄箱に入れてあげた。そんな僕のことを気に入ってくれたのか、担任の先生は僕をボランティア部というところに紹介してくれた。

 しかし、ここの部長はとんでもない人だった。美少女ではあるのだが、性格がひどい。『人間は親切にしてあげないと猛獣になる』がモットーだった。いわゆる性悪説。そして、僕が自己紹介をすると「私にはね、どうしても許せない顔があるの」と言った。僕の主張と真逆だった。

「君にもあるんじゃないの? 例えば自分の顔とか」と、彼女は言った。そういった彼女の顔は歪んでいた。それを見た僕の顔も歪んでいた。僕達はお互いに、お互いが許せない顔を写しあったかのようになっていた。
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