お題:難しい事故 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:4時間 読者:208 人 文字数:2771字

狂気の連鎖

むかしむかし、あるところに。

年齢不詳のおじいさんー見た目はお兄さんですが、ここでは本来の年齢に則りそう呼びますーとおばあさんーおじいさんと同じく見た目はお姉さんーが住んでいました。

朝起きると、おじいさんは山へ芝刈り、おばあさんは川へ洗濯をしに行きます。

すると、おばあさんが川で洗濯をしていると上流からどんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れてきました。

「あら、持って帰っておじいさんと食べましょう」

おばあさんは川に入り、桃を上手に拾うと洗濯物と一緒にその桃を持って帰ります。

おじいさんが帰ってくるのを待ち、桃を二人がかりで真ん中から割ると、そこから元気な男の子が出てきました。

「桃から出てきたから、桃太郎と名付けよう」

おじいさんの提案で、男の子は桃太郎と名付けられ、おじいさんとおばあさんと二人の手によって大切に育てられました。

それから時は経ち、桃太郎は立派な青年へと成長します。

「おじいさん、おばあさん。 僕は人々を苦しめるという、噂の鬼を鬼ヶ島へ退治しに行ってくるよ」

ある日、桃太郎は育ての親の二人に宣言します。

最初は危ないから止めるように説得しましたが、桃太郎の決意は固く、最終的に二人は応援することに決めました。

「そうかい、気をつけて行っておいで」

「吉備団子を作ったから、持ってお行き」

「おじいさん、おばあさん、ありがとう。 行ってきます」

吉備団子を持った桃太郎は人々をこらしめる鬼を退治する為の旅に出ることになりました。

道中、仲間になりたそうな雉、猿、犬に吉備団子を食べさせると人の言葉を理解するようになり、鬼退治を協力することを誓ってくれました。

そして、鬼ヶ島に着き人々を苦しめる鬼を退治する決意を三人で決起表明をしてからラスボスが居るであろう扉を開けました。

「おじいさん、おばあさん?! 何で、ここにいるんですか!」

何ということでしょう、鬼がいると言われていた場所に居たのは、桃太郎を育ててくれた、あのおじいさんとおばあさんだったのです。

「何でって、桃太郎や。 ここは私達の島だからだよ」

「実験をするのに便利だから、村からある程度離れた場所に施設を作ってるんだよ。 お前が生まれたのもこの島さ」

「僕が、この島で……?」

胸の動悸が激しくなり、どくどくと嫌な汗が桃太郎の額や背中に伝います。

桃太郎には、生まれた頃の記憶はありません。

生みの親も知りません。

ただ、おじいさんとおばあさんに大切に育てられた記憶しかないのです。

「若返りの薬の研究をしているんだよ」

にっこりと微笑むおばあさんは、とてもおばあさんに見えない綺麗な肌と、しゃんとした背中です。

「私達はね、成し遂げたい研究がある。 だからまだ、死ぬ訳にはいかないんだ」

真っ直ぐに桃太郎を見るおじいさんも、同じく見た目はお兄さんと呼んでも可笑しくない容貌です。

一気に沢山のことを言われ、混乱する桃太郎ですが、彼を庇うように雉と猿と犬が前へと出ます。

「桃太郎様、しっかりして下さい!」

「我等は鬼を必ず退治しようと約束したではありませんか!」

「こやつらは、私共を動物にした悪魔です!」

羽を威嚇するように掲げ、牙を向き、敵へと吠える彼等の見詰める先は、笑顔の二人です。

本当のことなのか、定かではありませんが仲間の本気は後ろからでも伝わってきます。

「人体実験の失敗作が煩いねぇ。 確かにあれは難しかった」

「難しい事故には失敗が付き物。 でも、お陰で成果も得られた。 その点において、私は彼等に感謝しているよ」

「……嘘、だ……」

がくがく、と寒くもないのに桃太郎の震えは止まりません。

「本当さ、お前の母も父も研究者。 でも、良心の呵責に耐えかねたのか母はお前を身籠ったまま自殺。 父は私達を殺そうとしたが、私が返り討ちにしてやった」

「お前は、死んだ母の中でも立派に育ったんだねぇ。 あの女が川から流れてきた時は驚いた。 腹を割いたら、元気な男の子が生まれてきたから驚いたよ。 お前は実の息子の血を引いている孫。 だから大切に育ててやったんだ」

「……桃太郎様が、こいつらの孫?」

雉が目を見開いてこちらを見つめます。

「待て、雉。 桃太郎様はこやつら鬼の所業をしていない。 血が繋がっているだけで恨むのは違う」

「猿の言う通りだ。 桃太郎様は鬼を退治してくれると約束してくれた。 これ以上、村から犠牲者を出す訳にはいかない!」

猿と犬は、桃太郎を信じて言ってくれます。

「待って、村人をおばあさんとおじいさんはどうやって……」

村人が困っているという噂を聞きつけ、桃太郎は鬼退治を決意しました。

でも、本当に村人に彼等は何かしたのでしょうか?

「最後だからね、全部教えてあげるよ。 実験する為に山に山菜を取りに来る者や、動物を狩りにきた人間を見つけにいくのがおじいさんの仕事さ」

「最近は、とんと人数が減ったがね。 でも生きていく為にやっぱり食べ物を取れるのがこの山くらいだから、村人も覚悟を決めてやってくるさ」

「……桃太郎、お前も覚悟を決めなさい」

おばあさんに言われ、桃太郎は腰にさした日本刀を握りしめます。

「「「桃太郎様っ!」」」

仲間の掛け声を聞き、しっかりと目を開けて対象を見つめます。

勿論、仲間の動物達を斬るという選択肢もありました。

けれど、やっぱり人道的に許せないのは、おじいさんとおばあさんです。

「僕は、僕の正義を貫く」

それが、桃太郎なりの育ててくれた、おじいさんとおばあさんへの感謝の気持ちでした。

それから、仲間と協力し、鬼と呼ばれた非人道的実験を繰り返していたおばあさんと、おじいさんを退治した桃太郎は、鬼ヶ島にある財宝ー若返りの秘薬ーを持ち、島にある施設を燃やしました。

そして、幾らか残っていたお金などを四人で分け合い、そこでそれぞれ別れます。

「僕は、一体……。 僕もまた、人殺しだ」

育てて貰った家に戻ってきた桃太郎は一人呟きます。

動物にされた、と言っていた彼等を元に戻す方法も分かりません。

どうやって彼等が生きていくかも、聞きませんでした。

「僕も人から見れば親殺しの『鬼』なのだろう……」

愕然と呟くものの、桃太郎の声に答える者はいません。

涙も流れず、ただ、虚空を見詰めるだけ。

「ははは、あははははは」

誰もいない家で、桃太郎は狂ったように笑い続けました。

それから、彼がどうなったのか知る者はいません。

けれど、たった一つ確かなのはもう山に人拐い愕然出ないということ。

それだけなのです。



おわり
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:難しい事故 制限時間:4時間 読者:132 人 文字数:3993字
ああ、やってしまった。自分の手がやってしまった事が信じられなくて、信じたくなくて、私は両目をぎゅっと瞑った。夢でありますように夢でありますように。それか目を開け 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:むにゃむにゃ@即興 お題:難しい事故 制限時間:15分 読者:65 人 文字数:513字
スマホを取り上げられた。テストの成績を見せた日の事だ。親に「成績はどうだったの?」と聞かれ、特に何も考えずに渡した。随分前に返却されたものなので、結果なんて頭か 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:紅夜 お題:絵描きの母 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:4時間 読者:303 人 文字数:3404字
>大東急時代。京王以降。「もーもたろさんももたろさん♪」 なにか歌っているんだが、そんなに暇だったら書類をどうにかするつもりはないのか。「帝都にやって貰うから大 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:恥ずかしい雲 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:15分 読者:10 人 文字数:846字
鬼退治が終わって、桃太郎氏が地元に凱旋し、姫と宝物についてどうするかという話になり、結構な大ごとになり、私達犬猿雉は多少の混乱がありました。桃太郎氏は連日、町の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:きぬ@通販はプロフ参照 お題:絵描きの牢屋 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:30分 読者:38 人 文字数:1461字
ワイセツトガハンプザイ。どうやらそれが俺の罪名らしい。なんで図画と書くのにズガじゃなくてトガなのか、結局役人というやつはいつだって分かりにくい言い回しがお好きだ 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:哀れな時雨 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:15分 読者:6 人 文字数:581字
今は昔、桃太郎と言うモモから生まれた男が居た。 桃太郎は団子を与え犬、雉、猿を仲間に加え鬼退治を向かった。 鬼の島は鬼の顔をした岩山であり、ひと目で分かる。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:昔の船 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:659字
昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがおったとさ。ある日おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に、そうそれはいつものルーチンワーク。その日はなんの変 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ハチマル お題:鳥の衝撃 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:30分 読者:56 人 文字数:868字
俺についての事ならば、日本人なら大体知ってるだろう。ほら、桃から産まれて鬼を退治して、宝物をもって帰るヤツだ。今回で鬼退治は257698032回目になる。女に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:シンプルな部屋 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:30分 読者:19 人 文字数:1421字
むがしむかし、あるところに、元気なお兄さんとお姉さんが住んでおりました。2人はショッピングモールに出かけに行くために、車に乗りました。ブロロロロロ────「楽 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:空前絶後の悲劇 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:15分 読者:42 人 文字数:753字
本来拾うはずのババが、風呂場で足を滑らせて転び、背中を打って入院した。そのため桃は拾われず流れて行ってしまった。ジジにしても今では時代錯誤と騒がれるが、ババがい 〈続きを読む〉

優姫の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:優姫 お題:猫の冬休み 必須要素:CD 制限時間:30分 読者:203 人 文字数:476字
有名な童謡の一節にこうある。雪が降れば犬は庭駆け回り、猫は炬燵で丸くなる、と。我が家の気紛れな猫ーのような少年ーの冬休みも犬のように外で精力的に駆け回るものでは 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:優姫 お題:愛と欲望の多数派 必須要素:宗教 制限時間:2時間 読者:210 人 文字数:679字
「貴方が一番大切にしているのは何ですか?」そんな問い掛けから始まったそれは、後に大きな波紋を呼ぶ一言となる。この国は、国を上げて推奨している宗教がない。その代わ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:優姫 お題:小説の中の哀れみ 制限時間:15分 読者:215 人 文字数:590字
「小説の中の哀れみほど滑稽なものはない。 何故ならば、全て作り物なのだから」彼女はそう言いながら流行りの恋愛小説を机に投げた。ばさり、という紙が机に叩きつけられ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:優姫 お題:難しい事故 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ 制限時間:4時間 読者:208 人 文字数:2771字
むかしむかし、あるところに。年齢不詳のおじいさんー見た目はお兄さんですが、ここでは本来の年齢に則りそう呼びますーとおばあさんーおじいさんと同じく見た目はお姉さん 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:優姫 お題:そ、それは・・・ボーイズ 制限時間:4時間 読者:245 人 文字数:547字
「見てみて、この絵すっごく私の好みなんだけどー!」学校帰り、書店に立ち寄った友人は店に入るや否や勝手に行動をし、テンション高くそう一冊の本を掲げながら戻ってきた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:優姫 お題:わたしの好きな血液 必須要素:首相 制限時間:4時間 読者:194 人 文字数:2008字
ー…『貴方の協力で救える命があります。 献血にご協力、お願いします』テレビから流れてくる声に振り向けば、現在の首相がこちらー視聴者ーに向けて真っ直ぐ告げているの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:優姫 お題:昼間の狙撃手 制限時間:30分 読者:205 人 文字数:1143字
キリキリ、と弓が張りつめる音が静かな道場に響く。彼女が狙いを定めて、その華奢な指が尾羽を離すまでの時間が、見ているこちらには短くも、長くとも感じる。息をすること 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:優姫 お題:未熟な武器 必須要素: 制限時間:2時間 読者:199 人 文字数:561字
時は平成よりもずっと前に遡り、人々が太陽暦を使うよりも遥か前の時代。未開の土地が今よりも多く残り、山が神聖なものとされ滅多に人が立ち入らなかったその土地に眠るひ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:優姫 お題:左のゲーム 必須要素:ピアノ 制限時間:15分 読者:215 人 文字数:731字
「……くっ、……っあ! また……」目の前には白と黒の鍵盤がお行儀良く並び、演奏してくれる人を待っている。けれど、ピアノを習ったことのない人間が見よう見まねで触っ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:優姫 お題:どうあがいても葬式 必須要素:とんかつ 制限時間:2時間 読者:187 人 文字数:999字
「ねぇ、貴方の為に言ってるの。 ほら、とっても素敵なお着物でしょう?」年配の女性に声を掛けられ、パンフレット片手に話し込むことかれこれ二十分。身なりも落ち着いた 〈続きを読む〉