お題:3月の春雨 必須要素:警察 制限時間:4時間 読者:121 人 文字数:2253字

春雨とともに訪れ、春雨とともに去る
「住宅街に出没していたニジウメロカバ、捕獲!」
 それは三月のピンクの春雨は降りしきる頃であっただろうか?
 警官がニジウメロカバを確保していた光景を見たのは。
 それが私とニジウメロカバとの出会いだった。



 ピンクの雨を降らすと云われているニジウメロカバ。
 ニジウメロカバはこの地域に住んでいるとは知っていたが、その姿を見た地域の住民は殆どいない。
 元から臆病な気質であると同時に、絶滅危惧種に指定されるほど個体数が減っているからだ。
 そのニジウメロカバが住宅街に出没していたとなると、余程食料がなかったか、他のニジウメロカバに縄張りを追い出されたかのどちらか……あるいはその両方だろう。
 このニジウメロカバが捕獲されたことは、ニジウメロカバの生態を研究するのにうってつけの機会であった。



 捕獲されたニジウメロカバを、私達は近くの動物園に移送した。
 ピンク色のゴムのように艶のある皮膚、小さなカバのような身体、そしてつぶらな瞳……遠目からニジウメロカバを観察したことが会ったが、こんなにも間近に見るのは初めてである。
 動物園に移送され、檻から解放されたニジウメロカバは、最初は与えられた餌のフルーツを口にせず、辺りにピンク色の糞を撒き散らしながら周囲を警戒していた。慣れない環境だ。警戒するのも致し方無い。
 移送されてから二日後。余程腹を減らしたのか、私達が出している餌に口をつけ始めた。
 それから三日も経つと、餌を与える飼育員に対しては懐くようになってきた。
 私達人間を味方だと見なし始めてきたのだろう。ニジウメロカバ担当になった田中エミ氏も、懐いてきたことを嬉しがっていた。
 移送されてから一ヶ月頃になると、私のようなニジウメロカバの研究員も懐くとまではいかないが、警戒をしなくなった。
 この頃動物園側から、ニジウメロカバを公開しても良いかという打診が入ってきた。私はニジウメロカバを大衆に公開するのはあまりにもデリケート過ぎるということで、人にすっかり慣れきるまで暫く観察すべしと答えた。



 移送されてから一年が経過した。その間、大衆のニジウメロカバ公開の声はどんどん大きくなっていった。
 当のニジウメロカバ――名付けられた名前はビッキー――も、この頃になると私達人間を殆ど警戒しなくなっていた。
 私は動物園にビッキーを公開する許可を与えることにした。ただし、少しでも体調が思わしくない時はすぐに引っ込めるという条件付きで。



 こうして、幻のニジウメロカバが世界で初めて動物園にて大衆の目に触れることになった。
 辺境の地域にあるにもかかわらず、世界中の人々がこの動物園にやってきた。勿論、お目当ては幻のニジウメロカバ、ビッキーだ。
 人々の前にビッキーが現れると、人々は歓声を上げた。
 ビッキーが何か仕草をする度に人々はまた歓声を上げ、まるで中国からやってきたパンダが初めてお披露目された時の頃のようであった。
 閉園時間になり、戻ってきたビッキーの体調を私達が見る。ビッキーは私達の予想とは裏腹に、調子が良さそうであった。
 もう少し公開していても良いだろう……私達はそう判断したのだ。
 まさか、あのようなことが起きるとは……私は未だに予想もつかなかった……。



 ビッキーの担当飼育員である田中エミ氏から緊急の連絡があったのは、公開初日から三日後の事。私がニジウメロカバ研究の学会に出席していた時であった。
「ビッキーが……ビッキーが……消えてしまったのです!」
 彼女の声が震えていたのをよく覚えている。
「消えてしまった? 死んでしまったとか、逃げてしまったのではなく?」
「ええ。そう形容することしかできないことが起きたのです……」
 私は即座に学会を早退し、ピンクの雨が降りしきる動物園に駆けつける。動物園は臨時休業し、ニジウメロカバを見にやってきた筈の人々が騒いでいた。
「この監視カメラの映像を見て下さい。見ればわかると思います。」
 彼女は私に監視カメラの映像を見せた。その中に到底信じられない内容が映っていた。
 雨の降りしきる中、大衆の目の前でビッキーの姿が少しずつ薄れ、やがて消えたのだ。私は当初合成かと疑った。だが、彼女を含めた多くの人々が実際にビッキーが消えていく様子を見たのだという。更に彼女は周囲に同化する擬態能力でも持っているのではないかと疑って、ビッキーがいた檻を捜索したが、本当に消えてしまったらしい。
「兎に角、動物園とその周囲を捜索するんだ。」
 予測のできない出来事に、私はただこう言うしか無かった。



 そうして、動物園およびニジウメロカバ研究員総出でビッキーの捜索を行ったが、ビッキーは結局見つかることはなかった。
 ビッキーが消えた事件はたちまち世界中でニュースとなり、様々な憶測やオカルトじみた話まで流布することになった。
 私はニジウメロカバ消失事件についての責任を問われ、クビにならなかったものの、騒動が鎮まるまで幾度も謝罪会見を行った。
 やがて、ニジウメロカバを保護していた動物園は一気に寂れて、閉園までに至った。ニジウメロカバの担当飼育員であった田中エミ氏は別の動物園に務めているという。
 私は外を見やった。空は曇り、ピンクの雨が降りしきる。私が思うに、ビッキーはピンクの雨になったのではないかと思う。
 科学的根拠はない。ただ、そうとしか思えないのだ……
作者にコメント

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