お題:小さな宗教 制限時間:2時間 読者:136 人 文字数:1740字

Cyber gravepost

――――

「やぁ、また来たよ母さん。」

 僕はとあるユーザーのアカウントページにアクセスした。帽子を被った黒いうさぎのアイコンが可愛らしい。
 使っていたサービスの一つである、ソーシャルブックマークサービスのページにアクセスする。
 最近のブックマークリストはツイッターのアカウントのタイムラインに流れるURLをピックアップしたニュースサイトのページと、そのツイートをただ記録するブログの記事だけだ。
 僕はどんどん下へとスクロールする。20**年*月**日以前のブックマークリストから、一言コメントのあるブックマークリストが現れ始める。
 下にスクロールする手間は段々増えてきているが、僕にはそのユーザーの近親者である証拠を運営に提示することができず、設定を変更することができない。
 機械的に母さんが生きた証をどんどん埋められていく様子はとてももどかしい。
 僕は母さんが遺したコメントを読みつつ、かつての母さんのことを回想する。

――――

『結局、精神転送は実現しなかったね…』

 僕の母さんはそうツイートした。
 正確にはそれが出来うるだけの技術はできた。が、倫理協定によって人間を元にした人工生命体を作ることが禁じられたのだ。
 これで、母さんが夢見ていた(といっても、一般に普及するまで年齢的に厳しかったが)精神転送して人工知能になる望みは絶たれた。
 このニュースを知って以降、母さんは息子である僕に干渉するようになる。
 母さんは僕のツイートに対して、積極的に返信するようになり、リアルでは僕に対して自分語りや経験則を話すようになっていった……かつては母さん本人もそういうのを嫌がっていたにも関わらず。
 僕は反発した。リアルでは母さんの話を聞かずに別のことをし、ツイートについてはブロックするぞと脅迫して母さんを黙らせた。母さんは僕に気付かれない程、暗喩的に言及していたようだが。
 そんな関係が変わり始めたのは、母さんの体調が崩れ始めた時。
 今まで元気に歩きまわっていた母さんは段々動くのも億劫になり、とうとう寝たきりになった。医師からもう長くはないと宣告された。
 寝たきりになってからは毎日のツイートとブックマークコメントを付けるにが趣味になり、その中で自分の死や死後について思いを馳せる言葉が多くなっていった。

「母さんごめん……」

 僕は母さんの話を聞かなかったことを後悔した。もう先は長くはないのだ。

「私だってああすればよかったと後悔したことがあるよ……これからは後悔しないように生きていけばいい。」

 母さんは咎めなかった。

――――

 母さんの容体の急変を知ったのは、20**年*月**日、8時頃。
 急いで駆けつけた時には意識が混濁し、僕の手を握り返すので精一杯だった。
「母さん母さん……生きて……」
 そして……20**年*月**日、9時38分、母さんは、永眠した。
 関係者たちが葬式の準備をしている頃、僕は20**年*月**日の母さんのツイートやブックマークコメントを見返した。

『さて、今日の辞世の句を考えねば』

 ここ最近のツイートの最後は、今日の辞世の句で締めくくられていた。もう死期が近いことを悟っていたのだろう。

『前にツイートしたこの辞世の句にしよう
 一々考えるの面倒くさいしw』

『逝くときの
 気分は死後の
 伊達政宗
 
 字余り』

 ……その後、母さんは無縁仏として葬られた。

――――

 過去の回想から現在に戻ってきた僕は、ページを閉じた。

『経営破綻による、全サービス終了のお知らせ』

 というお知らせが、ヘッダー上に表示される。
 長らくこのサービスを提供してきたこの運営も経営破綻により、近々終了する予定だという。
 母さんのも含む膨大な量のデータの行方は、まだわかっていない。
 引き取れるものなら引き取ってやりたいが、僕の立場を考えると望みは薄いだろう。
 アカウントのデータが……故人が生きた証が消えるのが、僕にとってとても辛かった。

 母さんの厳密な血縁者でもない僕にとって、母さんのアカウントは遺影でもあり、仏壇でもあり、墓標であったのだ……

 
作者にコメント

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