お題:刹那の即興小説 制限時間:1時間 読者:150 人 文字数:1565字

道場破り
この男が無遠慮にもこの道場にやってきたのは一刻程前であっただろうか。
媚茶色の着物を着たこの男は、門下の者ではない癖に堂々と入ってきては、道場の真ん中にでんと腰掛けると腕組みをして目をつぶった。

下っ端の声には耳を貸さないとでも言うのだろうか。
その態度にいささか呆れていると、奥から怒鳴り声が聞こえてきた。
大方血の気の多い師範が、師範代たちの制止を振りほどいたのだろう。

「道場破りか、久方ぶりよのう」

師範がやってきた男の目の前に立つと、これまた同じようにでんとその場に胡座をかいた。
男はようやく目を開けると、自分の向かいに座る師範をギロリと睨みつけた。
師範の身から発せられる気にあてられたか、男は口を開いた。

「いかにも。それがしは己が力量を量らんと行脚をしている身。聞けばこの道場、門下の者であってもなかなかの腕前とか」

「さよう。この道場はこの国一と呼ばれる名門中の名門。それを知ってやってくるとは、うぬの心意気まずは認めよう」

師範が男の目をじっしと見て言った。
門下の者たちは皆囲むように固唾をのんで二人を見ている。

「おい」

師範が声をかけ、近くの者が側へと来た。
同級の平三郎であった。

「わしの『ぴーしー』をここへ」

平三郎は奥へと走り、師範の『ぴーしー』を持って来た。
老眼にも優しい十七いんちの大きな画面ののーとぴーしーである。

「どんな物だろうと扱えなければ無用の長物よ」

「その言葉、後で後悔されるがよい。して、時間は」

「四刻半だ」

男の提示した時刻にまわりの門下生たちがざわついた。
四刻半で物語を完成させるというのは、この道場でも至難の業。
ごく限られた者のみが達成することができる時刻であった。

対して、師範はにやりと笑うとのーとぴーしーを起動させた。
男は傍らに置かれていた解れた手ぬぐいを大事そうに持つと、はらりとその布をめくった。

「(む、こやつ……!)」

男の手元を見た師範はぴくりと眉を動かした。
その手ぬぐいから現れたのは五寸もない箱であった。

「あ、あれは南蛮からやってきたという『すまーとふぉん』ではなかろうか」

いつの間にか隣りに来ていた平三郎がひそひそと話かけてきた。
いわば南蛮渡来の脇差し、いや短刀という物だろうか。
あの男、まさかあれでやるつもりなのか?

すまーとふぉんを見る男の表情はこちらからは伺い知れない。
ただその口元は笑っているように見えた。

勝負の立会人は師範代が名乗りを上げた。

「はじめっ」

ドドンと太鼓が打たれた。
師範と男が画面に目をやる。


お題:刹那の即興小説


師範は大きく息を吸うと、カッと目を見開いた。
師範の流れるようなぶらいんどたっちが音も無く繰り出された。

対する男は、切支丹が印を結ぶようになにやら指を上へ下へと動かしている。

「あれは、『ふりっくにゅうりょく』!」

平三郎が驚いた声を上げた。
聞いた事のない戦法だ。
あれも南蛮仕込みなのだろうか。

「こんな勝負、一生に一度お目にかかれるかわからんぞ」

師範と男の凄まじい気迫に、勝負を見ていた誰かが呟いた。


「それまでぇっ」

ドドンと再び太鼓が鳴った。

ぜいぜいと息を切らした二人はその場に崩れた。

「師範っ!」

慌てて駆け寄ろうとした皆を制するかのように、師範はその右腕を突き出した。

「いささか疲れた。行脚しているだけのことはある、うぬもやりよるのう」

師範はカカカと笑った。

「いや、名門という名に恥じぬ闘いぶりであった。それがしの負けだ」

そう言うと男は師範に向かって頭を垂れた。

わらわらと皆な師範と男を取り囲む。
男の持つすまーとふぉんの画面には「未完」の文字が浮かんでいた。
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