お題:商業的な海 制限時間:30分 読者:80 人 文字数:1492字
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サンマ
 海の世界。というと何を思い浮かべるだろうか。
 イルカ、クジラ? 海の生物だったり、漁業だろうか。
 まぁ、色んなものが思い浮かぶと思う。
 まぁ仕事ってのは大変だ。
「オイ! 新入りィ! ボヤッとするんじゃねぇぞ!」
「ういっす! おやっさん!」
 こんな風に怒鳴られてたりすることもある。
 でもな、いいこともあったりするんだ。まぁ聞いてくれ。
 今の俺の身体は大海の上にあった。
 もう少し正確に言うと、とある漁船の上だった。
 朝の午前七時。
 出発したのは午前五時ぐらいだっただろうか。
 ともかく。
 俺はこの漁船、五郎丸の上で船長のおやっさん、立垣さんの指示に従って、サンマ漁に励んでいた。
 まさしく、商業的な海。
「くんぞぉおおおおお!」
 船灯近くに置かれているリールが一気に周り、漁網が船板の上にずっしりと広がっていく。
 かかっているのは海藻だったり、藻であったり、様々だ。
 しかし少しすると、青白い鱗を蝶のように弾かせて、サンマがかかる。
 これが俺たちの宝であり、命綱だ。
「……ふぅ、これぐらいかぁ……」
 やがて漁網がすべて引き終わり、おやっさんは息をつく。
「おう、小僧一杯やるか?」
 おやっさんは先程までの厳つい表情を潜め、柔和な笑顔を浮かべると言った。
「はい!」
 何も一杯やるというのは、酒のことではない。
 飯だ。
 おやっさんは一尾のサンマを手で掴むと、置いてあったまな板の上に載せた。
「へっへっ、活きがいいねぇ」
 腹部に包丁を当てながら、まだおやっさんの手の中で跳ねるサンマ。
「それじゃ、今日も海に感謝してっと……」
 おやっさんはそう言って、一気に腹部に当てた包丁を押し込み、サンマを捌き始めた。
 まな板の上には血液が垂れ落ちる。
 俺も最初こそは生きている魚を捌く光景に目を点にして驚いたものだったが、今となってはサンマがとあるものに見える。
 それは……。
 おやっさんはサンマを綺麗に身だけにすると、一口大に身を斬っていく。
 刺し身だった。
 おやっさんはその青色と桃色のコントラストが、食欲を激しく激しく呼び起こす刺し身を皿に並べていく。
「……ごくっ」
 本来サンマと言えば焼きサンマというのがメジャーだと思うが、俺が推したいのはこれだ。
「ふっ、うれっしそうな顔しやがってよー、オラ、米だ!」
 まだ肌寒い風が吹く船上で、ほかほかと湯気が上がっている白米を手渡される。
「おめぇはこれをくれてやんねぇと仕事の一つも覚えなかったからなぁ……」
「ははっ、申し訳ねぇです」
 俺はそう言って、先ほどまでバネのように跳ねて、活きの良かったサンマの刺し身に醤油を差して、わさびをのっける。
 そして、豪快に。
 米と刺し身を口内に放り投げる。
 その瞬間、広がったのは。
 程よい脂の甘い味と、若干の磯臭さ。それが米のでんぷんに含まれる甘みによって、混ぜ合わさり、形容のし難い美味みを、頬肉に、舌に、胃袋に届けてくれる。
「……おやっさん、最高です……っ!」
「ガハハハっ、そうかい! まぁいい、俺もいただくとしようかね」
 そういっておやっさんは、俺と肩を並べて食事をする。

 漁師っていうと、イメージ的には3K仕事だなんて言われる。
 でも、でもだ。
 こんな風に暖かい海を知ることもできる。
 おやっさんお手製の暖かい漁師飯を食いながら、馬鹿話で大笑いする。
 俺の海はやっぱこれだ。
 そして、俺とおやっさんは同時に手を合わせる。
 ごちそうさま、と。
 ……仕事も、悪くないと思える、そんな一時だった。
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