お題:愛、それは怒り 必須要素:ボーイズラブ 制限時間:30分 読者:237 人 文字数:1401字

愛とはかくや

「こんなのありえない!」

 突然叫び出したのは週刊の漫画誌を読んでいた妹の和美だ。ソファに寄りかかってテレビを見ていた沙耶香はびくりと体を跳ねさせカーペットの上で座り込む妹を見やる。それまで時折押し殺した笑いを零してはいたが静かにしていたはずの妹。突然の奇声に心配せずにはいられず、床に置いた漫画雑誌を見下ろし体を震わせている和美に声をかけた。

「どうしたの?」

 姉の問いかけに、和美は眉尻を上げて振り返る。自分が何かしたかと錯覚するほど厳しい視線に沙耶香は少し身を縮めた。そんな姉に、和美はばっと開きっ放しのページを見せ付ける。そこに描かれているのはふたりの男性キャラクター。確かこれは、和美が大好きな漫画のはずで、この内のひとりは和美のお気に入りのキャラクターのはずだ。「推しメン」だと言って彼女の部屋には彼のグッズが山のようにある。母と「無駄遣いだ」「そんなことない」の喧嘩の元なのでよく覚えていた。

「……これが?」

 妹と違い漫画にはさほど興味のない沙耶香は彼女の言わんとすることが分からず首を傾げる。そんな姉に和美はもどかしそうに向かって左側のページの真ん中辺りのコマを示した。

「これ! この台詞! こんな台詞雪が言うなんて!」

 雪とはこの男性キャラクターの愛称で、本名は確か雪和だっただろうか。沙耶香は妹の示したコマを改めて見やって頭の中で台詞を復唱する。

(えーと、『俺はあいつを助けるべきとは思えない。あいつが選んだことなら、俺たちがとやかく口を出すべきじゃない。……そう思う』)

 話が分からないのでざっと前後のコマも見てみた。どうやらキャラの一人がいなくなってしまい、それを他の仲間が助けに行こうと言っているようだ。件のコマは『雪』がそれを否定しているシーン。沙耶香は何がいけないのだろうと首を傾げる。この漫画は「絶対読んで」と和美が貸してくれたので読んだことがあるが、このキャラは確かにこう言いそうなキャラだ、と思えた。

 しかしどうやら、和美の『解釈』は違うらしい。

「駄目駄目! こんなの駄目! 雪は真一のこと迎えに行かなきゃおかしいの! あいつは俺が連れて帰るくらい絶対言うはずなのに何で行かないなんて言ってるの!?」

 絶対おかしい! と荒ぶる和美を尻目に、沙耶香は「そういうことか……」と軽いため息をつく。これは完全に沙耶香には理解出来ない領域だが、和美は世間でいう所の「腐女子」であり、『雪』と『真一』はお気に入りの組み合わせらしい。彼女の部屋にある『雪』のグッズには必ずと言っていいほどセットで『真一』のグッズもある。曰く、「このふたりは離しちゃ駄目なの」だそう。

 雑誌を破りそうなほど握り締める和美を「とりあえず先に読み進めてみれば」と宥めること数分。ようやく落ち着いた和美が漫画に戻った頃には、見たいコーナーは次のコーナーに変わってしまっていた。

「……怒りが湧くのは好きだから、ってのも、考え物だね」

 溜め息と共にぼそりと沙耶香は呟く。それは以前和美が言ったこと。同じように暴走した和美を叱りつけた際、彼女が言い放った理由だった。

 それに付き合わされるこっちの身にもなってくれ。そんな些細な願いは、最後のページで「やっぱり真一が大事なんだねこのツンデレめー!」と晴れやかな笑顔を浮かべた妹にはきっと通じない。

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