お題:赤い吐息 必須要素:にゃんまげ 制限時間:30分 読者:315 人 文字数:1157字

死の扉
「にゃんまげ!」

 スプレーアーティストの猫目小太郎は思いつくままの奇妙な言葉を時折叫びながら、
 スプレー缶から漏れた赤い吐息を無機質な灰色のキャンバスに吹きかけていた。

 なぜ下書きもせずに芸術的な作品が描かれるのか。それは彼の脳が特殊だからとしか言い様がない。
 彼の人懐っこさはまるで発情期の猫のようだが、それは彼自身が子供の頃、暗い部屋に隔離されて育てられた事に起因する。
 不思議なことに、大勢の中で育てられた子供より、隔離されて育てられた子供の方が人懐っこい性格になる。

 場合にもよるが、単純に彼は人懐っこい性格を形成しなければ死ぬような状況に追い込まれたのだろう。

 いつも家に居ない父親は当てにならない故、周りの人間に愛想を振りまかなければ生きていけなかった。
 その事が彼を、周囲も驚く一芸極まるアーティストにしたと言ってもいいだろう。

 では、人懐っこいから「善人」かと言うとそうではない。隔離されて育った人間がまともに育つわけはない。彼は心の奥では人間そのものを恨んでいた。

 彼の赤く縁取られた絵は、何かマークのようでもあり、何かの「入り口」でもあるかのように見えた。



 私がまだ乾き切らないそれを触ってみたくなったのは、その異様に赤く縁取られた絵が、何か生々しい妖気を発した呪いの絵に見えたからだ。

 私がそっと壁に描かれた絵に触れると、まるで池か沼に手を突っ込んだ時のようにズブズブと飲み込まれはじめた。
 
 「うわぁ!」

 私は急いで手を引き抜こうとしたが、それは抜けないどころか、どんどん私の腕を飲み込んでいく。
 その勢いは私の抵抗など少しも受け入れる気のない、まるでコンベアのように等速で私の体ごと、ものの数秒で飲み込んでしまった。

 私は絵の中に閉じ込められてしまった。

 中は赤黒い洞窟のようになっており、奇妙な何かがうねりながら洞窟の壁を形成している。
 彼の世界だろうか。この赤黒い何かが彼の心の中を埋め尽くしており、それが芸術となって生み出されてる、という事なのだろうか。

 私は勝手な想像を膨らませていたが、それは間違いだった。
 眼前に無数に現れた屍者を見て一発で気付いた。これは単なる死者と生者を繋ぐ絵でしかなかったのだ。
 よく考えてみれば、スプレー缶によって描かれるマークに何の意味もない。

 あれは縄張りの印であり、チームの象徴であり、死や悪や憎悪、あらゆる負のものを呼び寄せる刻印なのであって、芸術などと言う高尚なものではなかったのだ。

 私は後悔した。死の世界に足を(手を?)踏み入れてしまった事に。
 怖いもの見たさで「死の安楽」に酔いしれてしまった事を。


 私は死者の世界から二度と生の世界に戻らなかった。
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