お題:せつない娘 制限時間:15分 読者:544 人 文字数:1624字

[ファンタジー風味?]いつもの街角
 僕はその子のために、何かをしてあげたかった。


 この町は、貧しい。一言で説明しろと言われれば、まず僕はそう答えるだろう。領主が税金を民から絞り上げて、民たちはその日の暮らしさえもいっぱいいっぱいな状況で、そこいらに飢え死にした死体が転がっていることも、ことに冬の前であるなら珍しくもなかった。

 僕が彼女と出会ったのは、水汲みの途中、ある街角にて、しゃがんでいる少女を僕が見とがめた、そのときだった。
 別に、そこいらにしゃがんだり、寝転んだりしている者は珍しくなんかない。生きているか、死んでいるかの差こそあれ。
 ただ、彼女は珍しく生きているようだったので、声をかけた。かけてしまった。

 そういうのを待って、盗みや強請をかけるやからも珍しくはないというのに、いかにも力も弱そうな、儚げな少女だったからという理由で、僕は声をかけてしまった。

「どうしたの」

 お金がないのはみんな同じこと。もし、お金がなくて、食べ物がなくて、なんて言われたら、さっさと流して立ち去るつもりだった。そして、僕の予想した彼女の返答はそういったものだった。
 でも実際は違った。

「お父さんを待っているのよ」

 肉親。自分には今やいない存在なので、とんと想像が及ばなかった。ふうん。なるほど。その程度の感想で済んでしまう。

「こんなところで? 危ないよ」
「でも、ここで待ってるって、決めたら。約束だもの」
 そう微笑んで、彼女は、また視線を下に戻し、うつむいた。

 その日は、そのまま僕は帰宅した。日が落ちる頃、カビのついたパンを夕飯にといくらか齧ったときに、彼女のことを少しだけ思い出したが、それだけだった。

 翌日。彼女は同じ場所にいた。

「どんな約束なの」
 僕は水瓶を横に置き、一緒に座り込んだ。少しだけ興味が沸いたからだ。肉親とは、どういったものなのだろうか。こんな寒い場所で、白い息を吐きながらも、微動だにしてはいけないほど、待ち焦がれる存在なのだろうか。
「お母さんがね、病気で。出稼ぎをしてくるって。お金ができたら戻るって」
 彼女は冷えてしまったのであろう手に自分の吐息を吹きかけた。自分だって、座ったおしりから、ひんやりと床が冷たい。
「守るって保証は?」
「信じているの、わたし。お父さんを」
 そう言って、彼女はまた微笑んだ。そう、体には気をつけてね。それだけ社交辞令を言って、僕は手を振る。そんな僕にも、彼女は精一杯手を振ってくれた。座り込んだままで。

 それから毎日、僕は彼女をそこで見かけるようになった。どんな時間に行っても、彼女はいた。時折、横に腰掛けて話をした。そしていつでも、彼女は希望を語るのだった。ほの暗い闇が満ちるこの町で、ひとりだけ、希望の灯火を抱いているかのように。

 そうした、ある日のこと。
 出会って、ちょうど一週間くらい経った頃だった。いつものように彼女が座り込んでいるであろう街角に、彼女がいるであろうと想定して僕は歩いていた。
 現実は、違った。彼女は居た、居たが、いつものように座り込んでいるのではなく、倒れ込んでいた。いつも座っている姿勢がそのまま横に崩れたような形で。

「ちょっと、だいじょうぶ?!」

 急いでかけつける僕に、周りの人からの視線が痛い。そう、こんなこと、人が倒れたり死んだりしているなんて、日常茶飯事なんだ。いちいち心配するほうがおかしいし、心配していたら自分がソンするだけなんだ。

「うん……」
「……ごはんは? 水は?」
 恐らくは、寝床もなく、本当にずっと、ここにいたのだろう。
 彼女の手は、冷え切っていた。
「ごめんね。ずっと嘘ついてたの」
「え?」
「病気だったのは私。お父さんが戻らないの、知ってたのに、ね」

 彼女はいつものように微笑んだ。
 僕は、せめてその冷たい手に暖かさを取り戻したくて、必死に手を握ることしかできなかった。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者: お題:せつない娘 制限時間:15分 読者:787 人 文字数:744字
「せつない娘?なんだいそれは。俺の本棚にそんな本あったか?」僕の読んでいた本の表紙を見て、ネズミは首を傾げた。紺色のカバーのそれは、ある程度ページ数のある大型の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:あやも お題:せつない娘 制限時間:15分 読者:302 人 文字数:974字
それは寒い冬の日のことだった。吐く息はもちろん白いし、風も冷たくて、太陽は少し雲に隠れてしまっているので、あまり日も当たらずちょっと薄暗い。今にも雪が降ってきそ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:苺子 お題:せつない娘 制限時間:15分 読者:292 人 文字数:291字
ずっと彼がすきだった。頭が良くないいけど、運動が得意で。顔が特別整ってるというわけではないけど、笑顔がすてきで。ちょっと話せば、すぐに笑わせてくれるずっと好きだ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:バルト海のウニ お題:せつない娘 制限時間:15分 読者:309 人 文字数:551字
あの、とその少女は控えめに切り出した。その瞳はきんと冷えた真夏のラムネのような張りつめた空気をたたえて、僕を見ていた。前髪が目にかかり、うつむきがちではあったが 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:彌桜怜夜@lapis お題:せつない娘 制限時間:15分 読者:766 人 文字数:712字
その娘は立っていた。 何をするでもなくただそこに存在している。 その目は虚空を見続けていた。 なぜ少女はそんなことをしているのか。 それを語るには時を半日ほど戻 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:あさま お題:せつない娘 必須要素:フランス 制限時間:15分 読者:291 人 文字数:653字
今日は朝から雨だ。冬の雨の日に相応しい服装で少女は森の小道をを進んでいく。時たま藪からつきだした葉先のコートの裾が触れ、木の擦れる音とともに沢山の水滴が落ちた。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
CD
作者:格之進 お題:せつない娘 必須要素:フランス 制限時間:15分 読者:257 人 文字数:542字
「これ下ちゃい」と小さな手で紙幣と一枚のCDを手に取って、レジの所へやって来た。そのCDはその年の女の子が聞くには些か渋いものである。70年代頃に活躍したフラ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:藍さん お題:難しい天才 制限時間:15分 読者:12 人 文字数:611字
僕には色覚がない皆が綺麗な赤色と言っても、僕には灰色にしか見えないし、新緑の綺麗な緑と言っても、暗い灰色としか見えない昔は、他と同じでないということに不満を覚え 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:こうきょう お題:ひねくれた極刑 制限時間:15分 読者:12 人 文字数:624字
広辞苑によると極刑とはこの上なく重い刑罰、死刑である。私は無期懲役で刑務所に入れられている元銀行強盗だ。働くのが嫌で、楽して金を稼ぎたいと考え、銀行強盗を思いつ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:reon お題:意外な冬 制限時間:15分 読者:13 人 文字数:493字
シンシンと雪が降っている。暗い空から落ちてくる白い粒を、窓越しに眺めながら吐息を吐いた。「まさか降るなんてなあ……」つぶやいてカレンダーを見る。日めくりカレンダ 〈続きを読む〉

幾山アカリの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:阿修羅探偵 制限時間:15分 読者:589 人 文字数:1678字
[ジャンル:現代?] 阿修羅という単語がある。 仏教やインド神話、様々な場所に出てくる単語だが、元来は神の一人の扱いであった。 しかし、徐々に「神に敵対するもの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:生かされた運命 制限時間:15分 読者:547 人 文字数:1608字
[ジャンル:ファンタジー?] 生きている人間が、生き残った人間がするべきこととはなんだろうか。 僕は、焼け野原の中心に立ち尽くして考えた。 僕は、よくある田舎の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:いわゆる悪魔 制限時間:15分 読者:495 人 文字数:1656字
ジャンル:現代 さて、私の目の前にいるものはなんであろうか。 ……小学生の頃から、おまじないなどには興味があり、すきあらばそういったことにチャレンジしてきていた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:純粋な夕飯 制限時間:15分 読者:788 人 文字数:1759字
ジャンル:現在 こんな異常な状況は、初めてだった。 そして、こんなにもマトモな食事は、久しぶりだった。----------------------------- 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:魅惑の冤罪 制限時間:15分 読者:654 人 文字数:1656字
ジャンル: 私は罪を侵してなどいない。 燃えるような民衆の瞳、眼差しの集まるその頂点で、私は一人、佇んでいた。 私の後ろには十字架がある。 それは私の体を縛り付 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:可愛い町 制限時間:15分 読者:1001 人 文字数:1889字
[ジャンル:ファンタジー] そこは、甘い町。 屋根はチョコレート、扉は砂糖菓子。 庭に生えている木はマシュマロで、その幹は飴でできている。 もちろんグミの実だっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:誰かのつるつる 制限時間:1時間 読者:782 人 文字数:6395字
[ジャンル:ファンタジー] 私は冒険者だ。 世界中の遺跡や魔物が棲むという危険な洞窟、様々な場所を行き来してお宝を手にしてそれを売買することを生業としている。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:君とクレジットカード 必須要素:文学フリマ 制限時間:15分 読者:739 人 文字数:1824字
[ジャンル:現代] 使っても使っても、現金がなくならない。 そんな錯覚を覚えていた。 そんなわけがないのに、私はクレジットカードというものの罠にすっかりハマって 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:思い出の雑踏 必須要素:文学フリマ 制限時間:15分 読者:803 人 文字数:1792字
[ジャンル:現代] 懐かしい思いを噛み締めながら、私は雑踏を歩く。 周りの人々は一様に、多少の差はあれどにこやかな笑顔だった。 手にわたあめを持ってはしゃぐ子供 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:今度の電撃 制限時間:15分 読者:997 人 文字数:1656字
[ジャンル:現代] ライトノベルという単語が出来たのはいつの頃だっただろうか。 それまで小説というのは小説という単語以外は存在しておらず、コラムだとか社説だとか 〈続きを読む〉