お題:アルパカのカップル 制限時間:1時間 読者:415 人 文字数:1863字

アルパカよりも駄目な俺
 先日、彼女に振られた。未練タラタラである自分とは違い、彼女は肩の荷が降りたように清々しい表情をしていた。最後にみたその表情を、今でも思い出せる。それほどに、衝撃的だったのだ。
 理由は単純だった。ちょっと仲のいい友だちにしか考えられない。ときめきがない。きゅんとしない。振られた上に、どれだけ男として魅力がないかを、ナイフにして突き立ててきた。めった刺しだ。
 柵に手をつき、目の前のアルパカをだらしなく見た。元彼女が、これを見たいといっていたので、チケットを秘密で取っていたのだ。
「なにがいいんだかな」
 捨ててしまうのもなんだか悔しくて、いっそのこと一人で行ってこれで忘れてやろうと、幅ヤケで訪れた。
 ふさふさでモコモコ。ぱっちりな目。
 しかし、今目の前にいるアルパカは、調理前の手羽先のように毛がなく貧相だ。
 どうやら、数日前に毛を刈られたらしい。
「運ねえな」
 癒やしも感じないその姿をみて、小さくため息をついた。アルパカには罪はないが、自分の不運さに嘆かずにはいられない。
 この刈られた細いアルパカを見て、元彼女はどういうだろうか。
 ーー期待はずれ。
 こういうところだろう。
「お前も見た目しか見られてないんだな。俺と一緒じゃねえか」
 周りにだれもいないことをいいことに、アルパカに向かって話しかけてしまった。
「どうやったら中身って見てもらえんだろうな」
「それは彼女が悪かったんダヨー」
 アルパカがしゃべった。声高い。お前、メスだったのか。
 そんなわけねーだろと、すぐに我にかえる。
「あ」
 見つけた。声の主が、アルパカの足元に人がいた。
 作業服を身につけて、頭にかぶったキャップの隙間から団子状になった髪が出ていた。
 視線が交わると、その女性はへらっと気の抜けた笑みを向けていた。
「草取りしてたら、でるタイミング失って」
 ひとりごと聞かれてた、思わず恥で顔面を両手で覆った。
「すんません、俺」
「いえいえ、お気になさらないで下さい。動物に話しかけるなんて、可愛らしいじゃないですか」
 慰めているつもりだろうが、グサグサと身体に突き刺さる。
 その飼育員が立ちあがってみて、唖然とした。
 仕事がらのせいか、化粧も薄く着飾った様子もない。とくに美人というわけでもないが、顔が穏やかだ。服だって着飾っていないのに、可愛いととっさに思ってしまう。
 こういう人が、外側ではなく内面で魅せる人なのだろう。
 ちんけな俺の内側を見てくれ、なんて聞かれたことが恥で情けがない。
「見てください」
 今までぼさっとしていた、アルパカがノソノソと動き始めた。
 それを二人で視線を追っていくと、やがてもう1頭のアルパカにピッタリとくっついたのだ。
「恋人いるんですよ。見た目なんて、関係ないですよー」 
 どちらも、毛が刈り取られていた。
「もしかして、励ましてる?」
 毛が無いアルパカでも、十分にモテてる。
 俺にも大丈夫だと、そう言いたいのだろうか。
「動物に話しかける人に悪い人いないんです」
 ふわっと柔らかく笑うその姿は、アルパカなんかより癒やしのオーラが溢れ出ていた。
「俺、動物飼ったことないし、話しかけたの今日初めてだぞ。そんな軽々しくいい人っていっていいの? 君ナンパしちゃうよ」
 正直、内心ヒヤヒヤしていた。
 なにを粋がっているんだ自分と。
「実は、もう少しで勤務終わるんですよね」
「えっ」
 罵倒を浴びせられるかと思っていたが、予想外の反応を返してきたために、驚いてしまった。
「お食事いきましょうか」
「え、まってよ、いいの、そんな、初対面、俺」
 すると笑われた。
「悪い人はここで、ここぞとばかりに漬け込みますよ」
 自分のヘタレさが、逆に好感を持っているなんて初めてだ。
「愚痴をお聞きしましょう。ただし奢ってくださいね」
 すると彼女は、にっと歯をみせて笑った。
「私の大好きなアルパカと『同じだ』なんて言った貴方の内面、楽しみにしてみますね」
 失言だったと、また両手で顔を覆った。
 遠くで毛のないアルパカ二頭が、じっとこちらを見ていた。
 勝ち誇った顔のように思えて、言葉がでなくなった。
 恋人もいる上に、目の間にいる彼女にもすかれているのだ。
 同じどころか、数段上をいかれているじゃないか。
「同じじゃねえな、すまん」
 小さく呟いた声に、アルパカに返事はなかったが、代わりに「気にスンナー」と高い声がすぐとなりから聞こえてきた。

 
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