お題:いわゆる悪魔 制限時間:15分 読者:496 人 文字数:1656字

[現代]悪魔
ジャンル:現代

 さて、私の目の前にいるものはなんであろうか。
 ……小学生の頃から、おまじないなどには興味があり、すきあらばそういったことにチャレンジしてきていた私だ、消しゴムに願い事を書いて使い切るとか、小指に赤いマニキュアをぬって一週間はがれなければ想い人と両思いになれる、だとか。
 だが、流石に目の前の光景は信じがたかった。

 烏の塗れ羽色、といえばいいのだろうか。
 漆黒の翼を背中にもつ彼(恐らく)は、私の部屋の窓の外のベランダに腰掛け、優雅に月を眺めていたのだ。
 後ろ姿しか見えないため、性別も疑問形だったが、骨格からして恐らくそうだろう。
 そして、若い男の人だということも想像できた。
 ユニクロのシャツにデニムという、非常にシンプルながらも若者らしい格好をしていたからだ。後ろのポケットに突っ込んである財布からはウォレットチェーンまで見える。

 ずっと、このよくわからない事態に困惑しているわけにもいかないので、何か行動を起こしてみることにした。
 女子高生の部屋のなかが見えるこんな位置で、若い男がいることなど、大事だ、少なくとも私にとっては。

 思い切って、ガララと窓を開けてみた。
 物音に、彼はびくりとして身を縮こまらせた。どうやら見た目ほど、タフではないようなそんな印象を受けた。どちらかというと小動物みたいな雰囲気を感じる。
 ずっと何かに、怯えているような。
「な、なんだお前は」
 想像していたより低い声に弱々しく聞かれ、私は強く反論した。
「こっちが聞きたいわ、うちの敷地なんですけど。というか、通報するわよ」
「は、はん、警察なんて怖くあるものか」
 そして、背中を誇示してくる。
「お前にはこれが見えないのか、この節穴女!」
「見えてるけどコスプレにしか見えません」
 すんなり即答すると、彼は怒りを露わにしたように、翼を動かした。
 あら、動くの。
「ふはは、驚いたか!」
「うん、そんなに自慢していることに。羽を動かすなんて鳥でも出来るわ」
「う、ぐぐ……、俺様は悪魔だぞ!」
「そうですか。では勉学のジャマになりますので出て行っていただけませんか」
 すると、男は、雰囲気を仕切りなおすように一つセキをした。
 そうして、偉そうにこういうのだ。
「俺と契約しろ、人間の女。魂と引き換えになんでも願いを……」
 ピシャン。
 窓は小気味よい音を立てて閉まり、私はそれにさらに施錠をして、さっさと今日の復習にとりかかるべく、かばんの中身を開けだした。
「待て、話終わってない、終わってないぞ!」
「新聞は間に合ってます」
「新聞の勧誘じゃない!!」
「オマケに洗剤とかタオルとか、つけられてもいらないので」
「だから違うと言っている!」
 男はやたら息巻いているが、無理に部屋には入ってこないようだった。

「お前には、望みがないのか」
 カリカリとシャーペンを動かし、ひたすら勉強に没頭する私に、自称悪魔は切り出してきた。
「好成績」
「なら、それをこの俺様にたのめ!」
「自分の力で取りたい」
 なら、他人は介在することが出来ない。
「う、うぐぐ……」
 実のところ、ここ一時間くらいで、何度も彼はそんなふうに私を勧誘してきていた。
 ……正直、ジャマ以外の何者でもない。
「どうしても魂と引き換えじゃないといけないの」
 私はようやく、彼に向き直った。みるみるうちに、彼の表情はぱっと明るくなった。7
「い、一定の供物がもらえるなら……と、契約する気になったのか?!」
「えーっとね、軽いお願いごと程度なら」

 そして、私のお願いごとに、彼は悲鳴を上げるのだった。




「あら、毎日ありがとうねえ」
 爽やかな朝、いつものように私の母が、あの自称悪魔に例をいう。
 彼は、ここいらのゴミ拾いなど、ボランティア業務に従事していた。
 ……私の持つ、銀のフォークに怯えつつ。
「いえいえ、このくらい当然ですから」
 彼は私のほうを見て睨むのだった。
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