お題:忘れたい、と彼女は言った 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:486 人 文字数:834字
[削除]

忘れたい、と彼女は言った
テーブルの上に置かれた蛾の標本を前に、忘れたい、と彼女は言った。
もう、死んでしまった蛾。
ピンで貼られて苦しそうだ。
僕は彼女を解放してあげるべきだろう。


出会いは平凡だった。
どうやって愛し合うようになったかは忘れた。
それから今日までの道のりは、僕のほうこそ忘れるべきだろう。

「いいよ、よし、忘れよう。お互いにさ」

努めて明るく言ったつもりだ。

「わかってくれて嬉しい。これ……、私の部屋にあっても困るし、置いていくね」

彼女の物がなくなった部屋は、悪い夢を見て起きた朝の気分だ。
いつかの通りの僕の日常が戻って来たはずだった。
コーヒーの作り方すら忘れたけれど……。

うちの壁、こんなに白かったのか。
あまりに寂しいホワイト・カラーの壁に、僕は蛾の標本をかけた。

その夜、夢を見た。

僕は一匹の蛾で、彼女は蝶だった。
ぼくらは同じ昆虫だと思って、たわむれて飛んでいたのに、歩調が合わなくなって、その内いがみ合い始めた。
最初は同じところばかり探し合っていたのに。
違うところばかりが気になって。
とうとうある日分かれて、別に空を飛び始めた。
そして、僕につかまって、僕は僕に標本にされたのだ。

目が覚めた。
やっぱり彼女は居なかった。

ハミガキをしながら鏡を見た。
そこには彼女に出会った頃とそう変わらないように見える僕がいたが、
あの頃より白髪が増えたし、ニキビは減った。

何もかも忘れて、もう一度最初からやり直せたらどんなにいいだろう。
彼女は忘れたいと言った。
なら、もう一度出会い直したい。
今度こそ間違わないのに。
似たところ探しも、違うところ探しもやめだ。
幸せも不幸せも、標本にしてとっておいたりしないのに。
ただ、目の前の彼女だけを好きでいたいのに。
昔も未来も要らないのに。

あとからあとから涙があふれて、ハミガキはもうやめるしかなかった。

忘れたい、と彼女は言ったが、
僕はもう少しの間、何もかも覚えておこう。
この作品をツイート

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:evening お題:大好きな暴走 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:57 人 文字数:1685字
なんと見事な生き物だろうか、――金属めいた光沢のある一対の翅は、展翅版の上で誇り高く広げられていた。艶やかな深みのある黒に、青緑の帯が弧を描き、あるいは尾のほ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:エノモト ルイ お題:恋の顔 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:59 人 文字数:1172字
僕はとある古錆びた街の商店街を歩いていた。 どの店もシャッターを締め切ってしまったその商店街は静けさに満ち満ちており、耳鳴りがするほどだった。 一寸先には野良 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:kyun お題:ダイナミックな平和 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:63 人 文字数:781字
メンタンヒョウモンガと呼ばれる蛾がいる。中南米の標高の高い場所にいるこの蛾は、他の蛾と比較して、非常に縄張り意識の高い蛾である。蛾は基本的に広い生息域を持ち、同 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:狡猾なぐりぐり 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:94 人 文字数:1082字
「ちょっとすいません、掃除してくれる?」と言って、旦那様が私のいるところにやってきた。「あ、あ、ひゃい」私はその時、自分の官舎で休憩中で、お茶を淹れて、旦那様か 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:わたしの嫌いな新卒 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:107 人 文字数:910字
私の世代も、昔の、つまり今で言うところの団塊の世代とかかな?その世代の一歩手前か一歩奥とからへんの人等からは、異常者扱いを受けていた。つまり、おそらくだけど団塊 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:ささがみ みくりGW明迄鍵 お題:イギリス式の小説新人賞 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:87 人 文字数:450字
「ふぅん」千花は、細い指でパソコンの画面を指差し、微笑んだ。 ……もしも隣に、あの、忌々しい、白い猫を抱いた男がここにいれば、そんな、大輪の薔薇が花開くような艶 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:和委志千雅 お題:子供の暴走 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:122 人 文字数:825字
夜中に少し離れた、河川敷に近いところにあるコンビニまで散歩に行くと、子供がいた。子供といっても大人になりたくない年齢の感じ、つまり何かあるとすぐに刺してくるよう 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:千歳シイ お題:勇敢なガールズ 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:228 人 文字数:939字
エーミールはヤママユガの標本泥棒に冷ややかな視線を送ることで、罪悪感を植え付けることに成功した。「そうかそうか、きみはそういう奴なんだな」ゾッとする。そんな視線 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:みーちゃん お題:箱の中の発言 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:184 人 文字数:394字
家の門限は7時だ。ゲーム機は目が悪くなるからと、与えられない。テレビも、親の好む番組で、親の前でしか見れない。私はそれを忠実に守っている。お風呂も、未だに一緒に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:masism69 お題:気持ちいい友人 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:156 人 文字数:727字
おい見てみろよバンっと俺の肩を叩きながら 慈海は言った慈海 これでじかいと読むそいつは俺の幼馴染み。むかしから 漫画を貸してくれとか言われても 次回のお楽しみだ 〈続きを読む〉

匿名さんの即興 小説


ユーザーアイコン
師走の街 ※未完
作者:匿名さん お題:来年の唇 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:277字
ひゅうと音を立てながら街を通り抜ける風に、師走の香りを感じた。赤と緑の派手派手しい装飾に彩られた街を、足早に駆けていく。肌寒さと同時に飾り立てられる街並みは昔か 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:壊れかけの独裁者 制限時間:4時間 読者:4 人 文字数:274字
「起きてください!」誰かが騒いでいる。目を開けようと思えば開けられるが、今は開けたくない。憶測ではあるが、何か嫌なことが起きているに違いないと思い込んでいるから 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:見憶えのある弁護士 制限時間:15分 読者:10 人 文字数:430字
見覚えがある。あの弁護士には見覚えがあるぞ。この裁判…猥褻物陳列罪で逮捕された男を弁護しているあの男だ。検事の私はあの男とどこかで会ったことがある。卑劣な男だ。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:小説の快楽 制限時間:15分 読者:11 人 文字数:384字
小説の快楽。小説の快楽やと? そんなもんがあるか? 舐めておられるのか? 私はそうは思わない。俺は欠席していたのだから、仕方のないことだ。さあ、コーヒーを入れ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:簡単なぺろぺろ 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:224字
いいかい、落ち着いてよく聞いてくれよ。俺はそこらへんに転がってるようなくだらないペロペロをする奴らとは違うんだ。焦らし、転がし、ねぶり・・・その一挙一動に魂を込 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:簡単なぺろぺろ 制限時間:15分 読者:13 人 文字数:423字
「おまえ、そこで何しとんね」 男の声で振り向いて、そこには破れた服、泥だらけの顔、なんてみすぼらしいおっさん。浮浪者であろうか。「おまえ、そこで何しとんね言うと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:簡単なぺろぺろ 制限時間:15分 読者:16 人 文字数:749字
ぺろぺろするってのも一口に言って色んなやり方がある。「簡単なぺろぺろ」と「難しいぺろぺろ」だ。もちろんあなたがどちらを選ぶのか私はわかっている。「簡単なぺろぺろ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:シンプルな小説練習 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:15分 読者:6 人 文字数:211字
私の残りバッテリーは6%だ。シンプルといえば逆に難しい…白か黒、あるいは陰と陽、対極的にあるものはすべてシンプルだと思う。さあ、どうする?君の選択は…僕が未来を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:愛、それは光 制限時間:15分 読者:4 人 文字数:422字
あの頃の僕は、毎日が憂鬱だった。ただ与えられた仕事をこなし、家に帰って食事をし、眠る。変わり映えのしない毎日に嫌気が差していた。そんな生活を送っていた僕に、それ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
※未完
作者:匿名さん お題:遠いしきたり 制限時間:15分 読者:9 人 文字数:703字
この村には昔からの習わしがある。それは、村以外の人間と結ばれてはならないという事だ。しかし、時は平成。今更そんなしきたりを気にするのは誰もいないいなかった。上京 〈続きを読む〉