お題:忘れたい、と彼女は言った 必須要素:蛾の標本 制限時間:15分 読者:494 人 文字数:834字
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忘れたい、と彼女は言った
テーブルの上に置かれた蛾の標本を前に、忘れたい、と彼女は言った。
もう、死んでしまった蛾。
ピンで貼られて苦しそうだ。
僕は彼女を解放してあげるべきだろう。


出会いは平凡だった。
どうやって愛し合うようになったかは忘れた。
それから今日までの道のりは、僕のほうこそ忘れるべきだろう。

「いいよ、よし、忘れよう。お互いにさ」

努めて明るく言ったつもりだ。

「わかってくれて嬉しい。これ……、私の部屋にあっても困るし、置いていくね」

彼女の物がなくなった部屋は、悪い夢を見て起きた朝の気分だ。
いつかの通りの僕の日常が戻って来たはずだった。
コーヒーの作り方すら忘れたけれど……。

うちの壁、こんなに白かったのか。
あまりに寂しいホワイト・カラーの壁に、僕は蛾の標本をかけた。

その夜、夢を見た。

僕は一匹の蛾で、彼女は蝶だった。
ぼくらは同じ昆虫だと思って、たわむれて飛んでいたのに、歩調が合わなくなって、その内いがみ合い始めた。
最初は同じところばかり探し合っていたのに。
違うところばかりが気になって。
とうとうある日分かれて、別に空を飛び始めた。
そして、僕につかまって、僕は僕に標本にされたのだ。

目が覚めた。
やっぱり彼女は居なかった。

ハミガキをしながら鏡を見た。
そこには彼女に出会った頃とそう変わらないように見える僕がいたが、
あの頃より白髪が増えたし、ニキビは減った。

何もかも忘れて、もう一度最初からやり直せたらどんなにいいだろう。
彼女は忘れたいと言った。
なら、もう一度出会い直したい。
今度こそ間違わないのに。
似たところ探しも、違うところ探しもやめだ。
幸せも不幸せも、標本にしてとっておいたりしないのに。
ただ、目の前の彼女だけを好きでいたいのに。
昔も未来も要らないのに。

あとからあとから涙があふれて、ハミガキはもうやめるしかなかった。

忘れたい、と彼女は言ったが、
僕はもう少しの間、何もかも覚えておこう。
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