お題:純粋な夕飯 制限時間:15分 読者:820 人 文字数:1759字

純粋な夕飯
ジャンル:現在

 こんな異常な状況は、初めてだった。
 そして、こんなにもマトモな食事は、久しぶりだった。

-----------------------------

 僕の記憶に残っている夕飯というものは、夕日に照らされた白米と、それに添えられた味噌汁。そして焼き魚、あるいは切り身を焼いたもの。そして漬物を添えて、お茶を淹れて、豪華なときはもう一品。
 そんな古風で、和風な食事。
 遠い、古い記憶だ。

 最近の僕の食事と来たら、百円セールで買ったカップ麺や何やらばかり。
 やれコンビニのレトルトがおいしいやら、やれどこのスーパーの冷凍食品の何が美味しいやらと話を聞きつけては買い込んでみるものの、ずっと出来合いのものばかりなのだ。

 ほかほかに炊けた白米なんて、見ていなかった。
 炊飯器すらも壊れて久しい。水道水はカルキ臭くて飲めやしないし、電気ポットに淹れて沸かしてもそれが抜けたような気がしなかった。それでもカップ麺は食べるけれど。僕の大事な生命線だ。
 
 食事なんてものに、心が割けなかった。
 それは、忙しすぎる状況が、業務が、僕の心を殺したせいか。
 忙しいという文字は心を亡くすと書くけれど、文字通り僕の心を失わせるものだったのか。
 三大欲求のひとつとも言える「食欲」を失わせるまでに。
 僕の人間性を奪ってしまうほどに。

 
------------------------------

 さりとて、さらに人間性を失わせるような事件というものは起こりうるのだ。
 バイオハザードなんて、ゲームのタイトルでしか聞いたことはなかった。
 SFチックな展開が僕らの街を襲い、人間が住めなくなる――正しく言うと、生き残れない――場所になるなんて、思いもよらなかった。
 それも、たったの数時間で。

 僕らの街は完全に他所から隔離され、陸の孤島と化した。
 汚染された人間は他の人間を襲い、簡単に言うとゾンビ化していく。
 生き残った人たちは、お互いを支え合い、だんだんと一つの組織じみたものを、たった一日で形勢した。
 ……それだけしか生き残れなかった、とも言う。

------------------------------

 ホームセンターで、僕らは生活用品を集めていた。
 バディを組むことになった男は、元々僕の近所に住んでいたらしい。
 まったく見た覚えはないものの、情報交換をするうちにそう発覚した。
 そうして、少なからず共通点のあるもの同士がバディを組まされることになった。

 何かあっても、二人なら大丈夫。
 有事のときに備えて、バディを組ませる競技や行事は多いものだが、こういう場面にもそういった形は採用されるのだろうか。
 二人ぼっちなんかじゃあ、どうにもならない気がするが。
 しかし、そんなことを言って、目立つ団体行動をすればいいカモになってしまう。
 こうして少人数でこそこそと、それぞれ動くのが一番よかった。

「なんか、久々にちゃんとこの店を歩いている気がする」
 僕が呟くと、男は笑った。
「俺なんて、店に来ることが久々かも。普段であるかないし」
「何やってるヤツなの、お前」
「あはは……、ニートしてたんだよ」
 明るく笑えることじゃないと思うが、もうこんな状況じゃ、笑い飛ばすしかないだろう、そんなネタも。
「じゃあ、ずっと引きこもってたんだな、会えるわけがない」
 近所にいたって。

 二人でそうやって笑って、僕らは「集まり」に戻った。

------------------------------

 そこには、豪華な夕飯があった。
 輝く白米、具だくさんの味噌汁。
 肉と野菜を甘辛味噌で炒めたおかずに、つけそえの副菜。
 デザートの杏仁豆腐まであった。
「料理、なんて、久々に、やったのだけど」
 控えめに、女性が言った。

 スーパーにあった食材で、調理したらしかった。
「はは、こんな豪華な夕飯、久々に見たかも」
 俺が笑うと、バディの男もつられて笑った。
「ハハ、俺もだ」

 最後の晩餐は、純粋に言うなれば、人生の夕飯だろう。
 俺たちは、生涯最後の夕飯を口に運んだ。

 わずかばかり多い、この塩味を噛み締めながら。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:GABAN お題:純粋な夕飯 制限時間:30分 読者:248 人 文字数:2018字
橘健太郎は大学生だ。見た目も性格も、世間が想像する学生像とだいたい一致しているため彼はあまり目立たない。特に自分の趣味も考えず、就職に多少なりとも有利であろう法 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:鬼龍院asanuma お題:幼い電撃 制限時間:15分 読者:12 人 文字数:813字
「おい、貸せって言ってるんだよ」 健太はいじめっこで、いつもひどいめにあわされている信夫、信也、信一の三人に囲まれ、一番ガタイの大きな信夫に突き飛ばされた。突き 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:輝く男祭り! 制限時間:15分 読者:1 人 文字数:202字
ヤレドッコイショードッコイショー\ドッコイショードッコイショー/ソーランソーラン\ソーランソーラン/ヤーーーーーーーレンソーランソーランソーラン\ハイッハイ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:今度の過ち 制限時間:15分 読者:4 人 文字数:1114字
僕は間違えてばかりだ。いつもいつも、大事なところで間違えてしまう。それが僕の最大の欠点で、けれど長所でもあった。 いつだったか、旅行に行く朝、集合場所を間違え 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:宗教上の理由で罰 制限時間:15分 読者:17 人 文字数:1060字
ヒサシが両親を殺して捕まったと聞いて、僕は意外には思わなかった。 また叩かれるんだろうな、評論家はそういうことしかしないから。最初に考えたのはそんなことだった 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:雷藤和太郎 お題:マイナーな闇 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:1028字
「ウソ、みんな自分のカバンに手を噛まれたことないの?」 サークルの合宿の飲み会が、一瞬、水を打ったように静まり返った。テーブルの上には空になったビール瓶がいくつ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まろやかに傾く人 お題:愛の恋人 制限時間:15分 読者:13 人 文字数:289字
ベンチに腰を掛けて、駅から出てくる2、30人くらいの人達を見る。 平日の早朝ということもあって、スーツ姿の男性の割合が多い。 この人たちは手を延ばせば触れ合う 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:日ノ宮理李@ハナモモとほっけ団 お題:愛の恋人 制限時間:15分 読者:14 人 文字数:1290字
繋がりがあればまた再会できると信じて僕らは中学の頃、ある約束をした。『ずっと一緒にいたいと時間が経っても変わらないなら、私たちが恋人になったあの場所で』 それ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:どこかの食事 制限時間:15分 読者:4 人 文字数:376字
ふわりと漂う湯気が鼻腔をくすぐる。くぅ、と切なく鳴いた腹の音に向かいに座る男は苦笑した。「食べてもいいんだよ?」優しく促され、恐る恐る用意されたスプーンを手に取 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:純白の動揺 制限時間:15分 読者:7 人 文字数:291字
「今日からチームに入ることになった上木君だ。みんな仲良くしてやってくれ」 リーダーは快活な笑顔で新人を紹介すると、その生意気そうな新人の背中を押した。 押さない 〈続きを読む〉

幾山アカリの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:阿修羅探偵 制限時間:15分 読者:608 人 文字数:1678字
[ジャンル:現代?] 阿修羅という単語がある。 仏教やインド神話、様々な場所に出てくる単語だが、元来は神の一人の扱いであった。 しかし、徐々に「神に敵対するもの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:生かされた運命 制限時間:15分 読者:570 人 文字数:1608字
[ジャンル:ファンタジー?] 生きている人間が、生き残った人間がするべきこととはなんだろうか。 僕は、焼け野原の中心に立ち尽くして考えた。 僕は、よくある田舎の 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:いわゆる悪魔 制限時間:15分 読者:514 人 文字数:1656字
ジャンル:現代 さて、私の目の前にいるものはなんであろうか。 ……小学生の頃から、おまじないなどには興味があり、すきあらばそういったことにチャレンジしてきていた 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:純粋な夕飯 制限時間:15分 読者:820 人 文字数:1759字
ジャンル:現在 こんな異常な状況は、初めてだった。 そして、こんなにもマトモな食事は、久しぶりだった。----------------------------- 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:魅惑の冤罪 制限時間:15分 読者:672 人 文字数:1656字
ジャンル: 私は罪を侵してなどいない。 燃えるような民衆の瞳、眼差しの集まるその頂点で、私は一人、佇んでいた。 私の後ろには十字架がある。 それは私の体を縛り付 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:可愛い町 制限時間:15分 読者:1021 人 文字数:1889字
[ジャンル:ファンタジー] そこは、甘い町。 屋根はチョコレート、扉は砂糖菓子。 庭に生えている木はマシュマロで、その幹は飴でできている。 もちろんグミの実だっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:誰かのつるつる 制限時間:1時間 読者:819 人 文字数:6395字
[ジャンル:ファンタジー] 私は冒険者だ。 世界中の遺跡や魔物が棲むという危険な洞窟、様々な場所を行き来してお宝を手にしてそれを売買することを生業としている。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:君とクレジットカード 必須要素:文学フリマ 制限時間:15分 読者:749 人 文字数:1824字
[ジャンル:現代] 使っても使っても、現金がなくならない。 そんな錯覚を覚えていた。 そんなわけがないのに、私はクレジットカードというものの罠にすっかりハマって 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:思い出の雑踏 必須要素:文学フリマ 制限時間:15分 読者:831 人 文字数:1792字
[ジャンル:現代] 懐かしい思いを噛み締めながら、私は雑踏を歩く。 周りの人々は一様に、多少の差はあれどにこやかな笑顔だった。 手にわたあめを持ってはしゃぐ子供 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:幾山アカリ お題:今度の電撃 制限時間:15分 読者:1015 人 文字数:1656字
[ジャンル:現代] ライトノベルという単語が出来たのはいつの頃だっただろうか。 それまで小説というのは小説という単語以外は存在しておらず、コラムだとか社説だとか 〈続きを読む〉