お題:純粋な夕飯 制限時間:15分 読者:851 人 文字数:1759字

純粋な夕飯
ジャンル:現在

 こんな異常な状況は、初めてだった。
 そして、こんなにもマトモな食事は、久しぶりだった。

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 僕の記憶に残っている夕飯というものは、夕日に照らされた白米と、それに添えられた味噌汁。そして焼き魚、あるいは切り身を焼いたもの。そして漬物を添えて、お茶を淹れて、豪華なときはもう一品。
 そんな古風で、和風な食事。
 遠い、古い記憶だ。

 最近の僕の食事と来たら、百円セールで買ったカップ麺や何やらばかり。
 やれコンビニのレトルトがおいしいやら、やれどこのスーパーの冷凍食品の何が美味しいやらと話を聞きつけては買い込んでみるものの、ずっと出来合いのものばかりなのだ。

 ほかほかに炊けた白米なんて、見ていなかった。
 炊飯器すらも壊れて久しい。水道水はカルキ臭くて飲めやしないし、電気ポットに淹れて沸かしてもそれが抜けたような気がしなかった。それでもカップ麺は食べるけれど。僕の大事な生命線だ。
 
 食事なんてものに、心が割けなかった。
 それは、忙しすぎる状況が、業務が、僕の心を殺したせいか。
 忙しいという文字は心を亡くすと書くけれど、文字通り僕の心を失わせるものだったのか。
 三大欲求のひとつとも言える「食欲」を失わせるまでに。
 僕の人間性を奪ってしまうほどに。

 
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 さりとて、さらに人間性を失わせるような事件というものは起こりうるのだ。
 バイオハザードなんて、ゲームのタイトルでしか聞いたことはなかった。
 SFチックな展開が僕らの街を襲い、人間が住めなくなる――正しく言うと、生き残れない――場所になるなんて、思いもよらなかった。
 それも、たったの数時間で。

 僕らの街は完全に他所から隔離され、陸の孤島と化した。
 汚染された人間は他の人間を襲い、簡単に言うとゾンビ化していく。
 生き残った人たちは、お互いを支え合い、だんだんと一つの組織じみたものを、たった一日で形勢した。
 ……それだけしか生き残れなかった、とも言う。

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 ホームセンターで、僕らは生活用品を集めていた。
 バディを組むことになった男は、元々僕の近所に住んでいたらしい。
 まったく見た覚えはないものの、情報交換をするうちにそう発覚した。
 そうして、少なからず共通点のあるもの同士がバディを組まされることになった。

 何かあっても、二人なら大丈夫。
 有事のときに備えて、バディを組ませる競技や行事は多いものだが、こういう場面にもそういった形は採用されるのだろうか。
 二人ぼっちなんかじゃあ、どうにもならない気がするが。
 しかし、そんなことを言って、目立つ団体行動をすればいいカモになってしまう。
 こうして少人数でこそこそと、それぞれ動くのが一番よかった。

「なんか、久々にちゃんとこの店を歩いている気がする」
 僕が呟くと、男は笑った。
「俺なんて、店に来ることが久々かも。普段であるかないし」
「何やってるヤツなの、お前」
「あはは……、ニートしてたんだよ」
 明るく笑えることじゃないと思うが、もうこんな状況じゃ、笑い飛ばすしかないだろう、そんなネタも。
「じゃあ、ずっと引きこもってたんだな、会えるわけがない」
 近所にいたって。

 二人でそうやって笑って、僕らは「集まり」に戻った。

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 そこには、豪華な夕飯があった。
 輝く白米、具だくさんの味噌汁。
 肉と野菜を甘辛味噌で炒めたおかずに、つけそえの副菜。
 デザートの杏仁豆腐まであった。
「料理、なんて、久々に、やったのだけど」
 控えめに、女性が言った。

 スーパーにあった食材で、調理したらしかった。
「はは、こんな豪華な夕飯、久々に見たかも」
 俺が笑うと、バディの男もつられて笑った。
「ハハ、俺もだ」

 最後の晩餐は、純粋に言うなれば、人生の夕飯だろう。
 俺たちは、生涯最後の夕飯を口に運んだ。

 わずかばかり多い、この塩味を噛み締めながら。
作者にコメント

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