お題:魅惑の冤罪 制限時間:15分 読者:714 人 文字数:1656字

「ねえ、私、魔女になるわ」
ジャンル:

 私は罪を侵してなどいない。
 燃えるような民衆の瞳、眼差しの集まるその頂点で、私は一人、佇んでいた。
 私の後ろには十字架がある。
 それは私の体を縛り付け、足元の薪をもやし、火刑にするためのものだ。
 聖者のように、魔女のように処刑される私は、おそらく後者として彼らの目に映るだろう。

 私は、魔女なのだ。
 それは彼らにとっての、たった一つの真実なのであろうから。


 好きな人がいた。
 はじめは小さな芽だった。
 芽吹かせようとは思わない、だが毎日少しづつ水をやる。
 そんな小さな恋だった。

 花を咲かせようとは思わなかった。
 実らせようなんて思ってもいなかった。
 
 何故なら既に、彼には妻子がいたのだから。
 そのうえ彼は、この国の頂点における人物だったのだから。


 一夫多妻制ではないこの国は、生涯の伴侶はひとりきり。
 浮気は酷い罪として、罰がある。

 そして、大抵はその原因は女にあるとされていた。


 私は、毎日、自分の胸の花壇にある芽に水をやれればそれで十分だった。
 少しづつ、勝手に育っていくもの。大事に育んでいくもの。
 でも、花を咲かせようなんて思わなかった。
 咲きそうになれば、手折ろう。
 実りそうになるならば、先に自分で毟り取ろう。
 そう、覚悟していたのだから。


 あの人は、優しい人だった。
 暖かい手のひらが、私の頭をいつも撫でた。
 私はただのメイドだった。元孤児の、なんのとりえもないメイドだった。
 ただの、城の召使の一人、手足の一つだった。

 それなのにどうして、彼とそこまで接点をもてたのか。
 不幸なことに、私は見目麗しいと称される程度の外見を生まれ持っていたからだった。

 小さい頃から見出されていれば、おそらく私はきっとここにはいなかった。
 だけど、小さな頃の私は痩せっぽちで、女性としての魅力はかけらもなく。
 期待されていたのは、労働力だけ。
 ただの奴隷としてのみ扱われており、女としての性質を、まったく期待されていなかったのだ。



 あの人が私によく構うようになったのは、なんでだったか。
 母上が亡くなって泣いている時に慰めた時だっただろうか。
 私が花壇の手入れをしているときに偶然はちあわせた時だったろうか。
 それから次第にチェスなどを教わって、文字を覚え、読書を覚え……、だんだんと親しくなっていって。

 気づけば、その花は咲いていた。
 そうとしか言えなかった。

 でも、私はこれが恋だとは思えなかった。
 学を身につけて覚えた言葉。そう、これはきっと敬愛、そして友情。
 そういいはるつもりだったし、実質そうであったところも大きかっただろう。

 私にとって、彼は、父のような存在でもあったのだから。
 実の父など、見たこともないけれど。


 しかし、世の人はそんなふうには見なかった。
 一周り年が違っていても、全然恋愛のような態度を取らずとも、男女が一緒にいるだけで、勝手に私たちをそのカテゴリーに入れた。
 奥方の嫉妬が、一番の原因かもしれなかった。

 噂は、森林の火災のように一気に広がった。


 そうして私は「魔女」となった。
 彼には庇うなと、私が強く言った。
 かばえば、彼の子供に酷いトラウマを受け付けることになるし、彼自身の立場も危うい。
「王を拐かした、魔性の女」
 その大罪で、私は火刑に処されることになった。


 今、朗々と私の罪を法定管理官が読み上げている。
 王は、背中から私を見ているだろう。
 それは、どんな表情なのか。
 最後の瞬間になってもきっとそれは分からない。
 今、みたいのに。気になるのに。どんなに首を後ろに回そうとしても、それは叶うことはないのだ。

 今、松明が近づいた。
 

 ねえ、私、魔女になるわ。
 あなたを魅了する、花のような女に。
 あなただけの女に。

 彼に聞こえるようにと願い、私はそっと囁いた。

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