お題:絶望的な計画 制限時間:2時間 読者:300 人 文字数:1354字

絶望的な計画
「これが希望的観測に満ち溢れた、絵空事のような計画である事を、私も重々承知しています。

 しかし、私はそれに賭けてみたいと思っています。なぜなら私達が他に今出来る対策なんて、絵空事にもならないようなものしかありませんし、全てが済んでしまうのを指を咥えて見ているより、出来るかどうか分からなくても、とにかく手を出してみることのほうがマシなはずです。

 10年前、「希望の女神」なる少女の登場とともに、私達は自らの「希望」をあたかも商品のように売り買いすることが出来るようになりました。人は自らが望む種類の「希望」を他人から買い取り、また自らが必要としない「希望」を他人に売るという、ある種の「希望」に満ち溢れた世界を手に入れました。

 しかし、そんな「希望」は長くは続かず、富裕層による「希望」の買い占め。貧困層の「希望」飢饉。「希望」売買における詐欺や横領、闇ビジネスの横行により、私達の世界は一部を覗いて、暗黒のような絶望に満ちあふれてしまいました。

 そんな現状に危機感や問題意識を抱いた政府は、「希望」の売買にこれまで様々なルールを制定してきました。「希望」の最低価格保証制度導入、未成年者の「希望」売買禁止条約、生命の維持に不可欠な「希望」売買禁止など、効果が認められたルールは数多く有りました。しかしそれらも、時間が経てば抜け道が見つけられ、またルールなき世界に戻ってしまいました。

 10年前、確かに私達は「希望」を手に入れました。しかし皮肉なことに、それによって私達は既に持っていた希望を売り払い、そのかわりに残ったのは僅かな日銭と絶望でした。「希望」を独占する富裕層はそれを手放す様子もなく、己の欲求を満たすためだけに、必要以上の「希望」に満ち溢れた生活をしています。大勢の貧困層の絶望によって支えられて。

 私達は最終手段に出ることにしました。私達は富裕層に「希望」の取引を全てリセットし、「希望の女神」が訪れる前の世界に戻す事を要求します。この要求を通すため、現在私達は「希望の女神」を拉致監禁しています。私達は「希望の女神」自身に恨みはありませんし、できれば彼女を殺したくはないです。しかし目的が達成されなかった場合、彼女の命は永遠に失われ、「希望」は「絶望」へと変わるでしょう。

 残念ながら私達はテロ集団へと成り下がりました。こんなやり方で世界が元に戻る確率なんて無いに等しいでしょう。けれど、これを観ている皆さん。「希望」を不当に奪われながらも、それを享受しようとしている皆さん。どうか思い出して下さい。あなたが持っていた希望を。与えられた「希望」ではなく、自らが持っていた希望を。その希望のために立ち上がって下さい。一緒に「絶望」的な世界から抜け出しましょう!」

 各メディアをジャックしたこの犯行声明は、まるで晒し者にされるかのように、犯行グループ全員が射殺されてから放映された。彼らの犯行はその計画性の乏しさと、「希望」をかき消そうとしたという2つの理由から、「絶望的な計画」と揶揄された。彼女らはなぜ間違ってしまったのだろうか。私は映像の中、必死に理想を訴える女学生を見ながらそう思う。なぜ間違ってしまったのか。はじめから希望なんて、この世になかったのに。
作者にコメント

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