お題:スポーツの熱帯魚 制限時間:1時間 読者:347 人 文字数:1423字

グッピーテイミング
 グッピーテイミングという競技をあなたはご存知だろうか。

 ご存知でない方が大抵だと思う。なにせ随分マイナーなスポーツだからだ。競技名にあるグッピーとは、多分ご存じの方が多い、熱帯魚の定番のあの小さな魚、グッピーである。そしてグッピーテイミングとは、そのグッピー達をいかに上手く調教し、一つの生き物のように華麗に泳がせる事を競う、例えるならグッピーのシンクロナイズドスイミングのようなものだ。

 とてもマイナーな競技競技のため、参加する競技者も少ない。この前なんか参加校がたったの四校だった。参加校の4分の3が表彰台に登っていたのに、僕らの森咲高校は登ることが出来なかった。マイナースポーツのグッピーテイミングにおける最弱高校。僕はそんな状況からなんとかして抜け出したかった。

「そうはいっても、どうやって調教すればいいんですか部長」
1年の後輩、南崎さんはそうふてくされて言う。実質部員は彼女と僕しかいない。そりゃそうだろう。グッピーを調教する事が高校生活を華やかにしてくれるとはとても思えない。いるとしたら僕みたいなグッピーマニアな変人か、サボり場所を探していた南崎さんのような暇人だけだろう。

「大抵生き物の調教というものは、特定の行動をすれば餌がもらえると覚えてもらうことが基本なんだ。それはグッピーでも変わらない」
「じゃあ餌を上げましょうよ」
「そこが難しいところなんだ。単に餌をあげるだけじゃいけない。こちらがして欲しい行動をした時だけ適切に餌を与えないと、只々ブクブクに太ってしまうだけさ。タイミングが重要だ」
南崎さんはほーと気の抜けたような声を上げ、水槽の中身を見る。水に満たされた水槽に、うっすら南崎さんの顔が映り、ぼくはなぜかどきりとした。

 暫く二人で水槽を眺めていると、グッピーの大群が一瞬だけ、鳥のような形になって動いた。そのタイミングですかさず、ぼくは遠隔餌やり器のスイッチを押す。水槽の中では餌やり器から餌が放出され、それにグッピーたちが群がった。

「今のは良かったですね部長。素人目にも綺麗でしたよ」
珍しく南崎さんが声のトーンをあげてそう言った。
「素人って、君も一応グッピーテイミング部員だろうに」
「そういえばそうでしたね」
悪びれもなく彼女はそう言って笑った。僕が卒業したらグッピーテイミング部は彼女一人。だからこうやって遠回しに部の活動について教えているのだけれど、この感じでは期待できそうにない。そうすれば自然にグッピーテイミングは消滅するだろう。その事について、彼女はどう考えているのだろうか。
そんなことを考えつつも、特に対策ができたわけでもなく、僕は高校を卒業し、大学へ進学した。

 南崎さんから連絡があったのは、卒業してから半年後のことだった。一体何だと高校に足を踏み入れると、以前使っていたより豪華な設備と、二桁はいるであろう後輩たちが僕を待っていた。
「なんか私グッピーテイミングに目覚めちゃったんです」
なんでもないことのようにそう彼女は言った。たった半年でグッピーテイミング部を超強豪校にしてしまったらしい。
「あの日見たグッピーテイミング、あの影響で私の人生観が変わったんです。だから先輩、OBとしてうちの部に来てくれませんか」

なんだかすごいことになってしまったが、人生そういうこともある。そんな感じで僕はまたグッピーテイミングに関わることになった。





作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
swim like a fish ※未完
作者:か。@挙動不審 お題:スポーツの熱帯魚 制限時間:30分 読者:128 人 文字数:1977字
綺麗だ・・・・・ そう感想を持つのは仕方がないだろう。 きらきらと煌めく水面、強い日差しの中、水面から顔を出したり、水中に潜ったりする色とりどりの水着を身にま 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:タチバナ@小説書きたい探索者 お題:愛と憎しみの深夜 制限時間:1時間 読者:11 人 文字数:2029字
抱き締めることだけが愛の証明だと信じてきた。大人はすっかり寝てしまっている深夜二時、悪い子供だけの時間。「嘘を吐いたんです」 窓から差し込む星と月の光だけの部 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ゆきん お題:生きている夢 制限時間:1時間 読者:11 人 文字数:1710字
二度目から目覚めたら13時27分。 今日のアルバイトの時間は12時から。 私は布団から跳ね起きて、アルバイトの制服を箪笥から引っ張り出し、パジャマのまま家を飛 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:タチバナ@小説書きたい探索者 お題:暑い嫉妬 制限時間:1時間 読者:15 人 文字数:2068字
近づかないで。澄んだエメラルドグリーン色の目を覆い、ディーは叫んだ。来ないで、離れて、もういやなの! ディー・メレラスの家系は呪われていた。先代がどのような過 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:タチバナ@小説書きたい探索者 お題:正しいガールズ 制限時間:1時間 読者:23 人 文字数:2181字
「正義とは、自分の意志を貫くこと。悪とは誰かの助けをすることだと思うの」 はにゃ? と私の質問に正崎 レミは大げさに首を傾げた。起き上がりこぼしのように逆方向へ 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:佐藤りーまん お題:正しいガールズ 制限時間:1時間 読者:11 人 文字数:733字
噛みつくと、薄っすらと鉄の味がした。女の子には身の覚えのある生臭さと、熱さが舌先に触れる。「ねえ、もう終わった?」あずさが掻き揚げていた髪から手を離すと、シャン 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
未定 ※未完
作者: お題:阿修羅笑い声 制限時間:1時間 読者:24 人 文字数:2098字
※ミスって四時間にしてしまったため、23時までのお題「青いホテル」「東京湾」で書きます「青いホテルって?」「モーテルとかじゃない?」「モーテル? モーニングつき 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:Raise お題:飢えた痛み 制限時間:1時間 読者:56 人 文字数:4053字
そういえば、お前のところの奥さん、入院してたんだっけ、と何気ない同僚の一言に、まあ、と曖昧に答える。どういう話をしていたのか思い出そうとして、まあいいか、と水 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:飢えた痛み 制限時間:1時間 読者:28 人 文字数:1585字
俺は、あの人のことを未だに「ユウさん」と呼んでいる。そもそもできるだけ名前も呼びたくなくて、あの、とか、その、とか、そっち、とか。あいまいな指示語で誤魔化して、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:タチバナ@小説書きたい探索者 お題:わたしの嫌いな時雨 制限時間:1時間 読者:26 人 文字数:2287字
恋の告白のタイミングは時雨のように見極めにくくて掴みにくい。絶好の舞台だと思ったらすぐどんよりと曇って雨が降り出すし、今ではないと諦めた時に晴れ間が続く。 い 〈続きを読む〉

伊織千景の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:不幸な私 必須要素:大統領 制限時間:2時間 読者:276 人 文字数:1376字
上質なゴートファーラグの絨毯の上は、まるで巨大な獣の上を歩いているような錯覚を覚えさせる。 円状の室内には、トラディショナル家具ブランドの頂点、KINDELの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:来年のコメディ 必須要素:400字以内 制限時間:2時間 読者:326 人 文字数:400字
「来年のことを言うと鬼が笑うらしいですよ」「そうなのか」「来年は私、ちょっくら蜘蛛の糸でフリークライミングでもしようとおもってるんですよ」「そうなのか」「笑わな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:安全な誰か 必須要素:カレー 制限時間:2時間 読者:302 人 文字数:1798字
そろそろ前に進まないといけないと思いつつも、いつだって同じ所で堂々巡りだった。 今日だってそうだ。頭のなかでは幾つもの案が浮かんではいた。だけどそれのどれも実 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:コーヒーと感覚 必須要素:丑三つ時 制限時間:2時間 読者:306 人 文字数:1079字
研ぎ澄まされていく。刃物を研ぐように、鏡を磨くように。酒は現実を忘れさせてくれる。嫌なものから目をおおって、心地よい気持ちにしてくれる。だから嫌いだった。コーヒ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:シンプルなあの人 必須要素:時限爆弾 制限時間:2時間 読者:366 人 文字数:1525字
「いつまで泣いてるのよ」「……当たり前だ。こんな時位、泣かせてくれ」僕は、自分の声がかすれて震えるのを、どうしても止められない。怖かった。何故こんな目に自分が合 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:紅茶と計算 必須要素:バナナの皮 制限時間:1時間 読者:344 人 文字数:1374字
白一色、ロココ調の家具に囲まれ、純白のフリルのドレスに身をまとい、ロイヤルコペンハーゲンのティーカップに注がれた今日の紅茶は、フォートナムメイソンのアールグレ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:都会の死 必須要素:バツ印 制限時間:1時間 読者:303 人 文字数:991字
死はどんなものにも平等に訪れる。俺は赤錆びたその馬鹿高い鉄塔を見上げた。涙が溢れた。悲しいのではない、嬉しいのでもない。ただ、涙が出た。その鉄塔の名前は、かつて 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:漆黒の闇に包まれし軽犯罪 必須要素:フォロワーの誰かを○す 制限時間:2時間 読者:318 人 文字数:1371字
「あんたには、何が見える?」錆びついたパイプ椅子に座り、俺は目の前に座るくたびれた様子の中年男性にそう問いかける。答えなど求めてはいない。一方通行の言葉は行き着 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:2つの円周率 必須要素:フォロワー達が○し合い 制限時間:2時間 読者:362 人 文字数:1211字
静寂が、全てを飲み込む。数万という観客がいながら、音一つ立たない。無音のプレッシャー。つばを飲み込むことさえはばかれる緊張。観客たちの視線は、ただ一点。中央に存 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:謎の秋雨 必須要素:コーヒー牛乳 制限時間:2時間 読者:337 人 文字数:1635字
それは、雨のようだった。違うところがあるとしたら、それが赤い色をしていたことと、空からではなく、男の首から吹き出していたことくらいだろう。男は苦痛を感じるより、 〈続きを読む〉