お題:スポーツの熱帯魚 制限時間:1時間 読者:333 人 文字数:1423字

グッピーテイミング
 グッピーテイミングという競技をあなたはご存知だろうか。

 ご存知でない方が大抵だと思う。なにせ随分マイナーなスポーツだからだ。競技名にあるグッピーとは、多分ご存じの方が多い、熱帯魚の定番のあの小さな魚、グッピーである。そしてグッピーテイミングとは、そのグッピー達をいかに上手く調教し、一つの生き物のように華麗に泳がせる事を競う、例えるならグッピーのシンクロナイズドスイミングのようなものだ。

 とてもマイナーな競技競技のため、参加する競技者も少ない。この前なんか参加校がたったの四校だった。参加校の4分の3が表彰台に登っていたのに、僕らの森咲高校は登ることが出来なかった。マイナースポーツのグッピーテイミングにおける最弱高校。僕はそんな状況からなんとかして抜け出したかった。

「そうはいっても、どうやって調教すればいいんですか部長」
1年の後輩、南崎さんはそうふてくされて言う。実質部員は彼女と僕しかいない。そりゃそうだろう。グッピーを調教する事が高校生活を華やかにしてくれるとはとても思えない。いるとしたら僕みたいなグッピーマニアな変人か、サボり場所を探していた南崎さんのような暇人だけだろう。

「大抵生き物の調教というものは、特定の行動をすれば餌がもらえると覚えてもらうことが基本なんだ。それはグッピーでも変わらない」
「じゃあ餌を上げましょうよ」
「そこが難しいところなんだ。単に餌をあげるだけじゃいけない。こちらがして欲しい行動をした時だけ適切に餌を与えないと、只々ブクブクに太ってしまうだけさ。タイミングが重要だ」
南崎さんはほーと気の抜けたような声を上げ、水槽の中身を見る。水に満たされた水槽に、うっすら南崎さんの顔が映り、ぼくはなぜかどきりとした。

 暫く二人で水槽を眺めていると、グッピーの大群が一瞬だけ、鳥のような形になって動いた。そのタイミングですかさず、ぼくは遠隔餌やり器のスイッチを押す。水槽の中では餌やり器から餌が放出され、それにグッピーたちが群がった。

「今のは良かったですね部長。素人目にも綺麗でしたよ」
珍しく南崎さんが声のトーンをあげてそう言った。
「素人って、君も一応グッピーテイミング部員だろうに」
「そういえばそうでしたね」
悪びれもなく彼女はそう言って笑った。僕が卒業したらグッピーテイミング部は彼女一人。だからこうやって遠回しに部の活動について教えているのだけれど、この感じでは期待できそうにない。そうすれば自然にグッピーテイミングは消滅するだろう。その事について、彼女はどう考えているのだろうか。
そんなことを考えつつも、特に対策ができたわけでもなく、僕は高校を卒業し、大学へ進学した。

 南崎さんから連絡があったのは、卒業してから半年後のことだった。一体何だと高校に足を踏み入れると、以前使っていたより豪華な設備と、二桁はいるであろう後輩たちが僕を待っていた。
「なんか私グッピーテイミングに目覚めちゃったんです」
なんでもないことのようにそう彼女は言った。たった半年でグッピーテイミング部を超強豪校にしてしまったらしい。
「あの日見たグッピーテイミング、あの影響で私の人生観が変わったんです。だから先輩、OBとしてうちの部に来てくれませんか」

なんだかすごいことになってしまったが、人生そういうこともある。そんな感じで僕はまたグッピーテイミングに関わることになった。





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