お題:12月のわずらい 制限時間:2時間 読者:399 人 文字数:1025字

12月が嫌いだ
「私は12月が嫌いだ」
 深雪先輩はふと、唐突にそう切り出してきた。話の流れも何もなく、ただ一言そう言われたので、僕としてはなんと返したものか解らず、気の抜けたような返事でそれに答えた。深雪先輩はそれがご不満だったようで、無言で自分が座っているパイプ椅子を揺らしてギチギチと嫌な音を鳴らした。
 
 肌に刺さるような寒さの中、石油ストーブが頼りなく室内を温めている。そんな12月の教室で、僕と深雪先輩はオセロをやっていた。なぜオセロだったかと言うと、単に教室にあった娯楽的要素がそれだけだったからだ。別にお互いオセロが好きというわけでもなかったので、ゲームの優勢とか、どちらの勝率が高かったかなんてことも特に気にせず、ただの場つなぎとしてオセロをしていた。お互いおしゃべりとは言いがたい性格だったので、そういう意味ではオセロがあって大変助かった。

「そういえば、なんで12月が嫌いなんですか?」
先程すればよかった質問を、いまさらながら僕は先輩に尋ねた。先輩はどの場所に自分の石を置こうかと盤面に目を向けながら、
「そういえばなんで嫌いなんだろう」
と言った。そう言ったその顔は、僕を茶化している類いのものではなく、本当に気が付かなかったという様子で、こちらとしては只々予想外の反応だった。

「寒いのが嫌いなんですか」
先輩は頭を振って否定する。
「寒いのはむしろ好き。暑いのが苦手っていうのもあるけれど」
「嫌な思い出があるとか」
暫く考えた後、先輩は頭を横に振る。
「一年の最後なのに12なんて中途半端な数字だからとか」
少し先輩が吹き出して笑った。今日はじめて見た笑顔だった。

 暫くまたオセロを打つ音が教室に響く。教室には僕と深雪先輩だけしかいなくて、いつもたくさんの生徒がいるこの場所が、どこか非現実的な異世界のように感じられた。窓の外では雪が降っていて、グラウンドにうっすら積もっているのが見える。静かな時間が流れていた。

 結局なぜ深雪先輩が12月を嫌っているのか、その理由を知ることは出来なかった。もしかしたらはじめから理由なんて無かったのかもしれない。3年前に結婚式の招待状が先輩から送られてきた。その笑顔はあの時のままで、それが自分だけに向けられたものじゃなかったのだと痛感させられた。意味のない話題に、意味もない会話。それなのにあの時先輩と過ごした時間を、僕は雪が降る季節になる度に思い出す。

 僕は12月が嫌いだ。
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