お題:12月のわずらい 制限時間:2時間 読者:351 人 文字数:1025字

12月が嫌いだ
「私は12月が嫌いだ」
 深雪先輩はふと、唐突にそう切り出してきた。話の流れも何もなく、ただ一言そう言われたので、僕としてはなんと返したものか解らず、気の抜けたような返事でそれに答えた。深雪先輩はそれがご不満だったようで、無言で自分が座っているパイプ椅子を揺らしてギチギチと嫌な音を鳴らした。
 
 肌に刺さるような寒さの中、石油ストーブが頼りなく室内を温めている。そんな12月の教室で、僕と深雪先輩はオセロをやっていた。なぜオセロだったかと言うと、単に教室にあった娯楽的要素がそれだけだったからだ。別にお互いオセロが好きというわけでもなかったので、ゲームの優勢とか、どちらの勝率が高かったかなんてことも特に気にせず、ただの場つなぎとしてオセロをしていた。お互いおしゃべりとは言いがたい性格だったので、そういう意味ではオセロがあって大変助かった。

「そういえば、なんで12月が嫌いなんですか?」
先程すればよかった質問を、いまさらながら僕は先輩に尋ねた。先輩はどの場所に自分の石を置こうかと盤面に目を向けながら、
「そういえばなんで嫌いなんだろう」
と言った。そう言ったその顔は、僕を茶化している類いのものではなく、本当に気が付かなかったという様子で、こちらとしては只々予想外の反応だった。

「寒いのが嫌いなんですか」
先輩は頭を振って否定する。
「寒いのはむしろ好き。暑いのが苦手っていうのもあるけれど」
「嫌な思い出があるとか」
暫く考えた後、先輩は頭を横に振る。
「一年の最後なのに12なんて中途半端な数字だからとか」
少し先輩が吹き出して笑った。今日はじめて見た笑顔だった。

 暫くまたオセロを打つ音が教室に響く。教室には僕と深雪先輩だけしかいなくて、いつもたくさんの生徒がいるこの場所が、どこか非現実的な異世界のように感じられた。窓の外では雪が降っていて、グラウンドにうっすら積もっているのが見える。静かな時間が流れていた。

 結局なぜ深雪先輩が12月を嫌っているのか、その理由を知ることは出来なかった。もしかしたらはじめから理由なんて無かったのかもしれない。3年前に結婚式の招待状が先輩から送られてきた。その笑顔はあの時のままで、それが自分だけに向けられたものじゃなかったのだと痛感させられた。意味のない話題に、意味もない会話。それなのにあの時先輩と過ごした時間を、僕は雪が降る季節になる度に思い出す。

 僕は12月が嫌いだ。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:dreamy white ( 低浮上 ) お題:狡猾な病院 制限時間:2時間 読者:9 人 文字数:9330字
( 宇宙ネタ,幻覚オチ )" おれは 今、宇宙に居る。… 突然 宇宙に居る、なんて訳の分からない事を言い出されても やっぱり …混乱するよなあはは すまない… 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:今日のゲストは春 制限時間:2時間 読者:7 人 文字数:4字

ユーザーアイコン
作者:やなみ お題:君の小説家 制限時間:2時間 読者:7 人 文字数:1319字
僕には、ヒナという友人がいて、ヒナにも僕という友人がいた。関係としても、雰囲気としても、唯一無二の存在を放つ彼女は、二人の出会いとなる幼稚舎の頃から華奢な身体を 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:暗い探偵 制限時間:2時間 読者:21 人 文字数:2921字
深夜2時、月明かりが街を照らす、その時間だけ開かれる不思議な探偵事務所。 他では頼めないような奇妙な依頼だけを受けるミステリアスな探偵。 人は彼をこう呼ぶ、宵 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:戦艦の消しゴム 制限時間:2時間 読者:6 人 文字数:712字
ドギュン、バギュンと揺れる衝撃に耐えながら私は走った。もう近くには敵がいて、どこにも逃げ場はなかった。外に出ればいい? ここは海に浮いている戦艦だ。どうせ外に出 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:僕の顔 制限時間:2時間 読者:9 人 文字数:22字
いおおいひおうのいうも、いほいうひおいじょ。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:楓羽 茜@創作 お題:俺のライオン 制限時間:2時間 読者:29 人 文字数:249字
近寄りがたい、怖そうなのに優しい瞳で俺を見つめるお前。ついつい構ってしまう。腹黒いのに儚い背中を持っているお前。なぜだか心を許してしまう。いつからだろう、そばに 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:楓羽 茜@創作 お題:危ない作家デビュー 制限時間:2時間 読者:21 人 文字数:236字
作家としてデビューをした。名前のない作家として。つまりはゴーストライターだ。君を振り返ることもせずに捨ててきた来た事を悔やむとするならば、最後の言葉が聞けなかっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
苦い片思い ※未完
作者:ひろたひかる お題:苦い愛 制限時間:2時間 読者:28 人 文字数:4117字
松本君がバイトを始めたらしい、という情報を持ってきてくれたのは親友の知花ちゃんだ。松本君は学年一人気があるイケメンくん。ちなみにとなりのクラスで同学年の高校一年 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:神の悲劇 制限時間:2時間 読者:12 人 文字数:849字
あぁ・・・また動かなくなってしまった。僕に食べるものをくれた人はかなり前に動かなくなった。僕に飲み物をくれた人も少し前に動かなくなった。この人は僕と長い間一緒に 〈続きを読む〉

伊織千景の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:不幸な私 必須要素:大統領 制限時間:2時間 読者:225 人 文字数:1376字
上質なゴートファーラグの絨毯の上は、まるで巨大な獣の上を歩いているような錯覚を覚えさせる。 円状の室内には、トラディショナル家具ブランドの頂点、KINDELの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:来年のコメディ 必須要素:400字以内 制限時間:2時間 読者:271 人 文字数:400字
「来年のことを言うと鬼が笑うらしいですよ」「そうなのか」「来年は私、ちょっくら蜘蛛の糸でフリークライミングでもしようとおもってるんですよ」「そうなのか」「笑わな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:安全な誰か 必須要素:カレー 制限時間:2時間 読者:254 人 文字数:1798字
そろそろ前に進まないといけないと思いつつも、いつだって同じ所で堂々巡りだった。 今日だってそうだ。頭のなかでは幾つもの案が浮かんではいた。だけどそれのどれも実 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:コーヒーと感覚 必須要素:丑三つ時 制限時間:2時間 読者:243 人 文字数:1079字
研ぎ澄まされていく。刃物を研ぐように、鏡を磨くように。酒は現実を忘れさせてくれる。嫌なものから目をおおって、心地よい気持ちにしてくれる。だから嫌いだった。コーヒ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:シンプルなあの人 必須要素:時限爆弾 制限時間:2時間 読者:307 人 文字数:1525字
「いつまで泣いてるのよ」「……当たり前だ。こんな時位、泣かせてくれ」僕は、自分の声がかすれて震えるのを、どうしても止められない。怖かった。何故こんな目に自分が合 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:紅茶と計算 必須要素:バナナの皮 制限時間:1時間 読者:278 人 文字数:1374字
白一色、ロココ調の家具に囲まれ、純白のフリルのドレスに身をまとい、ロイヤルコペンハーゲンのティーカップに注がれた今日の紅茶は、フォートナムメイソンのアールグレ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:都会の死 必須要素:バツ印 制限時間:1時間 読者:240 人 文字数:991字
死はどんなものにも平等に訪れる。俺は赤錆びたその馬鹿高い鉄塔を見上げた。涙が溢れた。悲しいのではない、嬉しいのでもない。ただ、涙が出た。その鉄塔の名前は、かつて 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:漆黒の闇に包まれし軽犯罪 必須要素:フォロワーの誰かを○す 制限時間:2時間 読者:255 人 文字数:1371字
「あんたには、何が見える?」錆びついたパイプ椅子に座り、俺は目の前に座るくたびれた様子の中年男性にそう問いかける。答えなど求めてはいない。一方通行の言葉は行き着 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:2つの円周率 必須要素:フォロワー達が○し合い 制限時間:2時間 読者:298 人 文字数:1211字
静寂が、全てを飲み込む。数万という観客がいながら、音一つ立たない。無音のプレッシャー。つばを飲み込むことさえはばかれる緊張。観客たちの視線は、ただ一点。中央に存 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:伊織千景 お題:謎の秋雨 必須要素:コーヒー牛乳 制限時間:2時間 読者:284 人 文字数:1635字
それは、雨のようだった。違うところがあるとしたら、それが赤い色をしていたことと、空からではなく、男の首から吹き出していたことくらいだろう。男は苦痛を感じるより、 〈続きを読む〉