お題:女の人間 制限時間:2時間 読者:319 人 文字数:778字

雨空にそう願う。
「この前の雨の日、僕は森で人間の女が罠に引っかかっていたのを助けました。

 人間の女は僕らと違って体毛がなく、尻尾も生えていません。最初に近づいた時は大声で叫びながら物を投げてきましたが、罠を外したら泣き止みました。でもこちらが怖いのか、暫くじっと睨んだまま何もいいません。言葉が通じないのかと思い話しかけると、大層驚いた表情で、言葉が通じるのかと返事をしました。

 僕は人間の女を怖がらせたことを謝って、自分の家に彼女を招きました。人間の女は罠で足を怪我していたので、僕は消毒液とガーゼと包帯を持ってきて、綺麗に巻いてやりました。人間の女はありがとうと一言言いました。少し無愛想だと僕は思いました。雨がやんだので、人間の女は森に帰りたがっていました。それに僕は気付いて、ドアを開いてやると人間の女はすぐに走って森に帰りました。」

「素晴らしい作文でした。お子さんは中々文才が有りますね」
 湿った鼻を舐めながら、先生は息子の書いた作文についてそう褒めてくれた。私個人としては、あまり人間との交流は避けて欲しいのだが、このように息子を褒めて貰えた事は単純に嬉しい事だった。ただ今回は人間の中でも凶暴性の低い女だったから良かったが、もしこれが凶暴な男だったらとぞっとする。これからはあまり息子を一人にしないよう、母さんにきつく言っておくべきか。

 私は先生にお礼をいって、小学校を後にした。今日は息子の作文と同じように、細やかな雨が降り注いでいる。道に出来た大きな水たまりが鏡のように私の姿を映し出す。そこにはくたびれた一匹の中年オオカミの姿が写っていた。オオカミと人間は大きく違う。それを理解するには息子はまだ幼すぎる。しかしだからこそ、今はその優しさを失わないで欲しい。優しく有るには違いを知りすぎた中年オオカミは、只々雨空にそう願うのである。 
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