お題:真紅の怒りをまといし凡人 制限時間:2時間 読者:329 人 文字数:1158字

燃える@市役所
 凡人は凡人なりの、身の程をわきまえた行動を取るべきだ。それが凡人たる私のモットーであり、そのお題目にしたがって日々を生きてきた。毎朝七時に目を覚まし、朝はご飯で、昼はパン、夜は日替わりで魚、肉、中華のローテーション。仕事は無難に公務員。休日はだらしなくゴロゴロと部屋で過ごす。規則正しく平凡で、見渡す限り世間並み。そんな凡人ライフを満喫していたはずの私が、今正に規格外の状況に陥っている。

 どのような状況かというと、燃えている。比喩とか言葉のアヤとかではなく、文字通り燃えている。小さめのキャンプファイヤ―規模の紅蓮の炎が、私の体を包み込むように燃え上がり、近くに置いてある市役所の備品である椅子を若干焦がし始めている。

「先輩ー早めに収めちゃってくださいねそれ。仕事にならないんで。」
 新人の山下がぞんざいな態度で嫌な顔をしてそう言うが、こちらだって困っているのだ。誰が好き好んで発火するか。私だって仕事中にこうなったものだから、仕事の書類を一つと、お気に入りだった椅子を全焼させてしまったのだ。だから私は加害者というよりどちらかと言うと被害者と言っても過言ではないはずなのだ。だからそんな目で見るな山下よ。後でコーヒーおごってやるから。

「なんだい大層燃え上がっているじゃないか。仕事に対してもそうあってほしいねえ」
 部長がまたねちっこい嫌味を投げかけてくるが、何も言い返すことが出来ず、ただ平謝りを繰り返すが、お辞儀をしたせいで部長の髪の毛に少し引火した。軽い大惨事になった。ちょっと気分が晴れて、火の強さが少し治まってきた。現在の火の強さをたとえるなら、石油ストーブ位の規模だ。

「うわー大変ですね。喉乾いてません?お水もってきましょうか?」
 市役所の聖母、佐々木さんが心配そうな顔をしてそう言ってくれた。確かにこの憤怒の炎をまとい始めてもう30分が経とうとしていて、若干のどが渇いてきている。佐々木さんナイス気配りと声を高々に叫びたいが、市役所の中なので遠慮して、普通に水を持ってきてもらうことにした。この一連の出来事が心に潤いを与えたのか、炎の強さがまた弱まった。現在ガスコンロ程の火力。

 暫く待っていると、佐々木さんが水を紙コップに入れて持ってきてくれた。
「さすがに手渡しは無理そうなんで、ここに置いておきますね」
そう言って佐々木さんはデスクにコップを置いて、にこやかに手を振りながら自分の部署に戻っていった。佐々木さんに感謝しながら私はコップに手をかけた。なんと水が沸騰して蒸発した。水を入れた紙コップは燃えないんだ―科学の実験みたいだな―とかそんなことを考えて現実逃避していると、改めて部長がこちらにやってきて、一言こう言った。

「今日は帰りなさい」
「ですよね」

 
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