伝説のオミオツケ祭
皆さんは、「オミオツケ」という儀式をご存知だろうか。
お味噌汁のことではない、ある地方の人里離れた集落に伝わる、一種の弔いの儀式の名称である。その儀式は主に口伝によって受け継がれてきたため、「オミオツケ」がどんな漢字表記なのか、それがどんな意味を持っているのかはの答は未だ出ていないが、「お見+お告げ」という説と、「御身を浸ける」が訛ったものではないかという説が、最近の学会では有力である。
現在も多くの謎に包まれている「オミオツケ」という儀式だが、今回私は集落の方々の行為によって、奇跡的にもその儀式に参加させて貰う事ができた。このレポートはその日私が体験した、「オミオツケ」の儀式について、記憶している限りのことを書き記したいと思う。
「オミオツケ」は、早朝五時に鳴らされるドラとともに始まりを迎える。ドラは集落で一番括約筋の強い若者が、バチを尻に挟んで叩き鳴らす。ドラが煩悩の数と同じ108回叩かれると、集落にある広場に村民全員が集合し、オミオツケ体操をはじめる。オミオツケ体操とはどういうものかというと、ラジオ体操のBGMが平沢進的プログレッシブ・ロックで、速度が1.5倍になったものと考えればそれで概ね合っている。
オミオツケ体操が終わると、一旦朝食の時間となる。朝食の内容は特に奇妙なところはなかった。気になったことといえば、何故か皆パン食だったことくらいか。朝食を済ませた後、再び広場に村民たちが全員集合し、村長が正式に「オミオツケ」開催の宣言をする。
「オミオツケ」では、まず村民が大きく「白組」と「赤組」に分けられる。二つに分けられたチームは、熾烈な花いちもんめを繰り広げる。その熾烈さ故、毎年立ちくらみを起こす者、血豆が潰れる者、トイレに行きたくなる者が続出するという。なぜ花いちもんめをするのかの理由は村民にもわからないという。
今年の実に九時間に及ぶ死闘を制したのは赤組だった。敗北した白組は、この後「オミオツケ」を締めくくるための最後の儀式にとりかかる。赤組はそれをゆったりとしたソファに座って優越感に浸りながら眺めている。「オミオツケ」の最後の儀式とは、ざっくり言うとバンジージャンプだ。村民の実に半数に及ぶ白組全員が一列に並び、端から順に流れるようなバンジージャンプをする。そして「オミオツケ」は大喝采とともに幕を閉じるのだ。なぜバンジージャンプなのかの理由は不明である。
世の中には「解らない」が山ほどある。「解らない」を「解る」にすることが学者の使命であり、「解らない」が存在するからこそ、私達は仕事を失わなくて済む。だが、世の中の「解らない」の中には、少なからず「解らなくていい」ものも存在するのではないだろうか。私は「オミオツケ」の調査のために、この集落に二年も滞在した。その二年の経験を踏まえて「オミオツケ」の存在意義について、私はこう総括してこの文章を締めくくろうと思う。
「俺の二年返せ」と。
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