お題:安い俺 制限時間:2時間 読者:340 人 文字数:1170字

九十九ディテクティブ
 いくらなんでも安すぎだと思う。
 自分に付けられている値札を見て、俺は店主にそう愚痴をこぼした。一級職人による一点もので、素材も一級品の懐中時計。確かに中古品ではあるけれど、目立つ傷も汚れもなく、ほぼ完璧な保存状態と言ってもいい。博物館に飾られていても何ら不思議ではない、それなのにこの値段はあまりにあんまりだ。

「いいや妥当だ。お前の経歴から考えればな」
 そう言われてしまうと、何も言い返せなくなる。そして喉まで出かかった更なる愚痴や不平不満を飲み込まざるをえないと悟る。なぜなら俺は世間一般でいうところの”いわくつき”だ。一体どんないわくつきかというと、理由がなんと3つもあるから困ったものだ。

第一に歴代所有者が相次いで奇妙な事件に巻き込まれるということ。それは決まって殺人事件で、中には所有者自身が殺人事件の被害者になったこともあったという。第二にその事件が決まって孤島や隔離されたコテージなどの、閉鎖された空間で起きるということ。第三の問題は、俺がしゃべるということ。長い年月を経過した骨董品が魂を持つ要領で、俺は単なる懐中時計ではなく、魂を持って自我を持つようになってしまった。我ながら中々厄介な代物だと思う。

「それで、この俺は売れそうかい? 大先生よ」
 嫌味と皮肉を織り交ぜて俺が問いかけると、苦虫を噛み潰したような表情で鼻を鳴らした。
「お前が売れたら俺は晴れて”大先生”から卒業できるさ」
 店主はパイプを吹かせながら、そう吐き捨てるように言う。そんな会話をしている間も、店の前は冷やかしの客すら一人として入ってくる様子がない。
「相変わらず本業はからっきしだな大先生。”副業”の方を本業にしたほうがいいんじゃないか」
店主は聞こえないふりをしながら、しかめっ面で店の外の通りを眺めていたが、あるものがその視界に入ってから、その表情が更に険しくなった。パトカーが一台、滑りこむようにして店の前に止まった。

「店主、またお手伝い頂けないでしょうか」
 パトカーから降りてきた警官は、慣れた様子でそういった。
「今度は山か島か、それとも空か」
 深い溜息を付きながら、店主は警官にそう尋ねる。
「今回は地下施設らしいです」
「人間はなんでそういつも、面倒な場所で殺されるかねえ」
 店主は重い腰をあげ、ロングコートを羽織り、鹿撃ち帽をかぶり、パイプの葉を交換し、俺をコートのポケットに仕舞いこんで、パトカーに乗り込んだ。

 俺を所有してきた人間は大抵こんなかんじになる。異様な数の殺人事件に遭遇するため推理能力が身について、否が応でも名探偵になってしまう。それが持ち主にとって幸せなことか不幸なことかはわからない。大抵の連中は不幸だという。けれどこの店主だって文句をいう割に、それなりに楽しんでいるようだ。
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