お題:意外!それは夢 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:365 人 文字数:2289字

奥様は...
「今日の晩ご飯何がいい?」
 夫の出がけにあたしは聞いた。
「オムライス」
 夫は一時も躊躇わずにそう言った。あたしは微笑みながら頷いて夫にスーツの上着を羽織った。
「ケチャップライス入りね?」
「もちろん」
「ケチャップでハート書いておくわね」
 夫はいつもの通りに玄関先であたしにキスをしてから、家を出た。家と言っても、マンションの一室ではあるのだが。
「いってらっしゃい」
 あたしは玄関先で夫の後ろ姿を見送った。

 あたしたちは新婚一ヶ月目のホヤホヤの夫婦。結婚式を挙げてからこの方ワタワタの毎日で、ようやく日常を取り戻したばかり。引っ越しに荷物もこの週末にようやく全て開けたばかりだった。あたしは仕事と辞め、専業主婦になった。子供ができるまでという約束ではあるけれど、あたしとしてはそれまでのモラトリアム期間にどうしてもやっておきたいことがあった。
 さて、あたしは左近貴理子、旧姓は神宮寺。夫の名前は左近義郎、歳は三十歳になったばかり。あたしより五歳年上。あたしたちは職場結婚で、最初に声を掛けてきたのは夫の方。あたしは高卒でOLになったばかりの頃に見初められたのだった。それから数年の交際期間を経て今年めでたくゴールインという、ありきたりではある夫婦だった。ただ、一つの事を覗けば……。

「さて」
 夫の出て行った後、あたしは引っ越しの後片付けの続きを始めた。ほとんどの物を箱から出し終えたのはいいのだけれど、まだ終い終えていない物が沢山あった。特にあたしが実家から持ってきた物がまだ仕舞い終えていない。これらは夫がいない時に片付けなければならない物ばかりだった。昨日一昨日の週末の間は夫がずっと引っ越しの片付けを手伝ってくれていたので、開けられなかった物ばかり。

「残りはこれだけだね? 手伝おうか?」
 夫はあたしが実家から持ち出してきた古い大きな木箱3つを眺めながら、何度かそう訊いた。
「いいの。これはあたしが整理するから。そのままにしておいて」
 こういうやりとりが何度かあった。けれど、夫はその箱を開けようとはしなかった。彼はそういう人なのだ。

 木箱を開ける。それはおばあちゃんのまたさらにおばあちゃんの、ずっとずっと昔から代々伝わる品物だった。代々とは言っても、何故かうちの家系は女系で、何百年もの間女の子しか生まれない家系なのだ。そして、その長女だけに受け継がれてきたのがこの三対の箱なのだという。
 実はあたしもこの事実を知ったのは結婚が決まった時だった。今の夫を実家に連れて行き、結婚の許しをもらった夜。彼はあたしのお父さんに監禁され、一升瓶を何本も開けさせられている頃、あたしはおばあちゃんとお母さんに呼ばれて、実家の横にある蔵に呼ばれた。実家では、母方のおばあちゃんが同居していたのだ。そして、そこで初めてこの箱を渡された。
「この箱はね、嫁に行く時に譲られることになっているんじゃ」
 おばあちゃんはそう言って、お母さんに目配せした。つまり、お母さんが嫁に行った、つまりはお父さんと結婚した時にこれをおばあちゃんから譲られたということらしい。
「何これ?」
 あたしはお母さんに訊いた。
「これは、三種の神器と言ってな、うちに代々伝わる物なのじゃ」
「三種の神器?」
 そんな神秘的な響きのする物は初めて聞いた。大体、この蔵に入るのだって、子供の時以来だったはず。
「そう、三種の神器。そして、これから重要なことを話すぞ……」
 そして、おばあちゃんは、驚くべきことを話し始めた。

「意外よね…」
 あたしは独りごちた。三対の箱を全て開けて目の前に並べる。鏡、勾玉と羽衣。本来三種の神器というと、日本神話に出てくる天皇だけが持つ宝物のことを言うらしいが、ここにあるのはそれとはまた別の物。
 これは卑弥呼から代々続く「鬼道(きどう)」のシャーマンだけが持つ神器だというのだ。いわゆる呪術を行う者という意味なのだろう。イマドキの言葉で言うならば、「魔女」になるかと思う。
 あたしは未だに半信半疑だった。「魔女」と言えば、「魔女っ子」とかで小学生が一時憧れるアニメとかしか思い浮かばない。こんなおばちゃんになって「魔女」とか言われてもピンとこない。確かに巷では「美魔女」なんて言って浮かれてるハイミスがいるらしいけれど、あれとは全く別物。確かに魔法が使えるというのだから。そして、あたしは実際にあの蔵でこの神器を使って確かに魔法を使ったのだ。

 お母さんに言われるがままに神器を使い、あたしは空を舞った。そして、森の妖精達と話をして、ついでに狐を化かしてきた。あれを魔法と言わずして、何というのか。
 しかし、この都会のど真ん中にいるこのあたしが魔法使いになる必然性は全くない。しかも、この魔法を使って何をしろというのだろうか、卑弥呼様。と、あたしが蔵に戻ると、おばあちゃんは言った。
「いいかい、この力で世界を平和にするのが、あたしたちシャーマンの究極の夢なんじゃ。しっかり頼むよ」
 と、一方的に夢を託されたあたしだった。

 そう、あたしたちは、ごくごく普通の夫婦で、ごくごく普通の生活をしているはずだった。ただし、「奥様は魔女」だったのだ。そして、子供ができるまでの間に代々伝わる夢を実現するべく頑張らなければならないのだった。

 とは言え、世界の平和を完遂するためにはまだまだ道は遠い。あたしは、三対の木箱をまたしまって、押し入れにしまいこんだ。
 そして、とりあえず、今日の晩ご飯の買い出しに出かけるのであった。
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:青猫亭たかあき お題:意外!それは夢 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:293 人 文字数:1055字
旦那と大喧嘩をしていた。 切っ掛けは些細なことだったかもしれないが、日常の生活の中で一緒に暮らしている相手に対してふと感じ、じわじわと堆積していく違和感や不快 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ささかま。@小説家になろう等 お題:意外!それは夢 制限時間:1時間 読者:335 人 文字数:1999字
※「鍵とドア」からお読みください。シリーズものです。 ※シリーズは随時こちらにまとめていきます→http://ncode.syosetu.com/n1485b 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:にい お題:複雑な始まり 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:36 人 文字数:2539字 評価:0人
鐘の音が鳴り響くと、演劇のはじまる合図となる。暗転していた舞台に光が差し、そこに立つ登場人物が明らかになる。主人に夫人、七人の子供たちに、執事、使用人の男女、 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:複雑な始まり 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:49 人 文字数:3616字 評価:1人
新国立競技場では、かつてオリンピックが開かれた時よりも大人数の観衆がひしめいている。5万人以上が見守る中、競技場の中心に今、四人の選手が並び立とうとしていた。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ユク お題:突然の高給取り 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:53 人 文字数:1492字
落ち着いた木目調の家具が揃った宿の一室。暖炉の火の弾ける音だけが時折静寂を破るけれど、それはむしろ心を穏やかにしてくれる。外はしんしんと雪が降り続いていて、転生 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:永遠の初心者ペンギン お題:残念な汁 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:66 人 文字数:1473字
拝啓 母上様段々と日が短くなり、夕方は肌寒く感じる今日このごろいかがお過ごしでしょうか。僕はそろそろ空腹で死にそうです。―雲の厚さが薄くなり、水道の水が温くなっ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:みなも お題:強い映画館 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:182 人 文字数:691字
兵器にも種類が存在する。 直接外的損傷を与える剣や銃、大量の人間を効率よく処理する爆弾や生物兵器。 そんなこの世にあふれている兵器を全て製造したことがあると豪 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:脱兎 お題:強い映画館 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:182 人 文字数:2518字
国中で一番集客がある映画館はいったいどこなのだろう。 作品別のランキングなら、週末ごとに興行通信社というところがレポートを出している。Yahoo映画のランキン 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:安い自動車 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:256 人 文字数:2484字
山沿いの淋しい道路に面した歩道を、何ともなく歩いていた。 半ばやけになっていたのだと思う。胸の風穴めいた虚しさは毎日のように嘆息を促し、ほんの刹那でも明るい気 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:だーすー お題:君のブランド品 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:263 人 文字数:994字
午後の授業までにはまだ時間があった。とはいえすることも特にないので、大学のがらんとした大教室に一人で座っていた。 しばらく経つと、見たことのある顔が入ってきた 〈続きを読む〉

もふもふ@神楼学園15企画中の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:もふもふ@神楼学園15企画中 お題:朝の絶望 必須要素:ヨーヨー 制限時間:30分 読者:620 人 文字数:1584字
「もう、朝から絶望的ぃ」 あたしは遙香。この春高校卒業したばかりの短大1年生。そして隣でボヤいているのが、あたしの親友で幼なじみの蒼空。「どうしたの? 蒼空」「 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もふもふ@神楼学園15企画中 お題:贖罪の火 必須要素:えへへ 制限時間:30分 読者:738 人 文字数:1617字
「えへへ」 と、私は誤魔化した。彼からの贈り物、それは、ダイヤの指輪だった。ちょうど私の薬指に合わせたサイズ。一体いつの間に計ったのだろうか。 もちろん、嬉しく 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もふもふ@神楼学園15企画中 お題:調和した演技 制限時間:1時間 読者:592 人 文字数:2957字
人は誰しも仮面を被っている。あたしもご多分に漏れず、いくつもの仮面を持っている。両親に対して『いい子』でいる仮面。学校の友達に対して『いい友達』でいる仮面。先 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もふもふ@神楼学園15企画中 お題:苦し紛れの自動車 必須要素:「ひょえー」 制限時間:30分 読者:357 人 文字数:2014字
「ひょえー」 それは、あたしが発した言葉。自分でも驚くくらいの大音量が車内に響いた。そして、あたしがこの悲鳴を発した原因がほんの1時間前の出来事だった。「車買っ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もふもふ@神楼学園15企画中 お題:複雑な液体 必須要素:ゴマ 制限時間:15分 読者:477 人 文字数:921字
「この液体を最後に混ぜますと、ほらこの通り」 高瀬シェフはそう言って、カップに入った少量の液体を最後に鍋に流し込んだ。すると、香ばしい香りが部屋中に立ちこめた。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もふもふ@神楼学園15企画中 お題:戦艦の寒空 必須要素:スマホ 制限時間:30分 読者:373 人 文字数:1379字
「自衛隊の戦艦、見に行かないか?」 ある日突然父にそう訊かれた。「は?」「海上自衛隊の戦艦が小樽の港に入港するらしいんだ。友達のツテで中に入れることになったんだ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もふもふ@神楼学園15企画中 お題:あいつと雪 制限時間:1時間 読者:330 人 文字数:2973字
雪を見ると思い出すのは、あいつのこと。 滅多に雪の降らないこの地方では、雪が降ると一大イベントのように町が騒ぎ出す。子供達ははしゃいでべちゃべちゃの雪を必死に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もふもふ@神楼学園15企画中 お題:愛、それはお茶 制限時間:15分 読者:373 人 文字数:980字
「はい、お茶」 おばあさんは縁側に佇むおじいさんにお茶を差し出した。「ああ……ありがとうよ」 おじいさんは微笑みながら、湯飲みを受け取った。「もうそろそろ寒くな 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もふもふ@神楼学園15企画中 お題:灰色の真実 必須要素:哲学的な思想 制限時間:1時間 読者:446 人 文字数:3153字 評価:4人
「夏の終わりは寂しいな」 と、彼は言った。「そう?」 あたしはアイスキャンディを舐めながら何の気になしにそう答えた。「夏の終わり時期にそう思ったことはない?」 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:もふもふ@神楼学園15企画中 お題:意外!それは夢 必須要素:ケチャップ 制限時間:1時間 読者:365 人 文字数:2289字
「今日の晩ご飯何がいい?」 夫の出がけにあたしは聞いた。「オムライス」 夫は一時も躊躇わずにそう言った。あたしは微笑みながら頷いて夫にスーツの上着を羽織った。「 〈続きを読む〉