お題:疲れたカリスマ 制限時間:2時間 読者:1017 人 文字数:2040字

カリスマもといシスコン兄と溜め息
「はぁ~。」

時刻は、午後9時を回ったところ。
住宅街にたたずむちょっと大きな一軒家に、その男は帰ってきた。
リビングに現れるなり溜め息を漏らす、長身・黒髪ショートの美形男。
こちらが殴りたいぐらいモテるその男の名は、修也(しゅうや)。
私の、表面上の愚兄・・・もとい、実兄である。

『おかえり、修ちゃん』

「あ、千鶴。ただいま。」

私の顔を見るや、さっきまでの疲労顔はどこへやら。
ふわりとした笑顔に切り替え、上着をソファーの背もたれに掛ける。
ちなみに、修ちゃんという呼び方は、当の本人が幼少期より私に教育した結果であり、
断じて私が好んで呼んでいるわけではないことをここに断っておく。

『お客さんいっぱいだったの?』

「あぁ。しかも、派手でケバい連中ばっかだったし、ババアも多かったし」

『そこまで言っちゃう?』

「言う、俺にはその権利がある。店内で喧しかったから、営業妨害で警察行き」

『そんなに!?』

「客同士で揉めたんだよ。揉めた内容も内容だったけど」

『なんだったの?』

「清楚系の奥様を俺が呼んだら、ババアがしゃしゃり出てきて、
 私あの人にやってもらいたいから順番譲ってーだの、
 譲ってくれないなら私があなたの髪切ってあげるーだのと・・・・・」

『うわぁ・・・それはキッツいね。営業妨害も甚だしいわ』

修ちゃんの職業は、いわゆるカリスマ美容師。
以前店に連れて行かれたら、そこはホストクラブと見紛うレベルのイケメン揃いだった。
実はホストクラブもやってるんじゃないかと何度疑ったことか。
まぁ、結局疑惑はシロだったけど。
そんなこともあるぐらい、修ちゃんの職場である美容室は、男目当ての客が多いらしい。

「はぁ・・・・・。」

『溜め息ばっかり吐いてたら、幸せ逃げるよ?』

「そんだけ疲れさせられてんだよ。色目使われまくって、恋愛視されまくって。」

『彼女作る気ないの?』

「シスコンが妹以外の女を彼女候補として見られると思うか?」

はい、イケメンからついにボロが出ました。
これが愚兄たる最大の原因。
なんでそうも簡単にシスコンであると公言できるのか。
私は納得できるくらい直接関わってきたけど、公言するようなことではないはず。
というか、いい加減彼女作れ、むしろ作れ。

『お父さんが初孫待ってるヨー』

「千鶴の子以外作る気ありまセーン」

『近親相姦デス』

「存じておりマス」

私は本気もかねてふざけてるのに、兄は私に合わせて本気のみを吐露してくる。
どうしてシスコン兄になってしまったのか、わけがわからない。
これでも美容室では一番人気のイケメンで、腕もカリスマの名に恥じないレベル。
接頭語のカタカナ四文字が、カリスマからシスコンになる日はそう遠くないのかもしれない。

「千鶴~・・・暇?」

『スマホでゲームしてるから暇じゃない』

「じゃあ、抱き枕っ」

『ふぁっ!?』

おいこら、ソファーに座っている私の腹部に抱きつくな愚兄。
本当は胸の方に顔を埋めたかったのだろうか、背中に回された手の位置がおかしい。
引き離そうと修ちゃんの頭を掴むが、大人の男相手に力で勝てるわけがない。

「ん~♪俺の癒し~♪」

『・・・・・はぁ。』

今度は、私が溜息を吐いた。
諦めて修ちゃんは放置し、ゲーム再開。
両親は今外出中だから、帰って来るまで修ちゃんは着替えもせずにこのままなのだろう。
あとでお母さんに怒られることは容易に想像できた。

「ち~づるっ」

『何?』

「頭撫でて?」

『ヤダ☆』

「働いてきたお兄様は疲れてるんだから、癒してくれたっていいだろ~?」

『この間の校内模試、1位だったよ』

「よし!前に欲しがってたアンティークの懐中時計買ってくる!」

『ホント!?』

「千鶴には嘘吐かない!」

思わずスマホから手が離れた。
さすがはシスコンと自負する修ちゃん、私の扱い方をよくわかっていらっしゃる。
魅力的な確約をもらったので、優しく頭を撫でてあげた。
目を細めて喜んでいる修ちゃんは、私の腰回りに抱きついたままウトウトし始めた。

『寝るなら着替えてきたら?』

「ん・・・・や・・・・」

『嫌じゃなくて、着替えてきなさい』

「・・・・・。」

反応がなくなった。
完全に寝落ちたらしい。
よっぽど疲れてるんだろうなぁ、カリスマ美容師のお兄様は。
叩き起こすのは簡単だけど、そこから修ちゃんの部屋に連れて行くのは大変。
実際に経験があるから、仕方なくそのままにしておくことにした。

『お疲れ様、修ちゃん。早く妹立ちして、可愛い彼女と子供作るんだよ~。』

聞こえていないだろうけれど、そっと念掛けをしておいた。
数時間後、帰宅したお母さんが私に抱きついたままソファーで眠る修ちゃんを見て、
呆れ顔で溜息を吐きつつ拳骨を繰り出したのは、言うまでもなかった。



End.
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