お題:うるさい笑顔 制限時間:1時間 読者:991 人 文字数:1300字

僕っ娘なのか男の娘なのか
 俺は“あいつ”が嫌いだ。

「いい加減にしてくれないか?」
 何の変哲もない学校の渡り廊下。俺は“あいつ”を睨んだ。“あいつ”はきょとんとして、俺を見詰め返す。しばし微妙としか言い様の無い睨み合いを経て、やはり“あいつ”は笑った────俺はこの笑顔が一番嫌いだ。

「自分はみんなの味方、お友達」と言わんはかりの恩着せがましい笑い方。俺は知っている。



 この笑顔が、実は表面だけのもので在ること。まさに仮面、上っ面であること。



 言外に、喧しいくらい人好きを宣言しながら、実際には“あいつ”は下僕を増やしたいだけなのだ。周りは気付かない。知らず知らず“あいつ”の言いなりだってこと。

 いや、気付いていたってそれすら心地好く感じさせてしまっているんだろう。気持ち悪い。

 俺がそれを知ってしまったのは偶然だった。

 俺は元々“あいつ”から距離を取っていた。人気者の“あいつ”と比較的空気ではないが目立つ人間でもない俺ではまずクラスメートと言う以外で何の接点も無い。

 だから、遠くで感知してしまったのだ。

“あいつ”を取り巻く環境、“あいつ”を天として存在するヒエラルキーを。

 もし、感付いたのが俺だけだったならここで終わりだったし、俺は決してヒーローなんかではないから正義に反するなどと“あいつ”と奴隷を引き離すことだって有り得ない訳だし。俺だけだったなら。



 俺がわかってしまったと同時に、不運にも“あいつ”も悟ってしまった。

 俺は見た。あの瞬間、“あいつ”は笑ったのだ。いつもの囂しい程の善人笑いでなく、静かな人の悪い笑み。深淵の底を湛えるような瞳で、“あいつ”は確かに嗤ったのだ。



 これからは言わなくてもわかると思う。

“あいつ”は事在る毎に「やぁ」だの「よっ」だの俺に構うようになった。

 幸い、“あいつ”の周りの下僕や信者は躾が行き届いているらしく、俺が迫害を受けることは無かった……この辺も“あいつ”の不気味さを強調しているようだ。



「どーしてそんなこと言うのかな? 僕はきみと仲良くしたいだけなんだけど」
「気色悪いこと言うな。監視したいだけだろこの売女」
「失礼な。簡単に身売りなんかしないよ。みんな僕の肌なんか触らせなくたって言うこと聞いてくれるもの」
「この女王蜂。最低だな」
「そう? でも、みんな僕が好きで、別に私はお願いしているだけだよ?」
「お前とだけは仲良くなれない」
「えー? そんなこと言わないでよ。ね?」
「……失せろ」

 更に強く睨み付けると「怖ーい」とわざとらしく楽しそうに悲鳴を上げて“あいつ”は踵を返した。背を向けた“あいつ”に俺はそっと息を吐く。やっぱりあの笑顔は苦手だ。うるさ過ぎて叶わない。

 だがほっとしたのも束の間、“あいつ”は再び上半身だけをくるりと返し─────あの姦しい笑い顔でなく僅かに嘲りを含んだ微笑で呼吸するように言ちた。

 囁くような、小声で。離れたところから。けれどどこかから響く喧騒に紛れもせずはっきり、俺の耳に届いた。



「きみは、いずれぼくのものになるよ」
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