お題:うるさい笑顔 制限時間:1時間 読者:996 人 文字数:1300字

僕っ娘なのか男の娘なのか
 俺は“あいつ”が嫌いだ。

「いい加減にしてくれないか?」
 何の変哲もない学校の渡り廊下。俺は“あいつ”を睨んだ。“あいつ”はきょとんとして、俺を見詰め返す。しばし微妙としか言い様の無い睨み合いを経て、やはり“あいつ”は笑った────俺はこの笑顔が一番嫌いだ。

「自分はみんなの味方、お友達」と言わんはかりの恩着せがましい笑い方。俺は知っている。



 この笑顔が、実は表面だけのもので在ること。まさに仮面、上っ面であること。



 言外に、喧しいくらい人好きを宣言しながら、実際には“あいつ”は下僕を増やしたいだけなのだ。周りは気付かない。知らず知らず“あいつ”の言いなりだってこと。

 いや、気付いていたってそれすら心地好く感じさせてしまっているんだろう。気持ち悪い。

 俺がそれを知ってしまったのは偶然だった。

 俺は元々“あいつ”から距離を取っていた。人気者の“あいつ”と比較的空気ではないが目立つ人間でもない俺ではまずクラスメートと言う以外で何の接点も無い。

 だから、遠くで感知してしまったのだ。

“あいつ”を取り巻く環境、“あいつ”を天として存在するヒエラルキーを。

 もし、感付いたのが俺だけだったならここで終わりだったし、俺は決してヒーローなんかではないから正義に反するなどと“あいつ”と奴隷を引き離すことだって有り得ない訳だし。俺だけだったなら。



 俺がわかってしまったと同時に、不運にも“あいつ”も悟ってしまった。

 俺は見た。あの瞬間、“あいつ”は笑ったのだ。いつもの囂しい程の善人笑いでなく、静かな人の悪い笑み。深淵の底を湛えるような瞳で、“あいつ”は確かに嗤ったのだ。



 これからは言わなくてもわかると思う。

“あいつ”は事在る毎に「やぁ」だの「よっ」だの俺に構うようになった。

 幸い、“あいつ”の周りの下僕や信者は躾が行き届いているらしく、俺が迫害を受けることは無かった……この辺も“あいつ”の不気味さを強調しているようだ。



「どーしてそんなこと言うのかな? 僕はきみと仲良くしたいだけなんだけど」
「気色悪いこと言うな。監視したいだけだろこの売女」
「失礼な。簡単に身売りなんかしないよ。みんな僕の肌なんか触らせなくたって言うこと聞いてくれるもの」
「この女王蜂。最低だな」
「そう? でも、みんな僕が好きで、別に私はお願いしているだけだよ?」
「お前とだけは仲良くなれない」
「えー? そんなこと言わないでよ。ね?」
「……失せろ」

 更に強く睨み付けると「怖ーい」とわざとらしく楽しそうに悲鳴を上げて“あいつ”は踵を返した。背を向けた“あいつ”に俺はそっと息を吐く。やっぱりあの笑顔は苦手だ。うるさ過ぎて叶わない。

 だがほっとしたのも束の間、“あいつ”は再び上半身だけをくるりと返し─────あの姦しい笑い顔でなく僅かに嘲りを含んだ微笑で呼吸するように言ちた。

 囁くような、小声で。離れたところから。けれどどこかから響く喧騒に紛れもせずはっきり、俺の耳に届いた。



「きみは、いずれぼくのものになるよ」
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:風呂 お題:僕が愛した凶器 制限時間:1時間 読者:11 人 文字数:1057字
『あなたの好きな武器はなんですか?』 こう訊かれて、余程の忌避感を持っていなければ、答えられない人はいないだろう。 剣、槍、弓、銃やその他、個人が携帯出来るもの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:やわらかい演技 制限時間:1時間 読者:12 人 文字数:1310字
例えば、だ。 例えばテレビドラマの撮影現場に出くわしたとしよう。 いつもテレビや映画、もしくは舞台等で見るベテランや若手俳優がそれぞれの演技をしている。 別に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
未完 ※未完
作者:夜楊(ややなぎ) お題:消えた喜劇 制限時間:1時間 読者:19 人 文字数:331字
僕は楽しい物語が好きで、ふらりと予約した舞台を見に行くことがしばしばある。 腹を抱えて笑ったり、ちょっと涙が滲んだり、感情が揺さぶられるような会場の一体感がと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:元気な夕飯 制限時間:1時間 読者:5 人 文字数:1262字
会社の上司はいつもいつも機嫌が悪い。私が上司の期待に応えることができていないからということは、重々承知だがここ最近はずっと私や他の部下に怒鳴り散らしている。帰 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:那智 お題:正しいパソコン 制限時間:1時間 読者:15 人 文字数:1285字
アリステアは流れるように生まれては画面の上へと消えて行く文字の羅列をぼんやりと眺めていた。自身から伸びたプラグはパソコンを介し、隣で幸せそうに梨を貪るフゥラへと 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:帆立之貝柱 お題:ワイルドなぐりぐり 制限時間:1時間 読者:19 人 文字数:2473字
マッサージの店に入ろうと考えたのは久々である。社会人の悩みの種である腰痛が悪化し、他の病院で診察を受けることも少なくはなかったが、久々にあの店のマッサージを受け 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:夜楊(ややなぎ) お題:愛すべき木 制限時間:1時間 読者:18 人 文字数:1576字
その木は街を見守っていた。私たちはこの木に育てられたと言っても過言ではないといい切れる。その木から伸ばされる枝を編んで寝床にし、繊維から服を作る。果実は瑞々し 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:夜楊(ややなぎ) お題:これはペンですか?違うわ、それは駄洒落 制限時間:1時間 読者:17 人 文字数:1386字
日曜日の夕方、なんともなしに国民的落語番組にチャンネルを合わせながらの夕飯。僕は一人暮らしで、この小さな家の中で話し相手がいないので、せめてテレビでは騒がしく 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:子供の昼 制限時間:1時間 読者:12 人 文字数:1311字
永遠の城があった。退屈であくびの時に出てしまう吐息のような。そう行った間抜けさと温かさと、そしてほのかに滲む涙を掛け合わせたような時間を誰しもが持っていた。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:帆立之貝柱 お題:孤独な傘 制限時間:1時間 読者:32 人 文字数:2576字
その昔、国語の教科書に、傘をささない男の話が載っていたのを雨が降り出した街並みを眺めながら、思い出した。どうして彼は傘をささなかったのだったか。大人になり、様 〈続きを読む〉

aza/あざの即興 小説


ユーザーアイコン
作者:aza/あざ お題:赤い14歳 制限時間:1時間 読者:882 人 文字数:1232字
酷い酩酊状態だったと思う。だが笑わざる得なかったのも一つだ。 何がお目出度いのかわからないが、ただ煙草を吸い酒を飲み、自我を崩落させるのは楽しかった。 理解な 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:aza/あざ お題:うるさい笑顔 制限時間:1時間 読者:996 人 文字数:1300字
俺は“あいつ”が嫌いだ。「いい加減にしてくれないか?」 何の変哲もない学校の渡り廊下。俺は“あいつ”を睨んだ。“あいつ”はきょとんとして、俺を見詰め返す。しば 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:aza/あざ お題:男同士の死刑囚 制限時間:1時間 読者:1358 人 文字数:720字
それはとある処刑場。隣り合わせの二部屋の壁越しの会話。「どーなのよ」「何が」「俺らあと数分の命ですよ」「仕方ないな。それだけのことをした」「何それ、余裕ぶっこ 〈続きを読む〉