お題:東京の任務 制限時間:15分 読者:314 人 文字数:1007字

物思いの省略 ※未完
 

 電車を降りる時、いつも、何かの境界線を跨ぐような気持ちになる。
 コンクリートのホームと車両の隙間から僅かに覗く薄暗い闇。眼下には、埃と雨に汚れたスポーツドリンクの空き缶や、コンビニエンスストアーの白いビニール袋や、何日も前の新聞や、週刊誌が、無言で転がっている。褐色の砂利とレール。もしここで靴か何かを落としたら、それがレールの下に入ってしまったら、と考える。電車を止める気にはなれないだろう。たかだか、ちっぽけなサラリーマンである自分の、たった一足の靴、値段換算すれば2500円くらいかな、そんなもののために、何万人という人々から五分ずつ時間を頂戴するなんて、考えただけでも末恐ろしい。集めた時間を時給換算したら、僕はいったい幾ら払わなきゃいけないんだろうな? 拾えなかった靴は、電車が動き出すなり、レールと車輪の間に挟まれて粉々に粉砕されるんだろうな。ちょっと気分が良いかもしれない。ただ、靴が片っ方だけじゃあ、恥ずかしくて出社できないし、営業回りもできないし、靴を買うために寄り道しなけりゃいけない。遅刻確定だ。恐ろしい。やっぱり電車とホームの間は境界線だ、平和ないつもどおりの一日と、恐ろしく不穏な一日との間の。

 と、およそ2秒の間にそんなことを考えて、彼は歩き出した。
 人の流れに乗って、泳ぐように階段を降りながら、指を添えた銀色の手すりについて考える。階段を三歩降りたところで次の電車が到着し、次の人波がどっと階段に押し寄せてきた。慌てて手すりを強く握りしめ、それでいて速度は緩めずに、階段を下る。はたしてこの手すりに、一日で、いったい何人の手が触れるのか、いったい何人分の皮脂と指紋が残され、そして上書きされていくのか。自分の一歩前で手すりを握っている細い首筋の女性、彼女の体温に一歩遅れて追いつき、そしてそれがすぐさま、別の他人に上書きされていくということ。発車ベルがひっきりなしに鳴り響くが、彼も、彼の前にいる女性も、彼の後ろにいる太った中間管理職の男性も、イヤホンで耳をふさいでいるので、それは幻聴のようにしか聞こえない。

 と、およそ5秒のあいだにそんな物思いにふけって、彼は連絡通路に降り立った。


……中略……


 彼はやっと、会社のドアをくぐった。



東京の任務とは、それらおも





メモ:背景描写重点、ストーリー排除、
東京の任務、立ち止まらないこと
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