お題:鋭い略奪 制限時間:15分 読者:275 人 文字数:763字

それは掏りのように遂行される
 

あまりに細く鋭利な刃で傷付けられると、身体は痛みに気付けないのだそうだ。
傷口は視認できない。しかし、それでもしっかりと、組織は傷つけられている。
やがて、血液がじんわりと滲み、ぷくりと玉になり、ぼたぼたと零れる段になって、ようやっと身体が傷と痛みを自覚する。認識が現実の傷に遅れてしまう。

それは、身体に留まらず、心と身体においても全く同じだ。


そうそう、申し遅れたけれども、私は吸血鬼の親戚だ。
彼らは夜闇に紛れてやってきて、眠る人の首筋にふわりと牙を立て、文字通り人々の命と人生を略奪してしまうけれど、私はそうじゃない。

私の主食は、人の心の血液である。


聴いたこともないって?
そりゃあそうだ、私は、馬鹿な吸血鬼たちと違って、それはもう念入りに人間社会に溶け込んでいる。
姿かたちは全く人間だし、私の子孫にはもしかしたら、「自分は人間だ」と思い込んで、自分の正体を忘れてしまっている者さえもいるかもしれない。

しかし私たちの主食は、人の魂のぬくもりである。


こっそり教えてあげようかな。
私たちは、人と擦れ違いながら、挨拶を交わしながら、眼差しを投げながら、会話しながら、抱擁しながら、食事をしながら、性行為に及びながら、結婚生活を営みながら、子供を育てながら、その全ての過程において、人の心と魂を、目に見えないほど細い刃でそっと切り取って、食べて、生き延びている。
彼らは、傷付けられたその時は、何にも気づかない。
しかし私には見えている。
彼らの柔らかいぬくもりに、細い細い亀裂が入り、血が滴り落ちるさまが。
彼らがそれにちっとも気付かずに、笑っているさまが。

私たちはそっと微笑む。そして唱える。


いただきます。



君も絶対、どこかで一人くらいには、食べられているはずだよ。
 
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