お題:鋭い略奪 制限時間:15分 読者:263 人 文字数:763字

それは掏りのように遂行される
 

あまりに細く鋭利な刃で傷付けられると、身体は痛みに気付けないのだそうだ。
傷口は視認できない。しかし、それでもしっかりと、組織は傷つけられている。
やがて、血液がじんわりと滲み、ぷくりと玉になり、ぼたぼたと零れる段になって、ようやっと身体が傷と痛みを自覚する。認識が現実の傷に遅れてしまう。

それは、身体に留まらず、心と身体においても全く同じだ。


そうそう、申し遅れたけれども、私は吸血鬼の親戚だ。
彼らは夜闇に紛れてやってきて、眠る人の首筋にふわりと牙を立て、文字通り人々の命と人生を略奪してしまうけれど、私はそうじゃない。

私の主食は、人の心の血液である。


聴いたこともないって?
そりゃあそうだ、私は、馬鹿な吸血鬼たちと違って、それはもう念入りに人間社会に溶け込んでいる。
姿かたちは全く人間だし、私の子孫にはもしかしたら、「自分は人間だ」と思い込んで、自分の正体を忘れてしまっている者さえもいるかもしれない。

しかし私たちの主食は、人の魂のぬくもりである。


こっそり教えてあげようかな。
私たちは、人と擦れ違いながら、挨拶を交わしながら、眼差しを投げながら、会話しながら、抱擁しながら、食事をしながら、性行為に及びながら、結婚生活を営みながら、子供を育てながら、その全ての過程において、人の心と魂を、目に見えないほど細い刃でそっと切り取って、食べて、生き延びている。
彼らは、傷付けられたその時は、何にも気づかない。
しかし私には見えている。
彼らの柔らかいぬくもりに、細い細い亀裂が入り、血が滴り落ちるさまが。
彼らがそれにちっとも気付かずに、笑っているさまが。

私たちはそっと微笑む。そして唱える。


いただきます。



君も絶対、どこかで一人くらいには、食べられているはずだよ。
 
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
相対の門 ※未完
作者:chago お題:鋭い略奪 必須要素:オリーブオイル 制限時間:15分 読者:256 人 文字数:596字
オリーブは好きだけれど、オリーブオイルは苦手だと給仕に言付けておくと、通常より1.5倍のオリーブがもられた和風ドレッシングのかかった前菜のサラダが出てきた。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
※未完
作者:紡木 詠士*小説家になろう お題:純粋な戦争 制限時間:15分 読者:6 人 文字数:373字
「いただきます」開始の号令により3年2組の昼食が始まる。今日の給食は豪華であった。ご飯、牛乳、ピーマンの肉詰め、ごぼうサラダ、わかめスープ、デザートにクレープ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:九夜月 お題:儚い体 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:521字
駅のホームでふと何気なく目をひくものがあった。なんの、特別なものではない女の子の笑顔。隣の彼氏に向けられた笑顔は、私には輝いて見えて特別に眩しかった。将来私も結 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:こあら お題:暗黒の音楽 制限時間:15分 読者:11 人 文字数:790字
僕は作曲者だ。ピアノに手を置き、頭の中で音楽を作りながら指で実際に奏でていく。その音たちを紙に書き込んでいき、僕の音は作られる。僕は楽しい音楽が好きだ。跳ねるよ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:暗黒の音楽 制限時間:15分 読者:3 人 文字数:423字
暗闇の中でピアノの音が響いている.音は目の前の音楽室から聞こえてきているようだ.今はもう真夜中だ,こんな時間にピアノがなっているのはおかしい.おかしいといえばな 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:雨宮ヤスミ お題:夜のピアニスト 制限時間:15分 読者:11 人 文字数:898字
ただ彼女はピアノを奏でているだけなのだ。そのことが、何だか急に愛しく思えてきた。 深夜二時に音楽室に行くと、ピアノを弾いている女生徒の幽霊がいる。 たったそれ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:鬼龍院asanuma お題:夜のピアニスト 制限時間:15分 読者:11 人 文字数:709字
金曜日の夜は、華やかである。 ここ、スターダストラウンジは都会の夜景が一望できるバーで、夜のデートスポットとしてカップルによく利用されている。今日は金曜日の夜 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者: お題:淡い世界 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:920字
ゆらぐ光、ほどける輪郭、網膜に滲む世界、水彩絵の具を使えば優しい人だと思ってもらえるんじゃないかと、そんな妄執に囚われたのはいったいいつのことだったのか。おそ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:まろやかに傾く人 お題:過去の同情 制限時間:15分 読者:8 人 文字数:278字
良くも悪くも人の考えなんてものはきっかけ一つでコロッと変化してしまう。 故に幼い頃から犬が好きだった私が、隣の家で飼われている犬の鳴き声にうんざりして犬が嫌い 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いしゅと お題:ダイナミックな火事 制限時間:15分 読者:9 人 文字数:1131字
子供の頃、母は兄に厳しく、私にやさしかった。学校のテストで同じ点数を取っても、私は褒められ兄は「もっと頑張りなさい」と叱られた。親族の集まる場所の礼儀についても 〈続きを読む〉

風野 湊の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:風野 湊 お題:ぐふふ、虫 制限時間:15分 読者:263 人 文字数:866字
教室の後ろ側はちょっとした密林になっていた。 もしかしたら、一般的な小学校の教室風景とは若干違うのかもしれない。なにせ僕は別の小学校に通った経験がないから自信 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
物思いの省略 ※未完
作者:風野 湊 お題:東京の任務 制限時間:15分 読者:282 人 文字数:1007字
電車を降りる時、いつも、何かの境界線を跨ぐような気持ちになる。 コンクリートのホームと車両の隙間から僅かに覗く薄暗い闇。眼下には、埃と雨に汚れたスポーツドリン 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:風野 湊 お題:フニャフニャの人間 制限時間:15分 読者:399 人 文字数:1073字
さて、これは私が爺さんから教えてもらったことなんだけどね。村境から森に入って半日も歩くと大クヌギがあるだろう。この中に、行ったことがある奴はいるかい?……なん 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:風野 湊 お題:オレだよオレ、太陽 制限時間:15分 読者:281 人 文字数:503字
故郷から糸電話を引っ張り続けて、もう何万キロメートルになるだろう。 僕の故郷である美しい蒼い星と、僕との間には、ぴんと張った一筋の糸が白々と伸びている。宇宙空 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:風野 湊 お題:苦し紛れのブランド品 制限時間:15分 読者:262 人 文字数:558字
なんてこった。飛行機の予約を間違えた。 男は自分の商売道具だけ持って、空港で茫然と立ち尽くしていた。 南イタリアの田舎町から、もっと商売がしやすそうなアジアあ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:風野 湊 お題:突然の雲 制限時間:15分 読者:243 人 文字数:1381字
吐息が雲に変わるという、そんな意味不明の薬を完成させたと聞いて、久しぶりに先生の研究室を訪ねてみたのです。 まだ馬鹿な研究をやっているんですって、と、笑いなが 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:風野 湊 お題:鋭い略奪 制限時間:15分 読者:263 人 文字数:763字
あまりに細く鋭利な刃で傷付けられると、身体は痛みに気付けないのだそうだ。傷口は視認できない。しかし、それでもしっかりと、組織は傷つけられている。やがて、血液が 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:風野 湊 お題:遅い靴 制限時間:15分 読者:262 人 文字数:978字
「これ、呪いの靴な。履いたら絶対に転ぶし、重いからスピードも出ない。靴紐もすぐに解ける。これを履いて出れば、絶対に、断言してやるけど、紀伊やんが一位を取ること 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:風野 湊 お題:危ない恋人 制限時間:15分 読者:287 人 文字数:709字
アブナイ男しか好きになれない。 そう説明すると、知り合って間もない大体の人間は「ははん」という顔をする。そして言う、なるほどねぇ、振り回されるのが好きなんだね 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:風野 湊 お題:早い克服 制限時間:15分 読者:395 人 文字数:980字
この世界が不幸なのは、誰も彼もがスピードと効率を求めるからだ、間違いない。 通勤快速に詰め込まれたサラリーマンはある朝そう直感し、それが人生の心理であると結論 〈続きを読む〉