お題:小説家の魚 制限時間:15分 読者:414 人 文字数:1030字

さかなつり
「魚釣りに行こうよ」
 うたた寝をしていたら、少年が二人バケツを持ってやってきた。
「でも私たち、竿を持っていないわ」
「竿を探すところからが魚釣りだよ」
 私は少年二人に手を引かれて、淡い緑色の地面を歩き始めた。この二人とはとても仲が良かった気がするが、名前が出てこない。
「でも私、仕事があるから家に帰らないと」
「仕事はオトナがするものだよ。君は女の子じゃないか」
 本当の私は40手前の冴えない男のはずだ。断じて女の子などではない。
「あらそうだったかしら。女の子だったかもしれないわね」
 自然と口から出る言葉は女の子のものだった。服装を見ると白いブラウスに紺色のスカートをはいていた。
「私、女の子だった」
「そうだよ。さあ魚釣りに行こう」
 私たちは黄色い建物の壁を歩いて、細い雨どいをたくさん集めたけれども、すぐに溶けてしまって竿にはならなかった。次に水色の草を集めて棒のようにねじってみたけれども、柔らかすぎて竿にはならなかった。
「ねえ、竿なんて見つからないじゃないの」
「おかしいな、いつもならそろそろ竿が見つかるんだけど」
 少年たちはどこまでも晴れ上がった空の下で立ちすくんでいた。
「そうだ、竿がないなら僕が竿に成ればいいんだ」
「仕方ないね、また竿になってよ」
 みるみる少年の一人が釣竿になった。私たちは彼とバケツを持って川へ向かった。ガラス瓶が沈んでいても見えそうもないほど透明な川の中には、魚が泳いでいる気配は全くなかった。
「魚なんていないじゃないの」
「そうだ、さっきの水色の草を魚にしよう」
 私はふにゃふにゃになった水色の草を川に放した。見る間に草が魚に変わり、生き生きと泳ぎ始めた。
「ほら、たくさん釣るからね」
 少年は餌を付けずに釣り針を川に投げた。きらきらした水色の魚が、釣り針に群がり始めた。
「そうら、釣り上げた。バケツを持ってきて」
 私はバケツを少年のそばにおいた。すぐにバケツは水色の魚で溢れかえった。そうやって数か月が過ぎたころ、川の水も緑色になった。魚は茶色くとけて泥になってしまった。
「あーあ、釣りすぎちゃった。」
 少年は泥の中から金色のきれいな魚を私に手渡すと、バケツと竿を抱えた。
「これやるよ。また遊ぼうな」
 少年が背をむけて、私が魚を戻そうとしたときに目が覚めた。

「そうだ、仕事をしなければいけなかった」
 私は女の子ではなく、小説家だった。
 魚の礼をしなければいけない。
作者にコメント

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