お題:可愛い町 制限時間:15分 読者:1004 人 文字数:1889字

おにんぎょうあそび。
[ジャンル:ファンタジー]

 そこは、甘い町。
 屋根はチョコレート、扉は砂糖菓子。
 庭に生えている木はマシュマロで、その幹は飴でできている。
 もちろんグミの実だってなる、お菓子のほうのね。

 ふわふわピンクでどこを齧ってもおいしい町。
 そこが私の住んでいる町。

 ここではおしごともべんきょうもなあんにもないのよ。


「あら、チィコちゃん」
 近所のおばさんが話しかける。
 ウサギのチィコは、あらひさしぶり、とタヌキのおばさんに答えるの。
「ヨシダのおばちゃん、おひさしぶりですー」
「また大きくなったわねぇー」
 てへへー、っとチィコは照れて笑うのよ。
 そして……。

**********

「えっと、そして……」
「どうしたんだよ、続きは?」
 私たちは今、有名なお人形セットで遊んでいるの。
 動物の住人たちと、かわいい家具が一緒のやつよ。
 去年、サンタさんがくれたの。
 起きたら枕元に置いてあったの、サンタさんっていつも私が欲しいものをくれるのよ、すごいわ!
 ママにはいくら言ってもダメなの、どうせサンタさんがくれるでしょって。
 こういうの、たりきほんがん、っていうんでしょ?

 目の前にいるのは、お隣のシロウ君。
 一緒に何をして遊ぶかで、ジャンケンに買ったから、私はおままごとがいいって言ったの。
 でも、シロウ君はいやだって。
 だから、せっかくのお人形を使って、人形劇をすることにしたの。
 私はこの子たちといつもお話して遊んでるから。

 でもなんでだか、シロウ君の前だとうまく言葉が出てこないの。
 いつもすらすら喋るタヌキのヨシダのおばちゃんも、ウサギのチィコもだんまりよ。

「ええっと……」
「仕方ねぇなあ」
 シロウ君は、近くのイヌの男の子を手にとったの。
「おいおいチィコ、どうしたんだ」
 声をなるべく自分じゃないような言い方で(こういうの、こわいろ、っていうの?)、シロウ君は話し始めた。
 きっとイヌの子をやってくれるのね?
「あらあら、あなたのお名前は?」
 タヌキの、ヨシダのおばちゃんがはじめましての――ううん、本当ははじめましてじゃないんだけど、いつも私が一緒に遊ばせているのだけど、今日は中身が違うから、はじめましてなの――男の子に話しかけるの。
「おいおい、ボケがはじまっちまったのかよオバサン! 俺はタロウって言うんだぜ」
「あらあらそうだったかしらごめんなさいね」
 ヨシダのおばちゃん、かわいそう。何度もぺこぺこと頭をさげているの。
「もういいよ! 俺は今日はチィコと遊ぶ予定があるんだ!」
「あらそうだったの、いってらっしゃい」
 お人形はみんな腕が上下にしか動かないから、ヨシダのおばちゃんは体を全体使って横に揺れる。
 いってらっしゃい、の、ために。
「タロウ君、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
 チィコが、タロウ君と手をつなぎながら答えるの。
 ……つなぐ場所なんてないんだけど、くっついているから、きっとつないでいるのよ。
「自分で考えろよー、お前もたまにはさ!」
「ううーん、じゃあ、タロウ君の好きなサッカーでいいよ」
「おお、いいこと言うじゃないか」
 私は近くのビー玉を、適当に持ってくる。
 そして、公園という設定のマットの上で、それを転がした。
「飴玉のボールなの」
「割れたりしないのか?」
「最強の飴玉だから、大丈夫!」
「最強なら仕方ないな!」
 そして、チィコとタロウ君は一緒にサッカーをはじめるの。
 二人共足は動かせないから、体全部を使って、ビー玉をぶつけ合うのよ。


************

 うちのカオリは内気な子だ。
 あんまり幼稚園でも友達ができないでいる。
 そんな中、ご近所の志郎君は結構うちに遊びに来てくれている。
「おばさんの焼くケーキうまいんだ」
 そう言ってくれて、それを口実にしてくれている子だ。確かに、女の子と二人きりになるというのが分かっていながら遊びに来るなんて、そんな口実でもないと恥ずかしいに違いない。
 あの年でも、男の子は男の子なのだから。

 カオリの部屋からは、楽しげな声が響いている。
 そうっとドアの隙間から中を覗くと、人形を使ってビー玉でサッカーのような遊びをしていた。
 いつもありがとうね、志郎君。
 そう言い出せないカオリの表情は、今もとても笑顔で。親にも見せない顔をしていた。
 買ってあげてよかったわ、あれ。

 私は、中に入らず、そっと部屋の前にケーキとジュースを置いて立ち去ったのだった。
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