お題:思い出の雑踏 必須要素:文学フリマ 制限時間:15分 読者:831 人 文字数:1792字

思い出の雑踏
[ジャンル:現代]


 懐かしい思いを噛み締めながら、私は雑踏を歩く。
 周りの人々は一様に、多少の差はあれどにこやかな笑顔だった。
 手にわたあめを持ってはしゃぐ子供に、いちご味のかき氷を手に恋人と浴衣姿で手をつなぐ女性。
 金魚すくいに興じる親子に、焼きそばをねだる小学生。
 少し視線を見上げればそこには朱塗りの鳥居が見えた。
 懐かしい。そう思って私は星空を見渡した。
 まもなく、花火が始まるはずだ。
 今までの辛辣な表情はほどけ、私はほんのわずかに笑顔となった。周りの朱に染まった白のように。


 私がこの町を離れたのは幼少の頃だった。
 よくあることだ。親の仕事の都合で転勤を繰り返した。
 要領のいい子なら、すぐに友達を見つけるんだろう。そして別れを繰り返すんだろう。
 でも私にはいつも友達ができなくて、親はそれを申し訳なく思っていた。
 私は友達が出来ないのが親のせいだとずっとずっと恨んでいた。
 今考えてみればそれは自分という殻に閉じこもってばかりの私自身が悪かったのであって、子供というのはそういう空気に敏感であるから、自分のそういう場所を薄々と見透かされていたのだろうと思う。
 親は自分を育てるために仕事をしていたはずなのに、感謝こそすれ、罵倒する必要なんて無いはずなのに。
 私は、友達ができなくて体育の時間一人ぼっちになってペアが出来ないことやいつも給食は一人で食べることや休み時間いつも一人で過ごすから必然的に読書量が増えてしまったことを、親のせいにした。

 そんな日々が変わった時があった。
「ちーっすひさしぶりー」
 クラス中か、突如教室に入ってきた生徒を見て湧き上がった。
 周りの生徒の言動を聞く限り、彼は今まで入院をしていた人気者らしかった。
 しかもその原因が、鬼ごっこで鬼から逃げるために二階から飛び降りたというのだから笑えない。
 誰にも媚びず、常識的に考えてありえないそういう行動をする彼は、クラス中の人気モノだった。
「あれ、新顔?」
 彼は私のほうを見て首をかしげる。
 クラス中の女子は、私との距離を測りあぐねていたので、ちょっと気まずそうにしながら彼に私を紹介した。うんうん、と彼はその話を聞くと、突然私の読んでいた(読んだフリをして、彼に関心がないフリをしていた小道具である)本を取り上げた。
「ちょ、ちょっと、何をするの……」
「こんちは、俺タイキって言うんだ」
 にこっ、と笑って彼は手を差し出す。
 どうすればいいか分からなかった。
「なんだよ、ほら」
 彼は強引に私の手をとって、握手をする。
「よしこれで友達な」
 彼は、笑った。


 夏休みが近かった。
 そして近所の夏祭りもまた、近かった。
 みんなは誰と行くか、どこに集まるかの算段をしていたが、私はそれに聞き耳をたてぬようつとめて本を読んでいた。
 すると、突然彼がまた私の本を取り上げる。
「なあなあユカリ。お前はどうするんだよ」
 いつの間にか彼にだけ、下の名前で呼ばれるようになっていた。
「べ、べつに……、一緒に行く人、いないし……」
 お祭りのことだろう、というのは見当がついた。
「んじゃ俺と行こうぜ」
 タイキはクラス中の人気物だから、そんなこと許されるはずがない、私に制裁が来るだろう。
 現にクラスの女子は、じゃあ私たちやっぱり女子だけで行くね、と既に予防線を貼り始めていた。
「んだよ、お前ら冷たいの。んじゃ俺ユカリとデートな!」
 こうして、ふたりっきりのお祭りが決まった。

 始めて、わたあめを食べた。
 始めて、金魚すくいをした。
 始めて、射的をした。
 始めて、かき氷を食べた。
 始めて、屋台の焼きそばを食べた。

「楽しかったか?」
 ひと段落すると、タイキは私に訪ねてきた。石段に腰掛けている。私たちの周りには誰もいない。 見上げればすぐそこには鳥居があった。
「うん……」
「よかった。俺、もういなくなるからさ」
 その言葉は衝撃的だった。
「引っ越すんだ、二学期になるまえに」
 その前に、ゆかりと話してみたかった、と彼は言った。




 あの時のことを、この町に再来して思い出す。
 焼きそば屋の屋台に近づいた。
「へいらっしゃい!」
 あれ、この人は……?
「あれ……もしかして、ユカリ?」

E
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