お題:今度の電撃 制限時間:15分 読者:1015 人 文字数:1656字

※これはフィクションです。
[ジャンル:現代]


 ライトノベルという単語が出来たのはいつの頃だっただろうか。
 それまで小説というのは小説という単語以外は存在しておらず、コラムだとか社説だとか文章に対しての名称は存在していても、文庫に対しては一概に小説と呼んでいた、というのが私の中での常識だった。
 それが覆されたのはもう十数年前だろうか?
 マンガのような世界観を持つ小説を、なのか、書き方が純文学のそれに則っていないものを、なのかわからないが、ライトノベルという言葉が生まれた。
 私がそれを初めて見た時は、何故これが文書として認められるのか、という疑問だった。
 長年純文学に携わってきたものとして、私はそれが度がたかった。


「どう思われますか、師匠」
 勝手に師匠と呼んでいた人がいた。
 師匠は、一人で棋譜を見ながら詰将棋をしていた。
「はて、な」
「こういったものについてでございます!」
 彼は、友人の祖父だ。
 なんとなく親しくなった友人の祖父が尊敬する作家だったときの感動は今でも忘れない。
 その友人は両親が離縁してしまった上に自身が養子に出されてしまったので、母方の祖父である彼にはもうあまり会いに来ることがなかったが、彼を勝手に師匠と崇めていた私は彼のもとに足繁く通っているのだった。
 私は詰将棋をする彼の前にライトノベルなるものを置いた。
「読んだことがないから、わからんよ」
 彼はそれだけ言うと、よいしょ、とそれをどけ、続きを始めた。
「しかし……!」
「お前さんな」
 少し強い語調で、師匠は言った。
「自分の作品が読みもされずに、くらだん素人文だと謗りを受けたら、どうする」
「もちろん怒ります!」
「そうだろう、当然のことだ」
 目と目が合う。きっと睨まれているようだった。蛇に睨まれたカエルのように。
 それだけ言うと、彼はまた詰将棋に戻った。
「まぁ、嘘偽りない自分自身の目で見て、ほかのやつの声なんざ無視してみても、心のそこからそう思うのなら、そうなんじゃろ」
 師匠の言葉は、それっきりだった。

 家に帰ると、私は師匠のもとに出したライトノベルなるものを読んでみることにした。
 自分の中で構築されている文章の構成やら世界観が壊れる気がして読むことだ嫌だった。ゴキブリに触るとバイキンがついて汚くなりそう、そういったのと同じ嫌悪感だった。
 帯のタイトルは、今度の電○文庫はココが違う! といったような煽り文句で、オススメ作品をいくつか書かれたものだった。
「どうせ、マンガの擬音語なんかで文字数稼いじゃってるような幼稚なものよ」
 全ライトノベル作家を敵に回すような発言をして、彼女はページをめくった。


 はじめて来た世界だと思った。
 私は読書をするとき、自分自身を本の世界に投影させる。
 だから、本を”世界”と称して、こう感じるのだ。空気も空も大地も、文によって作られた仮想世界だ。

 その世界は童話のような世界観でありながら、血で汚れた戦場のようであり、だが心は誰しもが無垢で子供で、だからこそ争いの絶えない世界だった。
 誰もが自分のためだけではなく、誰かのために必死だった。そんなことで自分は得しないのに、ということでも人が動いた。若さ故だ、と読者である私は自分を傍観者として安全な近くで見守り続けるだけだ。
 でもいつしか、頬に涙が伝っていることに気づいた。
 何か衝撃的なことがあったわけではない。
 だが一個一個の文章が、セリフが、人の生き様が、全ての話の流れと世界の空気がそうさせた。

 読書を終えたとき、私は久々に新作の映画でヒット作となりそうな作品をいの一番に掘り当てたような、そんな刺激的で好ましい気分に陥っていた。
 そして、やはり師匠は師匠だな、と感じた。

 自分自身の目で見たものしか信じないことは世界が狭いことではあるが、さらに言うなら自分で見ようともしないことはもっと世界が狭いことだ。

 私は、その日からライトノベル蔑視をやめた。
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