お題:打算的な孤島 制限時間:2時間 読者:735 人 文字数:4295字

余裕と打算
超高層ビルの最上階に位置する、とある女が居を構える、禁断の事務所。
天空の孤島、探偵の隠れ家、隔離された牢獄・・・。
いろんな人が、いろんな呼び方をするこの場所。
今日もまた、大金を片手にやってくる人間が、ここへ。



【余裕と打算】



エイリ「あ~あ、退屈だ。」

机に並んだ3台のPCモニターには、twitterやらメールやらを管理するウィンドウ。
また、机そのものに埋め込まれている液晶ディスプレイには、どこかの映像。
いくつかに分割されたその映像を、肘をつきながら眺める。
いつもの行動。

コヨミ「そう言いつつ、随分と楽しげに見えますが?」

紅茶の入ったカップを机に置いた、燕尾服の若い男。
彼はコヨミ、コヨさんという。
手術すれば治るケガを放置されて、自殺しようとしていたところを私が拾った。
元々どこぞのお偉いさんのところで執事をしていたらしく、
助手が欲しかった私にとってとても好都合だった。

エイリ「まぁね。まぁた物好きで低脳な人間がやってきたんだよ。」

コヨミ「おや、それはそれは。今回はおいくらほどでしょう?」

エイリ「アタッシュケースを持ってる屈強そうな男が5人。
   クスッ、1000万じゃくだらないかもね。」

コヨミ「すぐに茶菓子を・・・」

エイリ「いいや、いらないよ。食べる暇もなく退場することになるから、さ。」

コヨミ「!・・・では、エイリ様のためにケーキを。」

エイリ「ん、ありがと♪」

紅茶を一口喉に通し、再びディスプレイに目をやる。
分割された映像の1つに、エレベーター内の様子が映っている。
ここへ一直線にやってくるエレベーター。
女が2人、男が5人。
黒いスーツにサングラス、完璧にSPね。
さぁ、商売開始だ。



コンコンッ。

エイリ「コヨさん、開けてあげて。」

コヨミ「はい。」

コヨさんに頼んで、扉を開けてもらう。
長い長いエレベーターを昇ってきた7人の男女が、部屋の中央へと進む。
若い女が2人・・・おそらくは、依頼人。

エイリ「ようこそ、私の城へ。ここがどういうところだか、ご存じで?」

マキ「わかってるから、来たまでよ。あなたに依頼があってきたの。」

やや強気に見える女が答える。
隣にいる女は、幾分か弱気に見える。
こういうタイプ差を見る限り、何をしに来たかくらい容易に想像できる。
後ろのSPも、そのためのものだろうからね。

ミナ「あ、あの・・・た、探偵さん、なんです、よね・・・?」

エイリ「フッ、そうね。公には、『探偵』の名で通ってるわ。腕利きの♪」

ミナ「っ、お願い、します!助けてください!」

エイリ「ほう?『助けて』、か。ご用件をうかがいましょう。
   と、まずは自己紹介から。」

余裕を着飾ったまま、優雅に紅茶を飲む。
カップの中身が空になったのに気付き、すぐさまコヨさんがポットを持ってきた。

マキ「私はマキ。こっちはミナ。最近、ミナが誰かに襲われてるの。」

エイリ「襲われてる?たとえば?」

ミナ「・・・誰かに、後をつけられたり、電車が来る時、急に背中を押されたり。
   それと、この前・・・・・」

すると、ミナという女が、カバンから手紙を取り出した。
コヨさんに仲介してもらって、手紙を確認する。
何かの記事の切り抜きで作ったらしい、脅迫文章。
随分とまぁ手間のかかること。

ミナ「お願いします、犯人を見つけて下さい。」

マキ「アンタ、腕利きの探偵だって自分で言うくらいなんだから、できるでしょ?」

エイリ「ふむ。・・・値は張りますが?」

マキ「・・・・・。」

人を煽るような態度を崩さず、あくまで仕事の話をする。
マキという女が右手を軽く上げると、SPの男たちが一斉に前へ出た。
そして、殆ど同時にアタッシュケースを開く。
中身は・・・・・

エイリ「・・・・・なるほど。」

マキ「アンタの腕を見込んでのことよ。やってくれるでしょ?」

エイリ「そうですねぇ~・・・」

ミナ「た、足りない、ですか・・・?」

エイリ「いや、十分ですよ。まさか、小切手で5億円いただけるとは。」

悪くない値段だった。
頑丈そうなアタッシュケースに、1億円の小切手が1枚ずつ入れられていた。
しかし、それだけの金を、わざわざストーカーじみた人間を探すためだけに
支払うとは、到底思えるわけもないし、思うほど私も馬鹿ではない。

エイリ「早速準備しましょう!では・・・コヨさん。」

コヨ「はい、エイリ様。」

コヨさんに合図を送り、マキとミナを窓際に立たせる。
全方位を眺められる窓の近くは、高所恐怖症の人なら足がすくむことだろう。

ミナ「あ、あの、なに、を・・・・」

エイリ「何って、犯人探しですよ?」

ミナ「え?」

エイリ「あなたの依頼じゃないですか。『犯人を見つけて』って。」

ミナ「そうは、言いましたけど・・・・・」

エイリ「今から答えを出しますよ。ね、マキさん?」

マキ「!・・・・・。」

SPは、さっきの場所から動いていない。
私は2人から距離を置き、コヨさんも下がらせた。
あとは、リモコンのスイッチを、軽く押すだけ。

ミナ「きゃああっ!?」

マキ「なっ、なに!?」

エイリ「何って、窓が開いただけですよ?ここ高いから、風が強めですけど」

2人の目の前にある窓が開け放たれ、部屋に風が舞い込む。
思わず身構えるミナに対し、マキはミナの後方へ少しずつ移動した。
これから何が起きるか。
そんなもの、彼女たちがここへ来る道中で、すでに察しがついている。

マキ「・・・サヨナラ、ミナ・・・!」

ミナ「え、マキ、いま何・・・ぁっ、いやああああああああああああ!!!!!」



ミナが窓の外へ押し出された。
マキがミナの背中を突き飛ばしたのだ。
それを見届けた後、当然のようにリモコンのスイッチを押し、窓を閉める。
ソファーに座った私の元へ、マキがゆっくりと歩いてくる。

マキ「よくわかったわね、私の目的が。」

エイリ「ここにくる人間は、大抵歪んでるからね。それでいてとても打算的。」

マキ「クスッ、だったら・・・次の展開は、予想できるかしら?」

マキが指を鳴らすと、SPが一斉に拳銃を構え、私へ向けた。
何も驚くべきことではない。
全て予想通り、予定通り。
いつでも私は、余裕綽々。

エイリ「どれだけあなたは、さっきの子が嫌いだったんだろうねぇ?」

マキ「全てよ。あの子ばっかりチヤホヤされて、男に言い寄られて・・・
   あの子ばっかり良い思いしてた!だからよ!」

エイリ「それで?私を消すのか?」

マキ「・・・消してもいいし、取引次第よ。」

エイリ「ほう、取引?一体どのような?」

優雅に足を組んで、笑顔のまま彼女を真っすぐに見る。
若干だが、彼女に焦りや劣勢さが見られる。
それでも負けじと、彼女は口を開いた。

マキ「今ここからミナが落ちた、ということは、殺人容疑はアンタにかかる。
   アンタが殺人罪を被ってくれるなら、お金は払ってあげる。
   でも、被ってくれないというなら・・・・」

エイリ「ここで死んでもらって、事務所ごともらう。」

マキ「ククッ、なんだ、わかってるんじゃない。」

エイリ「それぐらい簡単なんだよ。あなたみたいなバカの思考を読むのは、ね。」

マキ「っ、なんですって?」

悠然と立ち上がり、彼女の方へ歩み寄る。
思わず後ずさりするのが見えたが、2歩ほど下がっただけで止まった。
あぁ、もう逃げるチャンスはなくなってしまった。

エイリ「言ったでしょう?ここにくる人間は歪んでいて打算的。
   もちろん、ここに居を構えている私もまた、打算する人間。」

マキ「っ!?」

エイリ「悪いけど時間切れ。お金は約束通りもらう。そしてあなたは・・・・・」

その時、バタンと大きな音を立てて、部屋の扉が開かれた。
次々と現れたのは、武装した警察と思しき男たち。
SP共々、武器を奪われ、すぐに拘束された。
あぁ、小切手の入ったアタッシュケースは確保済み。

マキ「卑怯な!いつのまに警察なんて・・・!」

エイリ「あなたたちがエレベーターに乗っている間に呼んでおいたのよ。
   私、自分が得をしない道は選ばないの。
   常に損得を考えて行動する、それが私。
   あなたは、先読みされることを危惧していなかった。
   ここは孤島、持ち込んだもの以外に頼れない場所。
   孤島の主が、外来に圧倒されるわけないのよ。」

マキ「くそっ!離せ!離せぇえええ!」

エイリ「クスッ、ちょうど退屈だったんだ。・・・せっかくだから、もう1つ。
   そいつら、警察じゃないんだよ。」

マキ「え・・・?」

コヨミ「先ほど、裏社会で暗躍している武装組織から幾人か、呼び寄せました。
   血に飢え、性欲にも飢えていることでしょう。」

マキ「ま、さか・・・そんな・・・・うそでしょ・・・・・!?」

エイリ「地下にある拷問部屋、使い終わったらお掃除お願いね?」

マキ「待って!アンタ、狂ってる!そんなことすれば、アンタだって・・・!」

エイリ「言ったでしょう?ここは私の島よ。私がルール。
   それと、人を殺したあなたの方が、ずっと狂ってる。」

私が指を鳴らすと、マキとSPたちは引きずられるように部屋を出ていく。
その間、マキの悲鳴が、エレベーターのドアが閉まるまで、響き渡っていた。



エイリ「ま、退屈しのぎにはなったかな。」

紅茶のおかわりと、甘いケーキをいただきながら、一息つく。
損得で動くこの打算的な孤島へ足を踏み入れるああいう馬鹿者は、
痛い目を見るのがオチだと相場が決まっている。
これでしばらくは、金のために仕事を引き受ける必要がなくなった。

エイリ「やれやれ、まぁた退屈になったな。」

コヨミ「面倒事がお嫌いなエイリ様には、都合がよろしいのでは?」

エイリ「クスッ、そうかもね♪コヨさん、ケーキおかわり頂戴」

コヨミ「かしこまりました。」

人間の命も金も、容易に搾取できるし、消費できる。
私の損得のためだけに、弄ばれて、散ってゆけばいい。
机のディスプレイには、地下室に運び込まれたマキが服を剥がれ、
今まさに凌辱を受けようとしているところだった。

エイリ「かくも人の不幸は、甘美なれば。」





The End.
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