お題:神の神様 制限時間:2時間 読者:803 人 文字数:3796字

神から作られたモノ
「ねぇ、知ってる?天界を治める神にも、神様がいたんだって。」

それは、あまりにも唐突な話題だった。
さらに言うなら、意味不明だった。

『・・・・は?』

俺は思わず、言葉にならない返答を投げた。
話題を振ってきた相手、ミシェルに。

「ちょっとわかりにくかったかな?」

『いや、分かりにくいどころか、わかんなかったから。何、どういう意味?』

「だから、俺たちが神として崇めている存在にとっても、神様って存在がいたんだよ。」

『・・・・・ん?』

言葉は単純なのかもしれないが、並べ方が複雑すぎてイマイチ理解にまで至らない。
眉間にしわを寄せ、必死にミシェルの言葉を理解しようとする。
しかし、ミシェルが言葉を変える方が早かった。

「じゃあこうしよう。
 俺たちにとっての神は、名をヤハウェという。
 そのヤハウェにとっての神を、神様と呼ぼう。
 これならわかるかな?」

『う~ん、一応。つまり、上には上がいるって言いたいのか?』

「クスッ、ちょっとだけ近づいたかな。」

ミシェルは笑顔で答えた。
いきなり話題を振っておいて、答えにたどり着くまでがやたらと長いとか・・・
一体何が目的なんだ?こいつは。

「ねぇエル。ヤハウェにとっての神って、どんな存在だったか、わかる?」

『は?う~~~ん・・・・神の神様だろ?つーか、そんなことあり得るのか?』

「え?」

『全知全能の神が、この方は神様だーって思えるような存在が現れるなんて。
 俺はむしろその存在を疑うって。』

「・・・うん、そうだね。人間なら、そう思って当然だよね。」

『どうしたんだよ急に。話題も突発だし、お前のテンションもおかしいし・・・』

何とも言い難い笑顔を浮かべているミシェル。
最初は楽しそうで、今は少し悲しそうで。
いくら友人とはいえ、ここまで微妙な落差があると対応に困る。

「・・・・・エル。僕達は・・・いや、君はどうしてここにいるの?」

『はぁ?』

「君は、どうしてここにいるの?なぜここで、生きているの?」

また唐突な質問。
なんだ、哲学とか宗教とか、そんな小難しい話でもしたいのか?
正直面倒なことはしたくないが、無視しても意味がなさそうに思えてきた。

『~~~、そりゃあ、両親が・・・』

「それよりもっと前。大前提として、信じられている事。」

『大前提?えっと・・・・なんだ、創世記にまで戻るのか?』

「うん、そう。」

『・・・アダムとイブが作られて・・・』

「そう、最初に人間が生まれた。」

『有名な話だな』

「じゃあ、人間を作ったのは?」

『・・・・神。さっきの続きで言うと、ヤハウェ。』

面倒な問答の末、ようやく欲しかった回答を得られたのか、ミシェルの口角が上がった。
コイツは俺に何を言わせたいんだか。

「そう、ヤハウェが人間を作った。自らの姿に似せて作った。自らの劣化版・・・だった。」

『ミシェル?』

ふとミシェルの声色が変わったかと思えば、今度は笑顔が消えた。
真剣な眼差しで俺の方を見ている。
その視線に、心なしか背筋が凍る感覚を覚えた。

「神にも誤算は付き物だ。ヤハウェは、その誤算に突き動かされ、堕ちてしまった。」

『堕ち、た?どういうことだよ?』

「神は、天使と人間との交わりを禁じた。
 低俗な悪に染まった人間と、潔白無垢な天使が交わることを。
 それでも、人間と交わることを望んで堕天する天使はいた。
 やがて、ヤハウェまでも・・・」

『はぁ!?おまっ、何言ってんだ?何、神話の捏造、とかか?』

「・・・・僕はあくまで、真実を言ってるよ、エル。」

静かに言葉を連ね続けるミシェルに、混乱させられっぱなしの俺。
話の流れが全く読めない上に、ミシェルの言葉には不明な点が多すぎる。
しかも、なぜか話題を逸らせない自分に、違和感を感じる。

「ヤハウェは、人間にあって自分にはないものに憧れてしまったんだ。
 普遍こそ真理、全知全能こそ至高と謳われていたヤハウェが。
 神の堕天なんて、ありえないはずだった。
 だが、実際に起こってしまった。
 誰も神の堕天を止めることはできなかった。
 でも・・・天使たちは知っていたんだ。
 自分たちも、人間と同じように、神に作られた存在であること。 
 そして、人間を神として天界へ招く術(すべ)を・・・!」

『ぅあっ!?』

突如吹き荒れる風に、思わず目を伏せた。
風はほんの数秒で止み、ゆっくりと目を開く。
すると、いつの間にかミシェルが、俺の目の前に立っていた。

「ねぇ、エル。」

『な・・・ん、だよ・・・』

「人間は、神に似せられて作られた存在だ。」

『そ、そう、かもな・・・・って、お前がさっき言って・・・・』

「神はね。人間に憧れて堕天した。その際、数多の天使から批判を受けた。」

『・・・・・』

「そして天使たちは神から、全知全能という力を奪い取ったんだ。」

『!?』

寂しい笑顔で、ポツリポツリと言葉が紡がれる。
あまりにもか細い声だから、下手に口をはさむと聞き逃してしまいそうだ。

「力を奪えたということは、それを手に入れれば誰でも神様になれるかもしれないって、
 天使たちはそんな確信を手に入れた。
 けれど、力を宿すことのできる器は限られている。
 天使ではダメだった。
 神に似せられたにも関わらず、神の力を宿すことはできなかった。
 だが・・・人間ならどうだろう?」

『・・・人間も、神に、似せられて・・・』

「そう。神が自らに似せて作ったんだ。
 でも、同じにしたわけじゃないから、2つの違いが生まれたよ。
 1つは普遍性の欠落。
 もう1つは、進化。」

『しん、か・・・・』

「人間は進化する。そして変わっていく。
 変わることを知らなかった神は、変化を知ってしまった。
 変化してしまったんだ、神自身が。
 それは、神ヤハウェにとっての神様が生まれた瞬間でもあった。
 自ら生み出したものが、神様になってしまったんだよ!
 ・・・神を失ってしまったら、全ての世界がバランスを崩し、天界が堕ちてしまう。
 壊してしまうわけには、いかないんだよ。」

おかしい。
ミシェルの言っていることは、俺たちが神話や聖書と呼んでいる存在の知識のはず。
なのに、ところどころそれと異なる話が出てくる上に、まるでミシェル本人が、
その目で直接事の全てを見てきたかのように話している。
明らかに正常ではないミシェルの様子に、俺は体を硬直させていた。
するとその時。

「エル。僕は君が好きだ。」

『な、み、ミシェル?』

また、いきなり・・・。
縋るような目で、辛そうな笑顔で、俺の両肩を掴んでいる。
ダメだ、上手く言葉を紡げない。
次に何を言うべきか、今のミシェルを振り払う行動がとれない。

「でも、君は人間だ。人間なんだよ。」

『・・・?』

「人間と僕らは、交わっちゃいけない。君と心を通わせてはいけない。」

『なに、いって・・・』

「でも、君が神様だったら・・・それが許される。」

『!?』

「やっと君を、天界へ招く準備ができたんだ。さぁ、エル・・・・」

急変しようとした展開が、やっと俺の頭と体を動かした。
俺の身体を抱き寄せようとしたミシェルを、両腕で突き放す。
ほんの少しだけとれた距離を警戒しながら、震える口をやっとの思いで動かした。

『なんなんだよ、お前・・・!俺を天界へ招く?わけわかんねぇよ!!!』

「そのままの意味だよ、エル。僕がどうして、君の傍にいたのか、今話したじゃないか。」

『全然理解できねぇっての!なんなんだよ、悪い冗談ならもうやめてくれ!』

「あぁ、わかりにくかったか・・・うん、そうだね。
 神の力は、天界に行かないと覚醒しない。
 人間の君じゃ、難しかったね。」

頭が痛い。
コイツの言っていることはタチの悪いジョークか、はたまた悪質なドッキリか。
それとも、真実か。
一番最後の可能性だけは、消し去ってしまいたい。
動かしても動かしても、ミシェルの真意が読めなくて、逃げようにも足が動かない。
せっかく離れたのに、徐々に歩みを詰められ、あっという間に腕を掴まれた。

「ねぇ、エル。」

『やめろ、離せ・・・離せ・・・!!!』

「僕はず~っと、君の傍にいた。君の隣にいた。君はその理由を、どうしてわからないの?」

『やめろ!離せ!』

「あぁ、そっか。自分のものだけど、他人の方が良く使うからね。」

『ミシェル、なんで・・・!離してくれよ!!!』

「教えてあげるよ、エル。僕が、君の傍にいる理由。」

ゆっくり、時間を惜しむような速さで、俺はミシェルの腕の中に捕らえられていく。
ミシェルが怖い。
嫌だ、何も聞きたくない。
次にミシェルの言葉を聞いたら、何かが壊れてしまいそうで。
なのに、俺の身体は、何の抵抗もできなくて。
今すぐ耳を、耳を塞ぎたい。
この場から、逃げ出さなきゃ、いけなかった、のに。

「人間は神の名をむやみに口にすることを良しとしなかった。
 だから人間は、様々な言葉で神を呼んだ。
 ・・・ね、『エル』?」





The End.
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