お題:ねじれた出会い 制限時間:2時間 読者:700 人 文字数:1926字

放してくれ
「く、来るな!俺に触るな!!!」

それが、ソイツに初めて会った時の、第一声だった。



真っ暗な部屋、鉄格子、冷たいコンクリート。
金のために売り飛ばされた俺は、ここで飼い馴らされていた。
日常的に与えられる暴力。
それでも自我を手放すことはできなくて、やがて強すぎる警戒と恐怖が芽生えた。
人間は俺を傷つける、暴力を振るう、酷いことをする。
他の鉄格子の中にいる奴で、何人かがどこかへ連れて行かれるのを見た。
たぶんここは、人身売買か何かをしているんだと思う。
壊れない程度に痛めつけて、買い手が現れたら暴力を止める。
そして買われなかったら、また暴力。
身体も心もボロボロになって、俺は部屋で横たわってばかりだった。
外の世界も時間も、覚えてない。



ソイツが来たのは、買い手が現れたらしい頃だった。
暴力は一時的に止んで、傷が少しずつ治り始めていた。
急に周りが騒がしくなって、俺に暴力を与えていた男が連れて行かれた。
武器を持った人がたくさんなだれ込んできて、わけがわからなかった。
人がたくさん、人は怖い、人は俺に酷いことをする・・・。
恐怖が頭を占領していると、不意に鉄格子の扉が開いた。

『もう大丈夫だ。さぁ、おいで。』

その声は、優しかった。
けれど、俺は何よりも人が怖かった。
差し伸べられた手でさえも、恐怖の対象でしかなかった。

「く、来るな!俺に触るな!!!」

恐怖のあまり、部屋の壁際へ逃げる。
ソイツは驚いた顔をしたが、逃げた俺を追うように近づいてきた。

『大丈夫。君を助けに来たんだ。悪い人はもういないよ。』

「違う!お前だって悪い奴だ!俺に暴力を振るう、酷いことをする!」

『!・・・そっか・・・たくさん暴力を受けてきたんだね。』

「っ・・・・」

その目には、哀れみの情があった。
それでも、俺の身体は、人に触られることを恐れ、震えが止まらなかった。

『でも、ここにはもういられない。
 せめて外に出よう。
 しばらくは保護下にいなくちゃいけないけど、いずれ自由になれる。
 さ、行こう。』

ソイツが優しい人間だってことくらい、すぐにわかった。
ただ、暴力を受けていた期間が長すぎて、身についてしまった警戒心ゆえに、
いきなりソイツにすがることはできなかった。
壁を利用して、傷だらけの身体を無理やり立たせた。
4日前に作られた痣が、身体を動かすたびに悲鳴を上げている。

『歩ける?辛かったらすぐに言うんだよ?』

「・・・・・。」

正直言うと、辛かった。
立っているのもやっとだった。
ソイツは俺の少し前を行くように、鉄格子の扉付近まで移動した。
後を追おうと、慎重に足を動かす。
一歩、また一歩。
踏み出すたびに身体が悲鳴を上げ、足は殆ど引きずっている状態。
もう少しで鉄格子を掴める、あと3歩、2歩・・・

「ぅぁっ!?」

『っ!大丈夫かい!?』

「ぁ・・・あ・・・・・・っ、ぅ・・・・!」

足がもつれて、倒れた。
間一髪でソイツが前に出て、俺の身体を受け止めてくれた。
人に触られている・・・人に・・・・俺が・・・・・!

「は、放せ!触るな!離せ!!!」

『こら、暴れたら傷に響くよ!』

「嫌だ!人に触れたって、痛いことしか・・・!」

『!』

簡単に押さえ込まれてしまうだろう程度の力で必死に抵抗した。
人という感触が、ぬくもりが、あまりにも怖かったから。
でも、ソイツは・・・放すどころか、逆に俺を抱きしめてきた。

『大丈夫。大丈夫だよ。もう、怖くない。』

「っ!?」

唐突な出来事に上手く考えられなくなって、気が付いたら体の震えが止まっていた。
どうしていいかわからなくなって、動けなくって。

『いっぱい痛かったね。怖かったね。今だって、辛いだろう?』

なんなんだよ、なんで・・・・俺は、拒絶したんだぞ・・・・

『大丈夫だから。少なくとも、俺は君を蹴ったり殴ったりなんてこと、しないよ。』

ボロボロで、汚れてる俺に、なんで優しくしてくれるんだよ。

『もう、辛いことを我慢しなくて、いいんだよ。』

「・・・っ、ぁ・・・・ぅ・・ああ、あああああああああああああ!!!!!」



明らかにねじれた出会い方をしたと、今でも思う。
もちろん、ねじれていたのは、俺の方。
人を信じず、人を恐れ、人から逃げようとした。
そんな俺を、ただ優しく抱きしめて、優しく声を掛けてくれて。
腕の中で泣きじゃくる俺の頭を、優しく優しく撫でてくれた。
俺のねじれを直してくれた。
ねじれが直った先に見えたのは・・・・・俺の、自由だった。





The End.

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