お題:黒い祖父 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:2時間 読者:708 人 文字数:2208字

黒服の祖父さん
俺の祖父さんは、いつも真っ黒な服を着ていた。
最初は、全然気にならなかった。
けど、和服も洋服も、なんでもかんでも真っ黒だったのが、最近になって不思議に思い始めた。
両親と祖母さんは俺がガキの頃、事故で死んじゃったから、今の俺は祖父さんの子。
祖父さん以外の親族なんて知らないし、顔も名前も知らないし、情報はゼロ。
家には時々祖父さんの仕事関係の人が来るけど、俺との接触は殆ど無し。
さて、どうしたものか。

「ん?何か用か?」

祖父さんの黒服姿を凝視していたら、気づかれた。
祖父さんって割りには、周りには若く見られることが多いその外見。
髪も白髪なんて無くて、染めてもいないのに真っ黒。
俺の髪の黒さも、絶対祖父さんに似たな。

『なぁ、祖父さん』

俺は、ついに聞いてみることにした。

『祖父さんは、なんでいっつも黒い服ばっか着てんだ?』

単刀直入に、率直に、悪意なんて欠片ほども無い、純粋な疑問を投げかけた。
すると、祖父さんは一瞬目を丸くした。
しかし、すぐに笑みをこぼした。

「大した理由じゃあないさ」

『なら、どんな理由?』

「気になるのか?」

『うん』

祖父さんと孫の会話。
孫と言っても、もう今年で爺さんの晩酌に付き合えるようになる年齢。
今更な質問だっただろうが、祖父さんは呆れるどころか、笑顔を浮かべたままだった。

「俺はな。・・・誰かになるのが、嫌だった。」

『誰か?誰かって?』

「他人ってことだよ。」

『???』

意味不明というより、理解不能状態。
俺がバカなのかもしれないが、祖父さんの使った言葉が単純すぎてわからなかった。

『自分は自分なんだから、他人にはなれないんじゃね?』

「そうだろうがな。それでも、いつか俺は俺じゃなくなっちまうんじゃないかって、不安だった。」

祖父さんは自嘲気味に寂しい笑顔を浮かべ、言葉を連ねた。
俺の前では、あんな弱気な祖父さんを見せたことなんてないくせに。
なんで今日に限って、そんな顔・・・・

「周りにはいろんな人がいた、他人がいた。
 その中に俺がいて、俺という存在は確かにあった。
 けど、いつか他人に紛れ込んで、自分がなくなってしまう気がした。
 杞憂と言えばそれで済む話なんだが、俺の場合は、杞憂じゃ終わらなかった。」

『・・・それで、黒い服?』

「光を除いて、いろんな色を混ぜてりゃいずれ黒に近づくが、
 黒から他の色に近づこうっつっても難しいし、
 黒にどんな色を足しても、黒は黒のまま。
 ほんのちょっと他の色を帯びることはできるだろうが、
 黒っつー本質は変わらない・・・いや、変わらなかった。」

『何それ、祖父さんの実体験?」

「ガキの頃、絵の具で色を混ぜたりしなかったか?」

『あー・・・なるほど。あったあった」

「黒って色が、絶対に自分の存在を曲げない強い色だってわかった。
 そん時から、俺が消えないように、俺が他人にならないようにって、
 黒い服を着るようになった。
 まぁ、おまじないみたいなもんって言えばわかるだろう。」

一区切りつくころには、祖父さんはやや自慢げに語っていた。
自分の存在の主張・誇示のための、黒。
黒を強い色と表現した祖父さん。
祖父さんを見ていたら、俺にもそう見えてきた。
昔から祖父さんは、強かった。
仕事でもプライベートでも、トラブルや問題が起こっても殆ど激情しないで対応する祖父さんを、
俺はカッコいいと思っていた。
感情的にならない、暴力沙汰はノー、女子供・お年寄りには親切に。
中を覘けば、確かに祖父さんの良さはわかるだろうが、何よりも。
黒い服を着た祖父さんは、しっかりと自分の存在を主張していて、
あまりにもはっきりとした存在感に、俺は少なくとも存在の強さを感じていた。

『今でも、他人になるかもしれないって思って?』

「いいや。クセになってるってのもあるが、別の理由も」

『なんじゃそりゃ』

祖父さんは座っていた椅子から立ち上がり、飾ってあった写真立てを手に取った。
ソファーに座っている俺に渡された写真立てには、若い頃の祖父さんと祖母さんが映っていた。
・・・・・さっぱりわからないので、祖父さんに説明を求めた。

『どゆことなの』

「白黒でもわかるだろ」

『・・・祖父さんは黒い服で、祖母さんは白のワンピース』

「そうだ、その通り。」

『これのどこが理由なんだよ』

意味が分からない。
すると、祖父さんはやや照れくさそうにこう言った。

『お前の祖母さんはな、白が好きだった。
 白が良く似合う人だった。
 黒が最も近づきやすい、他の色。
 けど、その間にあるのはグレー。
 白・黒、どっちともつきがたい色。
 交われば、どっちの色だとも主張できる。
 番(つがい)になれる、唯一の相手だった。』

俺の記憶に残っている限りでも、祖母さんは白い服を好んで着ていた。
そうか、祖父さんは祖母さんと対称的にするために・・・

『そんなアイツに、紺のスーツを着た時に言われたんだよ』

「なんて?」


[あなたの色は黒では?黒い服の方が、もっとカッコいい。]


どうやら、惚気話だったらしい、うん。
しかし、その日から俺がダークグレーの服を好んで着るようになるには、十分な理由だった。





The End.
作者にコメント

似た条件の即興小説


ユーザーアイコン
作者:備忘録 お題:帝王の僕 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:2時間 読者:56 人 文字数:2541字
僕達は、ほとんど人が来ない盆地の村に生まれた。村にとっては初めての双子だ。何故か僕たちは昔の愛し合った二人になぞらえられて、僕はアルタイルと、妹はベガと名付け 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:いさなな お題:絶望的な視力 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:2時間 読者:163 人 文字数:3215字
ウオッチ・ブラックは腕のいい医者だった。患者に見事な手術を施す彼は“魔法使い”と呼ばれ、その手にかかればどんな難病も見事に完治してしまうと評判で、彼の元には世 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:松ちゃん お題:大人の土地 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:2時間 読者:144 人 文字数:1793字
今となっては懐かしい思い出だが、私は小学生の時職員室を『大人専用の場所』だと思っていた。あそこに立ち入れるのは大人だけであり、子供(生徒)はその入り口までしか 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:謎の発言 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:2時間 読者:278 人 文字数:433字
あいつは何者なんだろうか俺にはまるでわからないただ、わかるのはあいつの言ったあの言葉意味も気持ちも何も伝わらないが、確かにこの耳でその口から出た言葉は受けとった 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:疾楓迅蕾 お題:恐ろしい光景 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:2時間 読者:298 人 文字数:4751字
私がその時見たものは、なにか、光のようであった気がするし、闇のようであった気もする。とにかくただひとつはっきりしていたことと言えば、私がそこにいた、確かにそこ 〈続きを読む〉


ユーザーアイコン
作者:puzzle お題:清いつるつる 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:2時間 読者:389 人 文字数:928字
冬が好きだ。特有の澄んだ空気をいっぱいに吸い込んだ時の肺を突き刺すような感覚もたまらない。新雪に自分の足跡を最初につける行為もマーキングではないが、ちょっとした 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ろむ お題:清いつるつる 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:2時間 読者:316 人 文字数:256字
子どもの頃から続けている妙な習性が私にはあった。密かにため込み、毎年着実に増え続けるラムネのビー玉。青ではない、水色とも言えないあの色がたまらなく好ましかった。 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:匿名さん お題:死にかけの娼婦 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:15分 読者:10 人 文字数:163字
顔のない男と目が合った。顔もないのにどうやって目を合わせられるんだ、と思うかもしれないが、たしかに目が合ったのだ。 僕は体を熱くし、全身を作り変えられるのを直に 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:絹糸 お題:茶色い車 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:4時間 読者:34 人 文字数:2043字
ティノとミアーノは、双子の兄弟でした。二人はいつも眠れない夜を過ごしていて、そんな夜には良い夢が見られるように、夢のようなお話をし始めるのです。「ティノ、ぼくは 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ハチマル お題:人妻の深夜 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:30分 読者:74 人 文字数:712字
私はどこにでもいる主婦だ。夫とはお見合い結婚で結婚した。今、彼は地方へ単身赴任をしている。だから、私は暇さえあれば、いつだって本性に戻れる。しかし、昼日中から 〈続きを読む〉

ほにゃら隊長の即興 小説


ユーザーアイコン
作者:ほにゃら隊長 お題:疲れたカリスマ 制限時間:2時間 読者:984 人 文字数:2040字
「はぁ~。」時刻は、午後9時を回ったところ。住宅街にたたずむちょっと大きな一軒家に、その男は帰ってきた。リビングに現れるなり溜め息を漏らす、長身・黒髪ショートの 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ほにゃら隊長 お題:騙された紳士 制限時間:2時間 読者:640 人 文字数:2823字
『濡れ鼠にご用心』大雨の降り注ぐ晩夏の夜、ずぶ濡れの少女はうずくまっていた。所持品は、纏っている衣類以外になく、ただ暗雲の広がる空を睨むように見上げていた。「風 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ほにゃら隊長 お題:暑い凶器 制限時間:2時間 読者:703 人 文字数:1456字
「あづ~・・・・・」季節は夏、誰もが猛暑と呼ぶ時期。日差しという名の凶器を常に突きつけられ続け早十数分。この凶器はヤバイ、痛い、暑い。と、うなだれていてもどうに 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ほにゃら隊長 お題:シンプルなブランド品 制限時間:2時間 読者:775 人 文字数:2855字
私は、知っている。あのお淑やかで物静かで控えめな美少女、霧咲純(きりさき じゅん)が、とある大企業の社長令嬢であること。しかし、彼女がブランド品らしいブランド品 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ほにゃら隊長 お題:今年の発言 制限時間:2時間 読者:725 人 文字数:2432字
突然呼び出された10畳半のとある一室。俺を呼び出した奴は、高らかにこう告げた。浩介「新年!明けました!!!」当然のことながら、俺は次の言葉に詰まった。なぜならば 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ほにゃら隊長 お題:打算的な孤島 制限時間:2時間 読者:756 人 文字数:4295字
超高層ビルの最上階に位置する、とある女が居を構える、禁断の事務所。天空の孤島、探偵の隠れ家、隔離された牢獄・・・。いろんな人が、いろんな呼び方をするこの場所。今 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ほにゃら隊長 お題:彼の私 制限時間:2時間 読者:885 人 文字数:4469字
彼にとって、私は所詮、一介の一般人でしかないのだろう。そんな考えを持ってからというもの、私の中から、恋の芽が育つ肥沃な土が消えた。彼は近所に住むお兄さんで、いわ 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ほにゃら隊長 お題:神の神様 制限時間:2時間 読者:826 人 文字数:3796字
「ねぇ、知ってる?天界を治める神にも、神様がいたんだって。」それは、あまりにも唐突な話題だった。さらに言うなら、意味不明だった。『・・・・は?』俺は思わず、言葉 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ほにゃら隊長 お題:ねじれた出会い 制限時間:2時間 読者:741 人 文字数:1926字
「く、来るな!俺に触るな!!!」それが、ソイツに初めて会った時の、第一声だった。真っ暗な部屋、鉄格子、冷たいコンクリート。金のために売り飛ばされた俺は、ここで飼 〈続きを読む〉

ユーザーアイコン
作者:ほにゃら隊長 お題:黒い祖父 必須要素:文を動詞の現在形で終わらせない 制限時間:2時間 読者:708 人 文字数:2208字
俺の祖父さんは、いつも真っ黒な服を着ていた。最初は、全然気にならなかった。けど、和服も洋服も、なんでもかんでも真っ黒だったのが、最近になって不思議に思い始めた。 〈続きを読む〉